出会い
今朝はスマホのアラームがなる前に目が覚めた。
昨日の夜はいつもより早く寝たおかげだろうか。
せっかく早く起きたのだから朝食は少し豪華にしたいと思いリビングに行って冷蔵庫を覗いた。
そうだ。ベーコンエッグを作ろう。
パンをトースターで焼いている間にフライパンでベーコンエッグを作った。
ガラス製のサラダボールに昨日コンビニで買ってきたカットレタスを盛り付けてクルトンとドレッシングをかけた。
トーストが焼けて、その上に出来立てのベーコンエッグを乗せてブラックペッパーをかけた。
ダイニングテーブルにトーストを乗せた皿とサラダボールを並べて、冷蔵庫にあったリンゴとインスタントのポタージュを並べるとおしゃれな朝食の完成だ。
いつも観ているニュース番組をつけるとちょうど星座占いをやっていた。
今日の天秤座は1位らしい。
『あっと驚く出来事があるでしょう。ラッキーアイテムは昔から大切にしているものです』
驚く出来事ね。
それっていいの?
朝食を食べ終えて片付けをしてから天気予報を見て洗濯物をベランダに出して髪を1つに結って家を出る。
高校2年生、黒川千星の朝は大体こんな感じだ。
家の家事はほとんど私が行っている。
両親はほとんど家に帰ってこない。
仕事命の父親は出張、旅行好きな母親は色んな国に旅行している。
そのため、無駄に広いこの家には掃除をしてくれるハウスキーパーさんが週に一度来るだけでほぼ私の一人暮らしだ。
両親と連絡を取るのは月末に生活費やお小遣いがちゃんと振り込まれたかどうかの確認と、家宛ての荷物を受け取って輸送しろという業務連絡だけだ。
昔はお祖母ちゃんがよく家に来てくれたけど私が小学4年生の冬に亡くなってしまった。
それ以来、私が家族と呼べる存在の人はもういない。
けど、慣れれば案外1人も悪くない。
もちろんお祖母ちゃんが亡くなったときは悲しくてすごく泣いたけど、両親が家にいない方が気を遣うこともなく自由に過ごせて結構楽だ。
私の通う風凪高校は家から徒歩圏内にある公立高校で特別偏差値が高いわけでも低いわけでもない。
私の着ている制服は、シンプルなグレーのスカートに学年によって異なる色のネクタイ、紺色のシンプルなブレザーの組み合わせだ。
2年生は青色のネクタイだ。
スカートではなくスラックスの人も色の組み合わせは変わらない。
学校に近付くに連れ徐々に同じ制服を着た生徒が増えていく。
そんななか、大きく手を振ってこっちに走ってくる女子生徒が1人いた。
1年のときから同じクラスの篠原璃子だ。
「ちーせ!おっはよ~!」
「おはよう、璃子」
「体育祭の種目決め、そろそろだよね?」
「そうだね」
「千星、今年こそはチアやるよね」
「なんで?」
「だって千星のチア姿見たいもん!絶対似合う!」
去年もそんなこと言ってたな。
まあ、パン食い競争と玉入れと綱引きに出て逃げたけど。
チアに出ればその練習が忙しいからクラス競技である綱引きさえ出れば許される。
けど、チアなんて目立つことは私には向いていない。
校門を通って昇降口に行って靴を履き替えて教室に向かった。
なぜか教室内が少し騒がしい。
その原因はある噂だった。
「璃子、千星、きいた?」
「なになに?」
「今日、転校生来るみたいだよ!ほら、机増えてる!」
「ホントだ!男子かな?イケメンがいいな~」
占いのあっと驚く出来事ってこれかな?
まあ、転校生は驚いたけど。
自分の席に着いて教科書を机に入れて鞄を片付けた。
朝のホームルームの予鈴が鳴ると、先生が教室に入ってきた。
「せんせー!今日、転校生来るんですか?」
1人の生徒が手を挙げて質問すると、クラスメートたちは男子?女子?など質問責めにしていた。
「今日来る予定だったが、体調が悪いらしく登校は明日からだ」
初日に早々体調崩すとか、転校生もついてないな。
いつも通り授業を受けて今日は委員会もないから少し早く帰れる。
同じ方向のクラスメートは璃子くらいしかいないから、璃子の部活がある日は1人で帰る。
せっかくだしスーパー寄って帰ろ。
家から最寄りのスーパーマーケットに行って好きなフルーツと卵とミックスサラダと肉と冷凍のカット野菜を買って家に向かった。
家の門を開けると、後ろから低めの落ち着いた声が聞こえてきた。
「あの」
「はい?」
振り返ると、銀髪に碧眼の綺麗な顔立ちをした青年が立っていた。
同い年か少し年上だろう。
それにしても、この世にこんなに綺麗な人が存在するのかと思うくらいこの人は綺麗だ。
「ハンカチ、落としましたよ」
「………あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。千星様」
青年は優しい笑みをこぼした。って
「名前、」
「黒川千星様ですよね?」
「なんで知ってるんですか!?ていうか、なんで様付け!?」
「話すと長くなるので、家にあげてもらえますか?」
「………無理です」
なに?様付け?両親が新しくハウスキーパーでも雇ったわけ?
いや、父親ならまだしも母親がこんなイケメンを呼ぶわけがない。
自分の手元に置いておきたがるはず。
つまり、どれだけ綺麗であろうとこの人は不審者!
「お金目当てですか?」
「まさか。私が金銭に困っているように見えますか?」
見えない。
どこのブランドか知らないけど、めちゃくちゃいい生地の服だし、立ち振舞いから裕福な育ちだと分かる。
じゃあ、なんで私の名前知ってるの?
「玄関まででいいので通してもらえませんか?ここで話す内容でもないので」
まあ、なんか企んでそうだけど、手ぶらっぽいしすぐに警察に連絡できるようにしておけばいいか。
「玄関までですよ」
「ありがとうございます」
青年を玄関にあげて買い物の荷物だけ冷蔵庫に入れて戻ってきた。
そういえば、日本人には見えないけど日本語ペラペラすぎない?
「お初にお目にかかります。あなたをお守りするため、イリス王国より参りました。レオと申します」
「は?」
「千星様、あなたは1年後、我が国の第一王子殿下であられるエルリック様の妃になられるのです」
「なるほど」
中二病か。
てか、なんで中二病が私の名前知ってんの?
怖いんだけど。
「で、どこの国だっけ?」
「イリス王国です」
スマホで検索をかけてもそんな名前の国名は出てこない。
ないじゃん!と抗議しようとすると、レオという青年は何かをボソボソ呟いた。
その瞬間、光って髪色と目の色が変わって黒くなった。
あまりにも衝撃的すぎてそこからの記憶はない。
~~~~~
目が覚めるとリビングのソファに横になっていた。
昼寝をしていたようだ。
それにしても、変な夢だったな。
ぐっと伸びをして起き上がるといい匂いがしてきた。
「お目覚めですか?千星様。そろそろ夕食ができますよ」
キッチンの方を見るとさっきの青年、レオが料理をしていた。
「夢じゃ、ない。なんで、」
「今日から私が千星様の身の回りのお世話をします。」
「はあ!?てか、なんで髪色黒になってんの!?目も!カラコン!?ウィッグ!?」
「すみませんが、カラコン?やウィッグ?というものは存じておりません。髪色と瞳の色はこの国で馴染むために変えました」
「だから、どうやって変えたか訊いてるの!」
「この国の言葉で言えば魔法、ですね」
魔法?
あるわけないじゃん。って言ってやりたいけどぽいことしてるから説得力がない。
とりあえず考えるのをやめてキッチンに行った。
「レオ、くんだっけ?」
「レオで構いませんよ」
「私のことどれくらい知ってるの?」
「黒川千星様、来週の水曜日に17歳になられる風凪高校2年2組の生徒。図書委員会で家族構成は父母、千星様の3人家族。ご両親は滅多に家に帰ってこられない」
「どこで調べたの?」
「分かりません。私はその情報を受け取っただけなので」
レオがストーカーってわけじゃないんだ。
まあ、こんな美青年がストーカーなんて目立ちすぎて普通無理だもんね。
レオは料理を盛り付けて皿をダイニングテーブルに運んだ。
こんなよく知りもしない人が作ったご飯を食べるバカなんているわけがない。
なんて思っていたけど、食欲に負けて気付いたら完食していた。
美味しそうすぎて空腹の私は我慢できなかった。
「そういえば、どこに住んでるの?」
「イリス王国の宮殿です」
「そうじゃなくて、日本のどこか訊いてるの」
「ビジネスホテル?というところで寝泊まりしています」
「仕事、何してんの?」
「第一王子殿下の執事です。今は千星様の護衛とお世話ですけど」
もういいや。
訊いても仕方ない。
てか、知らない男子を家にこっそり住まわせてたって知ったらさすがにあの人たちも怒るかな。
バレるまで住まわせてあげよ。
「ねえ、家住んだら?部屋めちゃくちゃ空いてるし。朝ご飯も作ってくれるなら家住んでる方が楽じゃない?それに、夜もどうせ1人だし男子がいた方が防犯面も安心」
「本当にいいのですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます。誠心誠意お守りします」
守られるほど危険な目に遭う予定もないけど。
今日はホントにあっと驚く出来事があった。
あの占い当たるんだ。
翌朝、リビングに行くと風凪高校の制服を着たレオがいた。
「おはようございます、千星様」
「あ、おはよう」
家の中でおはようなんて言うの、すごく久しぶりだな。
って、そんなことよりも!
「なんでうちの学校の制服着てるの?」
「千星様と同じクラスに転校できるように手配済みですので」
「は、聞いてない」
「言ってませんので」
マジか。
てか、どうやって同じクラスにしたんだろ。
裏金積んだとか?
いや、公立高校でそんなことできないか。
じゃあやっぱり………魔法?
「朝食の準備が整いました」
「うわ!すご!めちゃくちゃ美味しそう!」
「丹誠込めて作りましたので。冷めないうちに召し上がってください」
朝食を食べ終えてニュースをつけた。
今日は午後から降水確率40%か。
洗濯物は浴室に干しっぱなしでいいかな。
ちなみにレオは洗濯機の使い方を知らないようだったから教えてあげた。
まあ、私の下着を触ってほしくないし見てほしくもないからあくまでもレオの洗濯物をするためだ。
「千星様、学校までご一緒してもいいですか?」
「まあ、いいけど。目立つから変装してくれない?ほら、魔法で顔変えるとか」
「私は色を変えることはできますが顔まで変えることはできません」
「じゃあもうそれでいいや。あ、絶対に外で様付けで呼ばないでね」
「では、なんとお呼びしたら」
「千星でいいよ」
「敬称なしでは呼べません!」
「じゃあ、千星さん」
「分かりました」
レオのタイプならさん付けで呼んでてもあんまり違和感ないし。
家の鍵を閉めて学校に向かった。
なんか、変な感じ。
家から一緒に出掛けるとか、全然したことないから。
いつもより少し早い時間に家を出たからか、まだ人がいない。
ほとんどが電車通学だし、電車の本数がそれほど多くないから仕方ないか。
「職員室の場所分かる?」
「はい。ですが、千星さんを1人にするわけには」
「大丈夫だって」
教室に行くと他の生徒たちも来ていた。
ホームルームが始まって先生と一緒にレオが教室に入ってきた。
「今日からこのクラスの一員になる岩崎だ。岩崎、簡単に自己紹介をしてくれ」
「はい。岩崎レオです。これからよろしくお願いします」
レオが笑った瞬間、女子の悲鳴に近い歓声が教室を包み込んだ。
まあ、中二病に見せかけてガチでなんか使えるところ覗いたらただただ綺麗な顔だからそうなるわな。
それからせっかくだからと席替えをすることになった。
女子が狙っているのはもちろんレオの隣だ。
くじを引いて黒板に名前を書いていく。
6番か。ラッキー。窓側の後ろの方だ。
「レオくん!何番!?」
「18番?」
「いやいや、20番でしょ」
「9番であって!」
女子に囲まれながらくじを引いている。
レオの隣になった人は女子の嫉妬の的になるんだろうな。
可哀想。
「12番です」
「てことは、」
「黒川さんの隣!?」
「黒川さん!席変わって!」
「私と変わって!」
レオは私を守ってくれるんじゃなかったの?
むしろ、守らないといけない原因作ってるじゃん。
「僕は千星さんの隣がいいです。ダメですか?」
「「いいよ!」」
顔を武器にした。
てか、こんなの絶対後から文句言われるじゃん。
とりあえず、席も決まったので机を移動して朝のホームルームをなんとか無事?に終えた。
休み時間になって、レオに1つ訊いてみた。
「一人称、“私”じゃなかった?」
「主に対してだけですよ。他の人には僕です」
「へ~」
お昼休みになるとレオを見るために他クラスの生徒たちが教室の前にやって来た。
鞄から財布を取り出して人集りを抜けて食堂に向かうといつの間にかレオがついてきていた。
こっわ。気配感じなかった。
「千星さん、お弁当作ってきたので一緒に食べましょう」
「あ、ありがとう」
「どこで食べますか?」
「屋上」
この暑い時期の屋上は人が少なく人目を気にしなくていい。
レオはお弁当を広げてウエットティッシュと箸をくれた。
手を拭いてお弁当箱のふたを開けると可愛くて美味しそうなご飯が入っていた。
キャラ弁だ。昔ずっと憧れてたな。
「レオ、ホントすごい!めちゃくちゃ可愛い!写真撮っていい!?」
「はい。千星さんのために作ったので千星さんのお好きにしていいですよ」
「ありがとう」
写真を撮って手を合わせて唐揚げを食べた。
美味しい。
見た目だけじゃなくて味も最高とか、レオってホントにすごいな。
「レオのお弁当は?」
「これです。失敗作を詰めただけですけど」
失敗とかするんだ。
人間かも怪しいから失敗なんてしないと思ってた。
「ありがとう、レオ。美味しいし可愛いしで最高だよ。てか、キャラ弁なんてよく知ってたね」
「お弁当箱を売っている横に本があったので」
「そうなんだ」
レオと出会ってまだ2日だけど、意外と苦手じゃないかも。
両親といるときよりも、レオといるときの方が笑顔になれるし。