第93話 糸を探す1
2人は走っていた。まだ鳥たちからは数100mはあるのだろうが、そんなことは気にしていられなかった。すぐにでも追い付かれそうなのだ。あれは何か?そんな疑問は考えるまでもなかった。間違いなく怪獣なのだ。
疲れていたとは言え、背の高い健太に対し標準的な女性の体格をしていた由美では走れば走るほどどんどんと2人の距離が開いていく。あまりにも急ぎすぎて声を出すことさえできない。もうすでに2人の距離は10mも離れてしまっていた。
「由美、急げ!あいつらが来るぞ!」振り返った健太がそう叫ぶ。走る速度は自然と下がったが、それでも彼の方が速い。
由美も返答しようと思ったが、まったく声が出せない。呼吸だけで精いっぱいだった。だが、自分が走らないとどうしようもない。何より、今も手の中で泣いている隼人を守るためにはどうしようもない。そう思いながら彼女も走り続けた。そうして、健太が角を曲がり、そこから2歩下がってきた。彼女もその角までたどり着き、覗き込む。
そこには、右の鎌が欠けた怪獣が立っており、こちらを見つめていた。おそらく群れからはぐれ、先ほどの空爆に巻き込まれなかった個体だろう。
見つめあう2人と1体。数秒の時間が過ぎる。そして、目の前の怪獣は体を震わせてからこちらに向かってゆっくりと歩み始めた。ただ、そのゆっくりとは怪獣基準であり、数秒もすれば自分たちのもとに容易にたどり着きそうな速度であった。迫る怪獣に対し健太も由美も足がすくみ、1歩も動くことが出来ない。そうしているうちに怪獣は2人から数mのところまで迫ってきていた。
絶体絶命。その瞬間だった。怪獣の背後から凄まじい速度で影が舞い降り、怪獣をつかんで飛び去って行った。一瞬何が起こったのかわからず、呆然と立ち尽くす2人。そして、数秒経ってから周りを見回すと自分たちの背後にある廃墟と化した民家の屋根に留まり、今し方連れ去った怪獣を引き裂いている2羽の鳥型の怪獣を見つけた。
ついさっきまでN市を蹂躙し、自分たちを追い詰めていた怪獣をいとも簡単に捕獲し、しかもいとも簡単にばらばらにしている。自衛隊が3人がかりで駆除しないといけない怪獣をいとも簡単に捕食している。その様子を見ながら2人は唖然とし、立ち尽くしていた。
だが、1分もそうしていただろうか。我に返った由美が健太の手を引き、再度走り始めた。気づけば自分たちの上空に飛んでいる巨大な影が見え、そして避難所はいまだ視界に見えてすらいなかった。どこかに隠れなければいけないのだが、適切な場所が見つからない。どこも建物は崩れ、ガラスは割れ、隠れても見つかってしまいそうだった。
だが、そうして走っていると林の傍にまだ崩れていない、コンクリートで作られた頑丈そうな家屋を見つけることが出来た。2人はそこまで走り、裏のガラス窓を割って屋内に侵入した。どうやらリビングだったようで、テーブルやソファー、テレビなどが設置されていた。どの家具も埃をかぶっており、この家自体が長い間使われていないことがわかった。二人は壁に隠れながら外を警戒し、何も自分たちを追ってきていないことを確認した。そのまま座り込む由美。隼人をあやして泣き止ませないといけない。そうして彼女は隼人を抱き、揺らしながら落ち着かせようとし始めた。




