第97話 選ばれた女2
息が大方整ったメリーアンは姿勢を正し、周りを見渡した。荘厳な装飾をされた教会の大広間、左右には背の高いステンドグラスが何列もはめ込まれ、それぞれが聖書の様々な物語を表していた。聖書を最後に呼んだのはかなり前だが、それでも彼女が知っている物語がいくつもそこに描かれているのが分かった。善きサマリア人、モーセのエジプト脱出、燃える芝での対話、マリア様の受胎などのステンドグラスがパッと見るだけでわかる。
そして広間の一番奥、階段を上り、講壇の背後には4mほどの十字架に磔にされたイエス様の像が飾ってあった。その後ろのステンドグラスは半円形をしており、それは三位一体を表しているようだった。美しい教会芸術、それを久しぶりに見たメリーアンは一瞬だけではあるが、その美しさに息を呑んだ。一体いつからだろうか、教会に足を運ばなくなったのは、そう思った彼女は自分の過去を思い出していた。
高校になるまでは両親や兄達と毎週日曜日は朝の礼拝に出かけていた。だがそれも連れられて行っていただけで、実際に高校になってからは自分で行くことはほとんどなかったし、特にそれを父がとがめることはなかった。母は何か言いたそうな感じがしていたが、時々行かないかと聞いてくるくらいだった。
だが、実際に行く必要を感じなくなっていたのはたぶん小学生の時だ。ある日進化論を習ったのだ。家庭教師だったか学校でだったかも覚えてないが、でも習った瞬間になぜかすっと理解できたし、今まで教えられてきた聖書の創造論よりはしっくりと来た。その週の礼拝の後、牧師様にも進化論のことを聞いてみたが、あまり良い顔はされなかったし、答えもはぐらかすようなものだった。
そこからだろうか、自分が科学、特に生物学にのめりこむようになったのは。勉強すればするほど自分の周りが違って見えたし、世界の仕組みを一つずつ明らかにしているようで楽しかった。でも、科学にのめりこめばのめりこむほどに教会からは足が遠ざかったし、信仰は薄れていったような気がする。今では聖書に書いてあることは単純な知識になってしまって、それを信じることはなくなってしまった。あくまで宗教的な歴史の解釈だと思っている。そう思うと、今自分はここにいてはいけないような気がしてきた。まるで異物が一つ紛れ込み、信心深い人々に寄生するように、この場所の恩恵にあずかっているだけの様で申し訳なくなってきた。
そのように思っていると、スージーがミネラルウォーターのペットボトルを持って近づいてきた。




