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第94話 糸を探す2

 健太は蛇口や電気のスイッチを弄ったりしていた。だが、この家には電気も水道も通っていないようで、どれも作動しなかった。


「由美、大丈夫か?ケガしてないか?」リビングを探索しながら健太が由美に話しかける。


「うん、大丈夫。隼人はケガしてないよ。さっきまで動き回ってたし、お腹空いてただけ見たい。」服をまくり上げ、隼人にお乳を吸わせていた由美がそう答える。先ほどまで走り続けていたせいか、顔色が悪い。


「ああ、うん。それはよかった。由美は大丈夫か?」健太はそう話をつなげる。リビングは家具や雑貨品が置いてある、だが何も有用なものは見つからなかった。


「うん、大丈夫。脚はほんとに疲れてるけど。それより、健太こそ大丈夫?ずっと運転もしてたし、疲れてるでしょ?休んだら?」由美は疲れている顔ではあったが微笑み、健太を見つめながら休憩を促した。


「いや、一応家の中に何かないかだけは調べておくよ。由美こそ疲れてるだろ?隼人が飲み終わったら面倒見るのは俺が代わるから。」健太はそう答えると扉を出ていく。


 返答も聞かずに出て行ってしまった健太。だが、由美はその気遣いがうれしかった。もう頭からの出血は止まっていたし、大きなけがは負っていなかったが、それでも遠くから自分たちを助けに駆けつけて、車もずっと運転して、自分を守り続けいた。どれほど疲れているのだろうか。自分だって今すぐに座り込んで、休みたいだろうに。

 彼女は彼が自分たちに向けてくれている気遣い、愛情を感じ心の奥底から嬉しさがあふれ出してきていた。だが、だからこそ今は休んでほしかった。以前までならその行為をありがたく受け取るだけだったが、今はそれ以上に何か自分も健太にしてあげたい気持ちが湧き上がってきているのだった。だが、今この場では何をするとよいのかが思い浮かばない。それに、とりあえず隼人がお乳を飲み終わらないと動くことも難しい。

 そう思うと彼女は今度隼人に目を向ける。埃や煤が顔に付き、汚れてしまっている。だが、見る限りはどこもケガしていない。今も元気に自分の乳房に吸い付いている。彼女はカバンからウェットティッシュを取り出し、隼人の顔を拭きながら安堵していた。自分の命よりも大切な隼人。この子が無事なら自分がどうなってもいいくらいだと今は感じている。この子が生まれてから3カ月、昨夜の地獄までの間自分がこの子を愛せているかを疑問に思っていたが、今となってはバカみたいだ。自分は間違いなくこの子を愛しているし、この子を守るためならなんだってする。それは健太に関しても同じだ。結婚してから今までは打算で動いていた。彼が気持ちよく働いて、自分を養ってくれるように下手にでて、うまく動かしたつもりになっていた。

 だが、今は違う。本当に心配で、大切で、愛おしいのだ。彼がしてくれること、しようとしていることがすべてありがたくて、うれしいのだ。彼女は今までの自分と今の自分が全く違った人物になってしまったことを自覚していた。その急激な変化に彼女自身は戸惑っていたが、同時に人を愛することの素晴らしさを実感し、心地よい気分にもなっていた。


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