第89話 災厄は空より来る
「大丈夫か、由美?隼人も大丈夫か?」作動したエアバッグから顔を離しながら健太は後ろの席を振り向く。
「何とか大丈夫。隼人も大丈夫だと思う。」火柱が見えた瞬間に隼人を抱きかかえた由美は衝撃で頭を運転席に軽く打ち付けたが、シートベルトをしていたおかげか無事だった。また、幸運なことに隼人を離してしまうこともなく、3人は全員無事であった。
扉を開け、全員が車を降りる。それほど早い速度ではなかったが、それでも車は使用不可能な状態まで破損していた。おそらく最初の衝撃の時点である程度の破壊を受けていたのだろう。
健太と由美は火災を起こしている工業地帯を見る。まだほのかに明るくなってきた空に、火災に伴う黒煙が舞い上がっている。おそらく自衛隊だろう。怪獣達を爆撃し、駆除したのだ。
彼らはその様子を見ながら、つらく、苦しい夜が終わったことを実感していた。まだ怪獣達が市内にはいるのは身をもって知っていたが、いずれそれらも自衛隊が駆除してくれるだろう。彼らは安堵し、表情を緩めながら見つめあった。
「さあ、避難所を探そう。もう車は使えなさそうだから歩くしかないけど。」健太は微笑みながら手を由美の方に差し出す。
「わかった。私はすこし休めたから大丈夫。健太こそ疲れてない?ちょっと休む?」彼女はそういうと健太の手を握り、一緒に歩きだした。
「大丈夫。もう少し進んでからにしよう。ここら辺も火事になっているところが見えるから。もう少し離れてからにしよう。」彼はそう答えながら由美の隣に並んで歩き始めた。上り始めた朝日が二人の背を照らし、少し気持ちよかった。
2人は歩き出す。彼らは比較的建物の少ない、大きな通りを走っていたため、周囲に避難所になりそうな建物が見えなかった。また、周囲の建物も怪獣の進行と先ほどの空爆で崩れたり、火の手が上がっているのが見えた。おそらく数十分から1時間は歩く必要があるだろう。そう思いながら二人は時にはお互いの顔を見たりして笑い、歩いて行った。
2人は閑散とした街、崩れた建物、砕けた道路を歩きながら、その先が未来へと未来へとつながっているような気がしていた。そして、何の気なしに、まったく偶然に、健太は上りつつある太陽を見ようとして振り返った。
そこにはもうその形がかすかに分かる程度にまで近づきつつあった、巨大な鳥の群れが太陽を背に空を埋めるかのように飛んでいる光景が見えたのだった。




