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同級生


 レオと婚約してから、度々お茶会に誘われるようになってきた。

今日も侯爵家の令嬢にお茶会に誘われているため、その令嬢の家にやって来た。

付き添いは侍女だけだ。

ブラックは影越しに声を張らなくても聞こえるように待機してもらった。


「レオンハルト王子とご婚約だなんて、ご両親もさぞお喜びのことですね」


主催の令嬢が微笑むと、周りが驚いたような慌てるような目で私と令嬢を見比べた。

そして、ひそひそと小声で話した。


「ユーウォレンタ家の奥様は16年も前に亡くなっているんじゃ、」

「確か、ご病気で」


すると、ご令嬢は慌てて私に謝った。


「気にしなくても大丈夫ですよ。母も、きっと喜んでくれていると思います」

「は、はい。私もそう思います」


ご令嬢は今の私と同い年だから、お母様のことを知らなくても当然だろう。

喜んでくれているよね、お母様。


お茶会を終えて馬車の方に行く途中、噂話が聞こえてきた。


「第二王子はミューラエル様とご婚約なさると思っていたわ」

「私もです。美男美女で釣り合いもとれますし、何よりあれだけ親しげですもの」

「皆さんもユーウォレンタ家のご令嬢と第二王子が婚約だなんて、きっと驚いたでしょうね」


ミューラエル様、レオの想い人かもしれない。

どんな方なのかな。



それからしばらくして、国王陛下の生誕祭が行われた。

違う国の王子も来ていて、挨拶に回った。

王子たちはまだ今の私と同い年くらいの成人したばかりの方が多く、その中にアレクシア王女の弟君もいると手紙に書いてあった。


「レオンハルト王子のご婚約者にお会いできることを楽しみにしておりました。良ければお話を聞かせてはくれないでしょうか?」

「私でよければ」

「姉上からとてもお優しくお美しい方と聞いておりましたが、お話以上です。エリサ様、お会いできて光栄です」

「私も、アレクシア王女から弟君のお話を聞いておりましたからお会いできてとても嬉しく思います」


舞踏会が始まって、レオとダンスをしたあと王子たちにダンスに誘われた。

王子は全員で4人。

4回も踊るのか、と思いながらも笑顔で頷いた。

それにしても、アレクシア王女の弟君以外の言動が少し変な気がする。


「レオンハルト王子が羨ましいです。まるで、天使の生まれ変わりのようなあなたが婚約者だなんて」

「勿体ないお言葉です」


天使の生まれ変わりって、と驚くのはまだ早かった。


「エリサ嬢はとても美しいですね。神の最高傑作でしょうか」


「まるで湖の精霊のように透き通る肌に美しい水色の髪。エメラルドの瞳。花が咲くような笑顔。あなたは俺の女神だ」



正直、私は美形なのだろう。

お母様もお父様も美形だと言われていたからその2人の娘である私もそうなのだろう。

だけど、天使の生まれ変わり?神の最高傑作?女神?

お世辞もほどほどにしてほしい。

レオと近付くために私に取り入ろうとしているとしても、もっと普通に褒められないのかな?


王子たちと話すのは疲れてしまって、レオに助けを求めに行こうと視線を向けると、とても美しい女性と話していた。

女性にしてはスラッと高い背、金色に輝く瞳に長い紺色の髪を高い位置で結んでいる。

同性の私でも見惚れるほど美しい。


チラチラと視線を向けていると、エルリック殿下が私の方にやって来た。


「彼女はカレーラ学院でレオと同級生だったミューラエル・フェーシストだ」


あの方が、ミューラエル様。


フェーシスト子爵家は男女問わず怪力の持ち主でその多くが騎士をしている。

だけど、ミューラエル様はそんな怪力を持っているとは思えないくらいとても美しい。

確かに、美男美女だ。

彼女がレオの想い人なのかな。

2人ともとても楽しそうに話している。

その様子を見ていると、なんだか胸の中がモヤモヤして目を逸らしたくなって、気持ちが沈んでくる。

疲れているせいかな。


「エリサ?どうかしたか?」

「少々、疲れてしまったようです。一度、控え室で休んで参ります」

「私がついていこうか?」

「いいえ、殿下の手を煩わせるわけにはいきません。ご心配をお掛けしてすみません。ブラック、一緒に来て」


声を掛けると、ブラックがスッと現れた。

殿下に挨拶をして広間を出て控え室に戻った。

控え室には私付きの侍女とカイルとブラック以外の誰もいないから私はため息をつきながらクッションを抱きしめるようにしてソファに座った。


なんで、こんなにモヤモヤするの?

自分の気持なのに意味が分からなくて苛立って悲しくて感情が渦巻いてもう言葉にも表せない。

代わりに、涙が溢れてくる。

最近なんだか変だ。

レオと離れるのが怖くて、ずっと一緒にいたくて、なのにレオのことを考えるとモヤモヤしたり悲しくなったり苦しくなったり。

涙を拭ってため息を吐いて、暖炉の前に行った。

暖かくて、涙はすぐに乾く。


「ジェシカ、メイク直してくれる?」

「お任せください」

「ありがとう」


笑ってドレッサーの前に座った。

メイクを直してもらって、もう少し休憩してから戻ろうと思っていると、控え室のドアが開いてミューラエル様が侍女たちと一緒に入ってきた。

私に気付くと、こっちにやって来て挨拶をしてくれた。


「初めまして、エリサ様。私はミューラエル・フェーシストと申します」

「ミューラエル様は、レオンハルト様とは親しいのですか?」

「そうですね。学院では同じ生徒会で会長と副会長をしていましたし、ダンスの実技ではパートナーを組んでいましたから」


ダンスのパートナーって、男性側から申し込むんだよね?

つまり、レオの想い人はミューラエル様でほぼ間違いないだろう。

胸がドクドクと鳴りだして、またよく分からない感情が湧いてくる。

ミューラエル様の前で泣いてしまうわけにはいかないので、挨拶をして控え室を出た。


廊下を歩いてゆっくりと広間に向かった。

レオは相変わらず色んな人に囲まれている。

エルリック殿下も同じように囲まれていて、私は隅で舞踏会を眺めていると、王子のうち1人がやって来た。

アレクシア王女の弟君であるウォーセル王子だ。


「姉上と騎士団長の話をしてもよろしいでしょうか?」

「是非、お聞かせください」

「はい。あれから、姉上は国戻って父上である国王陛下に護衛騎士と共に直談判いたしました」


そこまでは手紙に書いてあったから知っている。

だけど、そのときはその場でダメだと許可は貰えなかったと書いていた。


「何度も何度も国王陛下に話して、ようやく許可を得て、次の春に婚姻を結ぶことになったのです。私が国を立つ前日に決まったばかりなので、口頭で伝えてほしいと頼まれました」

「そうでしたか。本当に良かったです。アレクシア王女もその護衛騎士の方もさぞ幸せでしょう。おめでとうございます、とアレクシア王女にお伝え下さい」

「はい」


笑ってウォーセル王子は頷いた。


アレクシア王女の護衛騎士は男爵家の次男で実力はあれど、王女とは身分差が大きかった。

そのため婚姻を結ぶことに反対されていたらしい。

だけど、想い合っていれば身分差なんて関係がない。


だから、レオもミューラエル様も想い合っているのだから、身分差なんて気にしなければいいのに。

私と婚約なんて、しなくても良かったのに。


レオの方を覗き見ると、周りにいた人たちがいなくなっていてエルリック殿下とお話ししていた。

私と目が合うと、優しく微笑んでこちらに歩いてくる。

そんな顔、しないでほしい。

ミューラエル様と話してたときと同じ顔。

だけど、私の心の声が聞こえるわけもなくレオはこっちに歩いてくる。

泣きそうな顔を俯かせるわけにはいかない。

だけど、レオに見られるわけにはいかない。


お願いだから、涙出ないで。


そう思っていると、影に隠れていた筈のブラックが出てきた。

そして、レオから隠すように私の前に立ちふさがった。


「第二王子、殿下。エリサは疲れている、ため、今日はもう部屋に返、します」


カタコトの敬語でブラックがそう言うと私の手を引いて廊下に出た。

そして、魔獣の使える瞬間移動の魔術で部屋に戻った。


部屋には既にカイルと侍女たちが揃っていた。

そうか。もう、あと少しで舞踏会が終わりだから待機してくれていたんだ。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ありがとう、みんな。ねぇ、ブラック。なんで連れて帰ってきてくれたの?」

「第二王子に顔を見られたくないってエリサが言うから」

「え、」


あ、そっか。主従契約を結んでいると感情が伝わることがあるんだっけ。

今回はブラックがいて本当に助かった。

そうじゃないと、泣いて、レオやエルリック殿下に心配をかけてしまっていた。


メイクを落として、ヘアセットを解いてお風呂に入った。

髪を乾かしてもらって部屋に戻ると、ちょうど扉が叩かれた。

カイルと目が合って頷くと、カイルはそっと扉を開けた。


「エリサ」

「なんでしょう」

「2人で話がしたい」

「分かりました。カイル、みんな、今日はもう下がって」

「かしこまりました。おやすみなさいませ」


カイルたちが部屋を出て行くと、レオは扉を閉めた。

きっと、疲れたと言って舞踏会を抜け出してきたから、心配して来たのだろうと思っていると、急に抱きしめられた。


驚いて固まっていても、レオは何も言わずただ抱きしめている。

10分は経っただろう。

レオがゆっくりと離れて私の顔にかかっていた髪を耳にかけた。


「レオンハルト様、どうしたのですか?」

「2人だし婚約者なのだから、レオでいい」

「レオンハルト様、婚約は破棄いたしましょう」

「………は、どうして、急に」

「ミューラエル様と想い合っているのは存じております。もう、私は引かなくてはなりませんね」


微笑むと、急に涙が出てきた。

ずっと我慢していた分、もう、我慢できなくてポロポロと涙がこぼれ落ちる。

レオは驚いたように私の涙を拭おうとしたけれど、私はそれを拒絶して背中を向けた。


「私はミューラエルを想ってなどいない」

「身分差を気にされているのですか?大丈夫ですよ。想いがあればそんな小さな壁、容易に乗り越えられます」

「違う。私の想い人は本当にミューラエルじゃないんだ。私が想いを寄せて、愛しているのは、」

「ミューラエル様じゃないのは分かりましたから、言わないでください。それ以上、聞きたくないです」


耳を力いっぱい塞いだ。

ミューラエル様じゃないんだって安心したのに、今度こそ本当の想い人を知ることになるとか、もう耐えられない。

すると、レオは悲しそうな顔で私の顔を見下ろした。

私もゆっくりと耳を塞いでいた手を下ろした。


「エリサ、私はまだ想い人への気持ちは一方通行だよ。だから、婚約破棄はしない」

「分かりました。勘違いをしてしまい、申し訳ございませんでした」


レオがため息をついて私の頭を撫でて部屋を出ていった。

勘違いして、八つ当たりして、最低だ。

私、まるで嫉妬しているみたい。

嫉妬?誰に?

レオ?それともミューラエル様?

誰に、どうして、嫉妬しているのかも分からない。

………こういうとき、璃子に相談できたらな。

ため息をついてロッソ様が持ってきてくれていた璃子にもらったヘアゴムを手首につけてベッドに横になった。




 〜〜〜〜〜



真っ白な空間に、風凪高校の制服を着た女子生徒が1人いた。

私はゆっくりとその女子生徒に近付いた。

嘘だ。どうして。会えるわけがないのに。


「璃子?」


そう声を掛けると女子生徒は驚いたように振り返った。


「千星?すごいドレス。それに髪と瞳の色も違う。だけど、千星だよね?」

「そうだよ」


私は涙を堪えて璃子に抱きついた。

璃子も会いたかったと私を抱きしめた。


「璃子、そういえば受験は終わったの?」

「うん。もう大学1年生だよ。ちゃんと、私も恭くんも受かったよ」

「おめでとう」


やっぱり、イリス王国とは時間の流れが違うんだ。

こっちに来て、まだ4ヶ月が経ったくらいだけど向こうだと半年以上は確実に過ぎている。


「あのね、璃子。相談があるの」

「なに?」


私はレオと婚約したことと婚約した経緯とレオとミューラエル様が親しげに話しているのを見るとモヤモヤしたことを璃子に説明した。


「ねぇ、なんでレオとミューラエル様が2人で楽しそうに話しているのを見るだけで、こんなにモヤモヤしたり悲しくなったりするんだろう」


璃子はニッと笑って私の額に人差し指を突きつけた。

驚いて瞬きをしていると、璃子はため息をついて鈍感すぎるよ、と笑った。


「いい?千星。いや、エリサ。それは恋だよ。エリサ、レオくんのことが好きなんだね」

「私が、レオを好き?恋?」

「違うって即答しない時点でそうだって言ってるようなものだと思うよ。千星、いつも即答してたじゃん」

「確かに。いや、でも、私がレオを?え、」


なんだろう。

腑に落ちたというか、納得したというか。

急に恥ずかしくなってきた。 

私、レオのことが好きだからミューラエル様に嫉妬してたんだ。

子供みたいで恥ずかしい。


「ありがとう、璃子」

「どういたしまして。ね、千星。また、会えるかな?」

「うん。会えるよ。会おうね」

「うん」


璃子は涙を堪えて笑って、私のことを抱きしめた。

またね、と言いながらなかなか離してくれない。

私もまたねと泣きながら笑って抱き返した。



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