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17/21

婚約


 開国祭の翌日、イリス王国に滞在中の姫と王女4人にお茶会に誘われているため中庭のガゼホに向かった。

今日は女性だけのお茶会ということで侍女が付き添ってくれた。

ガゼホには既に姫と王女が揃って座っていた。

私はドレスのスカート部分を指で摘んで挨拶をした。

1人の王女に席に着くように促されて座った。


「昨日の開国祭では挨拶さえ出来なかったから、こうして顔を合わせることができて嬉しいわ」


そう言ったのは、イリス王国の北にある国の第一王女であるアレクシア王女だ。

真っ黒な髪に暗い紫色の瞳をしたとても美しい王女だ。

アレクシア王女や他の王女、姫たちはエルリック殿下とレオンハルト殿下との婚約を申し込むために王宮に滞在している。

だから、開国祭でお二人の側にいた私が邪魔なのだろう。


「私も、アレクシア王女とお会いできて光栄に思います」


扇子を広げてそう答えると、イリス王国と一番近い国の姫であるベアトリクス様が鋭い視線で私の方を見た。


「そういえば、エリサ様はレオンハルト殿下ととても親しいようにお見えでしたが、どういった間柄で?」

「兄同士が親しく、幼い頃からよく遊びに混ぜてもらっていたのです」

「幼馴染み?本当にそれだけかしら?」

「それは、どういう」


嫌な方向に話が進んでいる気がする。

微笑んだまま首を傾げると、イリス王国の南部に位置する小国の第一王女であるクリスタル王女が扇子を閉じてキッと私を睨んだ。


「エリサ様はレオンハルト殿下に想いを寄せているのでしょう?認めてください」


やっぱりそういう風に思われているよね。

私はまた一口紅茶を飲んで微笑んで扇子を口元で広げた。


「どうしてそうお思いなのですか?」

「あなたがレオンハルト様に媚びているからに決まっているでしょう?」


そう言ったのはベアトリクス様の妹君であるミルドレッド様だ。

どうやら、婚約する気がサラサラないエルリック殿下は早々に諦めて4人ともレオを狙っているようだ。


「それに、レオンハルト殿下もあなたに想いを寄せている、と噂になっているではありませんか」


ベアトリクス様がミルドレッド様の発言に付け加えると、アレクシア王女が可笑しそうに笑った。

驚いて、全員が王女の方に視線を向けた。

アレクシア王女は視線を気にしていないというように、ザッと広げた扇子から細めた目を覗かせた。


「そんな噂、信じているなんてあなた方はずいぶんと愚かなのね」

「アレクシア王女、それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味よ」


アレクシア王女の言葉に、他の3人の王女と姫たちは笑顔を浮かべながらも扇子を持つ手が怒りで震えていた。

だけど、アレクシア王女はイリス王国の次に大国なので他の3人は言い返すことが出来ずに黙っていた。


「だって、考えてみなさいよ。彼女のように貧相な方が第二王子と釣り合うわけがないでしょう?」


そう指摘されて、私は自分の胸を見下ろした。

小さいかと言われれば違うけれど、大きいかと問われても困る。

普通だと思う。

そう思って視線を戻すと、アレクシア王女はどーんと胸を張った。


「王子に釣り合うのは顔も体も美しい方に決まっているわ」


確かに、アレクシア王女は美しい顔立ちに自慢ができるくらいの巨乳だろう。

そんな王女からしたら私の胸が貧相に見えても仕方がない。


「まあ、そういうわけだから、エリサ様は私のライバルでもなんでもないわ。そうよね?」

「はい」


そう笑うと他の3人は少し納得がいかないような顔をした。

婚約を申し込むのは明日だから、3人とも焦っているのだろう。

まあ、レオは想い人がいるからその他の人と婚約するつもりはないと言っていたし、この中の誰かと婚約することはないだろう。



お茶会を終えて、部屋に戻った。


翌日、王宮内は騒がしかった。

1番に婚約の申し込みをするのは、クリスタル王女だ。

レオは、バッサリ断っていた。

そして、ベアトリクス様とミルドレッド様が一緒に婚約を申し込んだ。

それでもレオは断った。

王宮内で最も婚約が濃厚だったアレクシア王女の申し込みもすぐに断った。


他の3人は断られて、その場で泣き崩れていたけれど、アレクシア王女だけは泣かなかった。


その日の夜、4名とも国に帰ることになった。

私はお見送りに行こうと4名のいる広間に行った。

アレクシア王女以外は既に馬車に乗り込んでいたようで、広間には私とカイルとアレクシア王女とお茶会にいたアレクシア王女付きの侍女だけだ。


「アレクシア王女、あの、」


私が声を掛けようとすると、王女は窓から空を見上げた。


「レオンハルト殿下にも、想い人がいたようね」

「殿下にも、というのは?」

「お父様に言われて、レオンハルト殿下に婚約を申し込んだのです。だけど、想い人がいることがバレてしまい、王族だからと自分の意志を曲げる必要はないと諭されたのです」


王女はそう言うと微笑んで私の方を向いた。


「どんな、方なのですか?」

「私の護衛騎士をしてくださっている方なの。とても勇敢でお優しくて、エリサ様とレオンハルト殿下のように私達も幼馴染みなのよ」

「その方とアレクシア様が結ばれることを心よりお祈りしております」


目の前で手を組んでそう言うと、アレクシア王女はふふっと微笑んで私の手を握った。


「ありがとう。国に帰っても時々あなたに手紙を書いてもいいかしら?」

「もちろんです。お待ちしております」



アレクシア王女を見送って部屋に戻った。

そして、何故か急に千星のときに好きだったクッキーシューが食べたくなった。

だけど、イリス王国にクッキーシューというものは存在しない。

私はすぐにエルリック殿下の執務室に行った。


「お忙しいところ、失礼します」

「入れ」


執務室に入ってエルリック殿下に座るように促されて座った。

レオも一緒に執務をしていたようで、執務室の机には資料がたくさんあった。


「どうした?エリサ」

「あの、王宮のキッチンを使わせてもらいたいのです」

「キッチン?何か食べたいのなら、料理人に作らせれば良いだろう?」

「イリス王国にはないクッキーシューというものが食べたいのです。なので、自分で作ろうと思いまして」


そう言うと、レオは向こうではよく食べていたねと、表情を緩めた。


「そういうことか。エリサにキッチンを使うことを許可する。明日にでも使えるように料理人に伝えておけ」

「はい」


エルリック殿下の従者は執務室から出て行った。

やった。

クッキーシューを作るのは久しぶりだけど、中学の時は本当に何度も作ったからレシピは完全に暗記している。

念の為、寝る前に紙にレシピや工程を書き留めておいた。



翌朝、朝食を終えてドレスから侍女の着ているメイド服に着替えた。

髪もお団子にしてキャップを被せた。

そして、そのままキッチンに向かった。

キッチンには、料理長がいて私を見て驚いたように目を見開いていた。


「エルリック殿下からお話は通っていませんか?」

「いえ、そうではなくて。本当にお嬢様が来るとは。それに侍女の格好をして」

「ドレスを汚すわけにはいかないもの」


料理長に必要な材料を書いた紙を渡した。

材料を全部並べてもらって、ボウルやホイッパーなどの道具も出してもらった。


まずはシューに乗せるクッキー生地から作った。

出来たクッキー生地は氷箱という冷蔵庫のようなところで冷やしておく。

シュー生地はたくさん作って、魔術で保存しておけばいつでも出来立てと変わらない状態で食べることができる。


シュー生地が出来て、鉄板に絞り出した。

その上にクッキー生地を乗せて予熱しておいたオーブンで焼く。


その間にカスタードクリームを作って氷箱で冷やしておく。


焼き上がったシュー生地の底に穴を開けて、そこからカスタードクリームを少し少なめに絞った。

出来上がったカスタードの量が少し少なかったから仕方なく少なめにした。

だけど、私はクリームたっぷりの方が好きだ。


「完成」

「とても、美味しそうです」

「料理長も是非食べてください」


シュークリームをお皿に乗せて料理長に渡した。

そして、私の分とカイルの分とブラックの分もお皿に乗せて、他は魔術で保存した。


私は自分の影に向かって声を掛けた。


「ブラック。お菓子作ったから食べない?」


そう言うと、すぐに影からブラックが現れた。

ついでに紅茶もほしくてカイルに淹れてもらった。

我ながら、とても美味しそうだ。

ブラックは食べていいか?と何度も訊ねてくる。

みんなイスに座ってクッキーシューを頬張った。


「美味い!とても、美味しいです。お嬢様はスイーツを作る才能があるようですね」

「お口に合ったようで良かった」


カイルもブラックも気に入ってくれたようで、ブラックに至っては食べ終わってもまだ足りないという顔をしていた。


「また作ってあげるから」

「約束だ」

「うん。約束」


それから部屋に戻る途中で、レオに会った。

レオは私を見て驚いたように目を見開いていた。


「エリサ、その格好はどうしたんだ?」

「クッキーシューを作るのにドレスを汚したくなくて侍女の服を借りたのです」

「エリサはどんな服でも綺麗に着こなすね」

「………ありがとう、ございます」


急に褒められてなんだか照れくさくてレオから目を逸らした。


「あ、あの、もし良ければ夕食後に私の作ったクッキーシューを召し上がっていただけますか?」

「もちろん。兄上の分も頼むよ。」

「はい」


夕食後、レオンハルト殿下とエルリック殿下のいる食堂にクッキーシューを入れたかごを持って行った。

扉をコンコンッと叩くとロッソ様が扉を開けてくださった。

毒味が必要なため、クッキーシューは3つ持ってきた。

かごを手渡すと、その場にいたウエイトレスがそれぞれ皿に分けてロッソ様が先に一口頬張った。


料理長もカイルもブラックも美味しいと言ってくれたけど、王族の親戚にあたるロッソ様やレオたちの口に合わなかったらという不安があったけど、ロッソ様の表情を見てその不安はすぐに消え去った。


「問題ありません」


ロッソ様がそう言うと、レオもアル様も目を輝かせてクッキーシューを頬張る。

こういうところを見るとやっぱり似ていると感じる。

顔立ちはなんとなくだけど、表情がそっくりだ。


「すごく美味しいよ」

「ああ。美味い。エリサは菓子職人になれるな」

「ありがとうございます。お口に合ったようで何よりです。レシピは料理長にお教えしたので食べたくなったら頼んでください」


ニコッと微笑んで、失礼しますと声を掛けて部屋をあとにした。

部屋に向かう途中、窓から月明かりが差し込んでいた。

月を見上げていると、後ろからレオがやって来た。

話があると言われてカイルには下がってもらって一緒にレオの部屋に向かった。


ソファに座るように促されて座ると、レオの執事が紅茶を淹れて部屋から出て行った。


「話ってなんでしょう?」

「口調を崩しても構わないよ。他に誰もいないから」


レオは私の顔を見て微笑んだ。

そして、真剣な顔をした。大切な話をするのだろう。


「エリサ、私と婚約するつもりはない?」

「え、」


まさかの話に驚いていると、レオは私の前に来て髪を撫でた。


「困らせるつもりはなかったんだ。ごめんね」

「困っているわけじゃ。ただ、レオは想い人以外と婚約したくないって言っていたから」

「うん。そうだよ」

「あ、他の令嬢の婚約の申込みを断るため?」

「へ、」


レオは呆気に取られたように私の顔を見た。

図星を突かれて驚いているのだろう。

だけど、幼馴染みだからそれくらい言われなくても分かる。

私は頷いて、レオの手を握った。


「いいよ。レオが想い人といい雰囲気になるまで仮婚約者になるよ。任せて」

「エリサ、私の話を」

「なるべく早くした方がいいんでしょ?大丈夫。分かってるよ」


私が笑ってレオの顔を見上げると、レオははぁ、とため息をついた。

何もかも私にバレていて感心しているのかな?

私は笑ってレオの手を握った。


「明日にでも婚約契約書を書いておく?」

「そうだね」


レオは力無さそうに頷いた。

そんなに申し訳なく思わなくてもいいのに。


「じゃあ、今日は部屋に戻るね」

「部屋まで送るよ」

「ありがとう」


部屋に帰って侍女にパジャマへの着替えを手伝ってもらってベッドに横になった。

レオ、王女や姫から婚約を一斉に申し込まれて困ったんだろうな。

幼馴染みが困っているときに助けになれて嬉しいな。


影に向かって声を掛けるとブラックが出てきた。


「ブラック、さっきの聴こえてた?レオと婚約することになったの。明日、婚約契約書を書くからお父様に伝えておいて」

「分かった」



翌朝、身支度を整えてレオと一緒に婚約契約書にサインした。

国王陛下と王妃様と親か親類の誰かからも許可のサインをもらわないといけない。

レオは国王陛下と王妃様が親なのでお二人が許可をすれば婚約を結ぶことができる。


お父様は王宮にやって来て、広間で私とレオと国王陛下と王妃様とアル様と話し合うことになった。

少しの沈黙が続いていると、王妃様が口を開いた。


「エリサ、私はあなたとレオンハルトが婚約するのは嬉しいわ。だけど、どうして急にそんな話になったのか教えてくれないかしら」


話していい内容なのか、レオの方を見ると力なさそうな顔で、話していいよと王妃様に手のひらを向けた。


「レオンハルト殿下に想い人がいらして、その方と親しくなるまで婚約の申し出を断るために仮婚約者となったのです」


そう言うと、王妃様も国王陛下もアル様もお父様も目を見開いて、そして、同情するような憐れみを込めたような視線をレオに向けた。

怒ってはいないようだし良かった?

レオの顔を横目に見ると、魂が抜けたようにぐったりとしている。

体調が悪いのかな?

小声でレオに話し掛けた。


「体調が悪いの?それとも執務で疲れてる?」

「いや、大丈夫だよ」

「そんな大丈夫そうじゃない大丈夫は信じられないよ」


レオはやっぱりエリサには敵わないな、と笑った。

やっと笑ってくれたことが嬉しいはずなのに、何故か心臓が鳴りだして顔に熱が上った。

慌てて顔を伏せた。

なんで?風邪でも引いたのかな?

ふぅ、と息を吐いて顔を上げると王妃様たちは生暖かい目で私の方を見ていた。


「2人の婚約は許可します。ですが、レオンハルトも第二王子という立場。お披露目は盛大に行いますからね」


お披露目なんてしたら、もう結婚すると言っているようなものになる。

婚約破棄もそう簡単ではない。

だけど、王族が婚約するときにお披露目をしないと婚約者を疎ましく思っていると思われる。

そうなると、私もレオも社交界で悪く言われる。

終いには噂まで流れてしまう。


「分かりました」

「一月後に行いますから、ドレスは早急に仕立てるように」

「はい」



私は王妃様に紹介していただいた仕立て屋にドレスをなるべく早く仕立ててほしいと伝えて、実家に帰る準備をした。

婚約をするからには、お披露目が終えるまで一緒に生活しているとあまりよく思われない。


カイルを連れて馬車に乗って実家に帰った。

すると、お父様から話を聞いていたらしいお義姉様とお兄様と侍女たちが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ。そして、おめでとうございます、エリサお嬢様」

「あ、ありがとう、サーヤ」

「わたくし、幼い頃から親しくしていたレオンハルト様とお嬢様がご婚約なさると聞いてとても嬉しく思います」


サーヤの笑顔にどう反応していいか分からず、とりあえず愛想笑いを浮かべた。

ごめんね。こんなに喜んでもらったところで破棄することは既に決まっているの。

正直、私は婚約をしたいと思わなくても家柄的に私と婚約したいという人は多いためレオと婚約を破棄したところで困らない。

破棄の理由さえまともであれば、だけど。


「ビアンカ、フィオレ。しばらくよろしくね」

「はい」

「よろしくお願いします」



それからお披露目までの1ヶ月間、王宮にいたときとは違って毎日のように顔を合わせることはなく、2回しか会わなかった。

王宮からうちまでそう遠くはないけれど、それでも会えないほどお披露目の準備は忙しかった。


そして、ついにお披露目の日がやって来た。

レオがうちまで馬車で迎えに来て、私は王宮で使っていた部屋ではなくレオの部屋のすぐ隣の部屋で出来上がったばかりのドレスに着替えて髪を編み込んだりリボンで結んだりと豪華にセットしてもらって、メイクはレオの指示でなるべく濃くないメイクをしてもらった。


全ての身支度を終えると、侍女たちが部屋から出ていってレオを連れて戻ってきた。

レオは私の顔を見て何も言わずポカンとして固まっていた。 

侍女たちは部屋から出ていったから私とレオの2人きりだ。

私はレオの前に立って微笑んだ。


「さすが王子様。似合ってるよ。カッコいい」

「ありがとう。エリサもすごく似合ってるよ。すごく、綺麗だ」


レオはそう言うと、私の額にキスをして手を取った。


「行こうか」

「う、うん」


また、心臓がうるさい。

今は健康になったはずなのに。

レオに手を引かれたまま、広間の扉の前まで来て腕を組み直した。


「エリサ、緊張してる?」

「少し。レオの想い人も来ているんでしょ?」

「………そうだね。エリサは私の想い人が誰か気にならないの?」

「気になるよ。すごく。だけど、無理に聞き出そうなんてしてないから大丈夫だよ」


笑ってレオの顔を見上げた。

月明かりに照らされたレオの顔はなんだか少し切なく感じた。

そして、合図と同時に扉が開いて私とレオはゆっくりと広間に入っていった。


お父様と王妃様と国王陛下の許可が公の場で得て、社交界でもレオと私は婚約者となった。

破棄する予定の婚約なのに、こんなに盛大に祝われてしまうと少し申し訳なく感じる。


レオが爵位を持つ殿方に囲まれるように、私も伯爵家や侯爵家の令嬢に囲まれた。

その中には笑顔で嫌味を言ってくる人や、私の足を踏もうとしてくる人もいる。

質問責めに遭って、疲れて一休みしようと令嬢たちの中から出ていこうとすると誰かの足に引っかかって躓いた。

その瞬間、目の前の誰かに抱きとめられた。

顔をあげるとレオが微笑んでいた。


「エリサ、怪我はない?」

「は、はい。レオンハルト様のお陰です。ありがとうございます」

「どういたしまして」


やっぱりレオと私だと不釣り合いだと思う令嬢が多いみたいで、あんなドジが第二王子の婚約者だなんて王子が可哀想など令嬢たちはクスクスと笑って言っていた。

恥ずかしいけれど、それよりもレオに申し訳なくて俯きそうになる。

社交界で俯くのはその噂に頷くのと一緒だからなんとか作り笑いを浮かべて耐えた。


「誰になんと言われようと、エリサは私の婚約者だ。王子の婚約者を悪く言うのは私に対する不敬として捉えられるが?」

「す、すみません」


悪口を言っていた令嬢たちはそそくさとその場を離れていった。

私、レオに助けられてばっかりだなぁ。

自分が情けなくて嫌になる。

小さく息を吐いてレオの顔を見上げて笑った。


「ありがとうございます」

「私は本当のことを言っただけだよ」



そしてお披露目はあっという間に終わって部屋に戻った。

パジャマに着替えてカイルと侍女たちが出ていって、私はベッドに横になった。

今日は疲れた。

仮とはいえ、王子の婚約者としての不甲斐なさを思い知ってしまった。

このままでは、レオとレオの想い人が婚約する手助けなんてできるわけがない。


それにしても、レオがいつか本当の想い人と婚姻を結んでしまったらこれまでの関係ではいられなくなる。

そう思うと、鼻の奥がツンとして生暖かい何かが頬を伝う。

あれ?なんで私、泣いているんだろう?

自分でも分からずに戸惑っていると、ドアが叩かれた。

カイルが戻ってきたのかな?と思ってドアを開けるとパジャマ姿のレオが立っていた。


レオは私の顔を見て驚いたように目を見開くと、部屋に入ってドアを閉めた。

そして、優しく私を抱きしめた。

なんだか温かくて安心すると、さらに涙が溢れてきた。

私は泣きながらレオを抱き返した。


「レオと離れたくない」

「幼馴染みだから?」

「分からない。けど、レオが想い人と婚約して、目の前からいなくなるのが嫌。もう、離れ離れになりたくない」

「私だって、そう思うよ。エリサがいなくなって7年、ずっと君に会いたくてやっと会えたんだから。ずっと側にいるよ」

「うん」



翌朝、レオの顔を見るのが気まずくて朝食は部屋でとった。

昨日はどうかしていた。

色々な感情が変に混ざり合ってずっと隠してた筈の本音が出たみたいな、スッキリしたような後悔したような気持ちだけが残っている。

なんであんなこと言っちゃったんだろ。

けど、レオの言ってたずっと側にいるってどういう意味だったんだろう。

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