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18歳の誕生日


 今日は私の18歳の誕生日。

いつも誕生日は好きじゃなかった。

だけど、今年はこれまでで一番嫌な誕生日だ。

なんていったって命日になるのだから。


今日はお父さんが休みで家にいる。

私は学校に行く前にレオと山崎と母方のお祖母ちゃんのお墓に行った。

すごく綺麗にされていたから、お母さんの妹か弟が最近来たのだろう。


「お祖母ちゃん、バイバイ」

「あっさりしているな」

「まあね。お祖母ちゃんはずっと見守ってくれるって約束したから」

「そうか」


少し遅刻して学校に行くと、クラスメートたちは私とレオと山崎が一緒に来たことへの疑問を抱いているようだったけど、璃子と恭がすぐに駆け寄ってきたから話す隙もなかったと思う。

璃子は私の手を引いて空き教室まで連れてきた。


「千星、何時なの」

「今?9時56分だけど」

「違うよ。千星が………死ぬのは、何時なの?」

「私にも分からないよ」

「レオくん!」


璃子は目に涙を溜めながらレオを睨みつけた。

レオは何も言わずに首を横に振った。

知らない、もしくは言えない。

璃子にもちゃんと伝わったようで璃子は嫌だと言いながら私を抱きしめた。


「大丈夫。今はどこも変な感じはしないよ」

「本当?」

「うん」


授業を受けて、お昼休みは一緒に過ごした。

璃子は今日一日、一度も笑ってくれていない。

最後には絶対に笑顔が見たい。

思い出の中の親友は笑っていてほしい。


お弁当を食べ終えて、面白い話をしたり去年の体育祭の話をしたりしたけど逆効果で璃子は泣いてしまう。

どうしたら璃子は笑ってくれるんだろう。


放課後、璃子と恭は家にやって来た。

夕方になるまで、璃子も恭も受験勉強に励んでいた、のかな?

あまり集中できているようには見えなかったけれど。


誕生日会が始まると、レオが作ってくれたごちそうがテーブルに並んだ。

美味しくてあっという間に食べ終えて、お父さんが用意してくれたケーキに火をつけて息を吹いて消した。

それからケーキも食べ終えて、お風呂に入ろうかと思ったけど、璃子が腕に抱きついているから諦めた。


「千星、これ、誕生日プレゼント。私と恭くんから」

「ありがとう」


プレゼントを開けると、いくつかの星のチャームがついたイヤリングが入っていた。

つけてみると、璃子は涙を溜めて笑った。


「可愛い。千星、似合ってる」

「ありがとう」


やっと、笑ってくれた。

嬉しくて私も笑うと、お父さんも璃子も恭も笑った。


そのうち眠くなってきていつの間にか夢を見ていた。

過去の夢ではなく、これまでの思い出が巡ってくる。

これが、走馬灯っていうものなのかもしれない。



 〜〜〜〜〜



「黒川さん、オリエンテーションのペア決まってなかったら一緒に組まない?」

「いいけど、私でいいの?」

「黒川さんと話してみたかったんだ!」

「私も、篠原さんと話してみたかった。可愛くて近寄りがたかったけど」

「それはこっちの台詞だよ」



「今日の放課後、茜ちゃんとクッキー作るからお邪魔するね」

「いつも仲良くしてくれてありがとうな」

「それはこっちの台詞だよ」



「お父さん、次はいつ帰って来るの?」

「クリスマスかな」

「じゃあ千星、お母さんとお祖母ちゃんと一緒にケーキ作って待ってる!お土産買ってきてね!」

「ああ」



 ✽ ✽ ✽



「千星、千星?ねぇ、ねえってば!」

「どうした?」

「千景さん、千星が、」

「恭、救急車を呼べ」


黒川は寝ているように息を引き取った。

救急車で運ばれて病院に来た。

けれど、医者は黒川に死亡宣告をした。

篠原も鈴原も黒川の父親の千景さんも泣き崩れて黒川の寝ているベッドに顔を伏せた。


少しして、千景さんがスマホを取り出して電話をかけた。



 ✽ ✽ ✽



『千景?』

「………星来。急に悪い」

『別に、今は日本にいるから平気』

「そうか」

『それで?』

「千星が………さっき、息を引き取った」

『………なんて?うまく、聞こえなかったんだけど』


星来の声が震えている。

千星、君は本当に愛されていたんだよ。

どうして、もっと早く星来と千星が向き合えなかったんだろう。

俺が後悔しているぐらいだから星来はもっと後悔しているだろう。


『千景!どの病院!?』

「風凪総合病院だ」

『すぐ行くから、』


星来はそう言って電話を切った。

夜が遅いから篠原さんと鈴原くんには帰ってもらった。

それから40分もしないうちに霊安室にやって来た。


「千星!」

「星来、」

「病気だったわけじゃないよね?私、何も知らない。知ろうとしてなかった」

「病気じゃない。急性心筋梗塞だって先生が言ってた」


星来は俺の胸に隠れるように涙をこぼした。


「私、最低な母親だけど、千星のことちゃんと愛してた」

「ああ」


千星、もう一度目を覚ましてくれ。

ダメな両親で本当に申し訳なかった。

謝らせてほしい。

せめて、星来と最後に話してほしかった。


日付が変わる頃、少し落ち着いたのか星来が顔を上げた。


「ちょっと、風に当たってくる」

「………ああ」


水を買って霊安室に戻った。

しばらくしても戻ってこないから、心配になって病院の外に出て星来に電話をかけた。

出ないなと思っていると、少し歩いた先の歩道橋の上に星来が立っていた。

急いで星来の元に駆け寄った。


「星来!何をしているんだ!?」

「離して!千星のところに行かせて!」

「そんなことをしても千星には会えない!それに君がいなくなったら悲しむ人がいるだろ!」

「いないよ。あの男とはもう別れたし」

「俺は君まで失うつもりはない。千星も君がこんなことをしているなんて知ったら悲しむ」

「………」


星来は歩道橋の真ん中に行って、病院に戻った。

そして、千星からもらった手紙を一緒に読むことにした。



『お父さん、お母さんへ


お母さんとはちゃんと話す機会がなかったね。

お父さんと離婚したって聞いた日、私の誕生日だったんだよ?

そのとき、お母さんなんか大っきらいって思った。

でも、やっぱり大好き。

幸せになっていてほしい。


私のせいでお父さんとお母さんの仲が悪くなったのは分かってるけど、お父さんとお母さんと3人で旅行、行ってみたかったな。


お父さん、やっとお父さんの本心と向き合えるようになったのにこんなにすぐにお別れなんてやっぱり寂しいね。

私の知らないお母さんの話を聞かせてくれてありがとう。

お母さんの話をするお父さんはいつも優しい顔をしていて大好きだったよ。


2人の娘で良かった』



手紙を読み終えると、星来は千星に何度も謝った。

そして、私たちの子どもとして生まれてきてくれてありがとうと笑った。



 ✽ ✽ ✽



千星の誕生日の次の日、目がすごく腫れた。2歳上の光輝(こうき)お兄に車で学校まで送ってもらった。

千星、お兄ちゃんのことなんて呼んでるの?って訊いたよね?

お兄だよ。

ちょっと恥ずかしくて普通だよって誤魔化したけど。


「無理して行かなくてもいいんじゃねえの?」

「約束したんだ。荷物持って帰るって」

「待っとこうか?」

「うん。待ってて」


昨日、レオくんに千星から預かっていたという手紙を渡された。


『璃子へ、


私の初めての親友は璃子だったよ。

もっとたくさん思い出を作って、一緒に卒業して、いつか璃子と恭の結婚式に出れたら最高だったのにな。

入学式の次の日のオリエンテーションで、話し掛けてくれてありがとう。

大好きだよ、璃子。

会えなくなるけど、絶対に忘れない。

忘れないよ、絶対に。

だから、また、笑って。笑顔でいて。

璃子の笑顔、大好きだから。



あ、あと、ロッカーに私の荷物まとめてあるからそれを私の家に持って行ってほしいの。

璃子にしか頼めないの。

お願い。



じゃあね、バイバイ、璃子』


そう書かれた手紙はリュックサックのポケットに入れてある。

私も絶対に忘れないよ、千星。

教室に行くと、恭くんも同じように目を腫らして席に座っていた。

千星のロッカーを開けると紙袋にまとめられた千星の荷物が入っていた。

また、溢れてくる涙を堪えて、恭くんの隣にある自分の席に座ると、先生が教室に入ってきた。


「知っている人もいるかもしれませんが、昨日、このクラスの黒川千星さんが急性心筋梗塞でこの世を去りました」

「「え、」」


クラスがざわざわと騒がしくなる。

私は千星が亡くなった現実を突きつけられて、涙を我慢できなくなった。

恭くんは私の背中をさすって立ち上がらせると荷物と紙袋を持って私の手を引いて教室を出た。


「ごめん、まだ、ちょっと」

「大丈夫。俺、黒川に頼まれてるんだよ。璃子のとこ守ってあげてって。支えてあげてって。璃子、頼って」

「恭くん」


私は恭くんの胸に顔を押し付けるようにして声を殺して泣いた。

千星、笑顔になるまで時間かかるかもしれないけど、恭くんがいたらいつか笑える気がするよ。

だからね、心配しなくて大丈夫だよ。


校舎から出ると光輝兄が車を停めて待っていた。


「千星ん家まで送って」

「ああ」

「璃子の彼氏、道案内」

「はい」


千星の家について、チャイムを鳴らすと千星のお父さんの千景さんと美人な女性が家から出てきた。

2人とも、目が腫れていた。


「誰?」

「星来、千星の友達だよ」

「そっか。千星の、友達。」


女性はボロボロと涙をこぼして、慌てて拭いて笑った。


「千星の母の星来です」

「篠原璃子です。千星の荷物、持ってきました」

「ありがとう」

「あの、」

「なに?」

「千星、お母さんの話はあんまりしてくれなかったけど、昔お母さんにもらったって言ってたキーホルダーずっとつけてました。どこの国の何かも分からないけど、お母さんにもらった宝物だからって。これ」


紙袋から取り出して千星のお母さんにキーホルダーを渡した。

千星のお母さんはキーホルダーを手で包んで、そのまま顔を覆った。


「じゃあ、それだけなので」

「あがっていかなくていいの?」

「今は、気持ちの整理ができてないので」

「そっか。じゃあ、また来てね」

「はい」


千星のお母さんとお父さんに挨拶をしてお兄の車に乗った。

お兄は何も言わずに家に送ってくれた。

恭くんと一緒に部屋で勉強をしているとまた涙が溢れてくる。

千星と約束したんだ。

絶対に第一志望の大学に合格するって。


「恭くん、受験、頑張ろうね」

「そうだね」

第1部完結です

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