第88話 目的なき逃走
全世界で巨大化した怪獣達は元々の生態系の中では異物であった。巨大化したことにより圧倒的な捕食者となったが、それにより自分の体を維持するための食事量が莫大になり、その地域の生物を食べつくしてしまい、個体数が伸び悩んでいた。海の怪獣は比較的その問題が緩和されていたが、それでもその個体数の増加は当初に比べると緩和されていた。
だが、いくつかの樹海を抱くような山岳地帯では怪獣たちではその個体数が爆発的に増えていたのだ。生物の豊富な多様性、数を抱く自然の中で、頂点捕食者となった怪獣達はその中で食物連鎖が生じていた。
考えてみれば、巨大化した生物にとって小さな動物を腹いっぱい食べるのは時間がかかるうえ、十分な数を確保できる保証がない。だが、自分よりも小さいが、大き目な怪獣を捕食するのは反撃のリスクを考えても効率的であったのだ。
そうして、従来の生物を比較的小さい怪獣が捕食、そしてその怪獣をさらに大きな怪獣が捕食する形でその土地に存在していた従来の生物たちを消費しながら、生態系が塗りつぶされ始めていたのだ。
日本を縦断する山脈に隣接する原生林もそれらの一つであり、ここ数年は怪獣の存在から内部の確認ができておらず、いつの間にか内部で独特の生態系を築いていた。
まずは怪獣化した植物が生い茂り、従来の植生の5割を塗りつぶしつつあった。それらを消費する比較的小さい昆虫、哺乳類などの怪獣が存在し、それらを食べる中型の怪獣が存在していた。彼らは爆発的な勢いで増え、原生林の中で勝者としてふるまっていた。
とある東日本の原生林において、これらの中で最も頂点にいたのは鳥型の怪獣であった。鷹を大きくしたような見た目をしていたが、ところどころ羽毛が抜け落ちており、ハゲタカと鷹のハイブリッドのような見た目をしていた。体長は3m、翼長8mにもなるこの怪獣は個体数がそれほど多くなかったが、制空権を掌握し、獲物を持ち上げて空から叩き落すなどの戦法でこの原生林での頂点捕食者の位置を築いていた。
彼らが好んでいたのは昆虫型の怪獣であった。知能が低く、大きさの割に体重が軽い。格好の獲物だったのだろう。また、特にカマキリ型の怪獣はいろいろな要因が重なったせいか樹海でその数が特に多くなっており、彼らの好物と呼んでもいいくらいであった。
たまったものではないのはカマキリ型の怪獣であり、増えすぎたため餌も居住地も足りない中、木の生えるところがまばらな場所では襲撃を受けることとなっていた。また、この原生林では植生が今変わりつつあるところで、従来の樹林が腐敗し、比較的背の低い樹木だけとなっている場所も多かったため、そのような襲撃を受けやすかったのだ。
きっかけは些細なことであった。すでに食事が足りなく、共食いも頻繁に起きていたカマキリ型の怪獣達の中で、とある1匹の怪獣が原生林を逃げ出したのだ。それを追う他のカマキリ型の怪獣がさらに原生林を抜け出し、さらにそれを追う怪獣達が続いた。このようなことを繰り返すうち、彼らはまるで一つの意思を持ったかのように群れを作り、大規模な進撃を始めたのだ。
その様子には当然気づいていた鳥型の怪獣達。だがすでに空は暗くなり始めており、鳥目である彼らは動こうとしなかった。だが、問題はない。カマキリ型の移動できる速度などたかが知れている。自分たちは朝までゆっくりと眠り、明日になったら探しに行けばいいだけだ。そう思うと彼らはすやすやと眠りについたのだった。




