第76話 黒幕4
用意されていた水を一口飲み、メリーアンは再度口を開く。
「では、このまま二つ目の論文の内容に移りたいと思います。本来は質疑応答を挟むべきでしょうが、この二つの論文は内容がつながっていますので、質問はこれを終わらせてからとしようと思います。」そう言うと彼女はあたりを見回し、特に異論が出ないことを確認した。
彼女が出した論文は2編存在しており、それぞれが独立した結果を論じてはいたが、今回の現象を理解するには2つを同時に理解することが重要だと考えていた。
「では、次です。これはこの数十年で確認された動物の大量死の年表です。数十頭から数百頭がほぼ同時期に、同じ場所で死んでいることが確認されたものをリストにしています。また、表の左にマークがついているものは原因が明らかにされているものです。これを見てわかる通り、年々大量死が発生する頻度が増えていることが分かっています。」彼女を新しいスライドを開き、そこに表示された表を見せながら話を続ける。
「この表の中で原因がよくわかっていないケースについて、私たちも調査を行いました。基本的には出版されている論文やレポートを調査し、場合によっては調査を行ったチームに対し問い合わせを行いました。返答がある場合もあれば、ない場合もありましたし、かなり昔のことだったため問い合わせてももうデータが破棄されていることもありました。」彼女は次のスライドを表示する。そのスライドは前の表がそのまま掲載されていたが、いくつかの事件に関しては赤字で記載されていた。
「先ほどの表の内、返答または文献での報告があり、さらにサンプルに対して遺伝子検査を実施されていたものが赤字で表示されています。この中で、働きが不明な遺伝子が見つかったものが6件あります。うち4件は論文が出ておらず、直接調査メンバーに連絡して情報を提供してもらいました。」そうしてさらに次のスライドを表示する。このスライドには報告された遺伝子の構造式が表示されていた。
「これらの遺伝子ですが、私たちが調査した寄生小器官、そのすべてから非常に似た構造の遺伝子が検出されています。一致率はほぼ9割といったところでしょう。つまり、過去に起きた原因不明の大量死に何らかのかかわりがある遺伝子が、今回の騒動でも姿を現している。最も古いサンプルは2005年のものですが、実際のところ技術的な問題があっただけで、それ以前の大量死でもこの遺伝子たちが何らかのかかわりを持っているものと私は信じています。」彼女はそういうと一呼吸置き、次のスライドを提示しながら話をつづけた。
「つまり私たちの提唱する2つ目の仮説は、この寄生小器官は2000年台の時点、あるいはもっと前から活動しており、その段階では動物を変異させる能力を持っていなかったか、あるいは感染した生物が感染に耐えられず、死に至っていたというものです。私個人の所感としては、動植物を変異させる能力自体はここ数年で手に入れたものだと考えていますが、正直わかりません。もしかしたら以前から持っていたけど、その変化が極めて小さかっただけかもしれません。」彼女はそういうと、一息つき、再度教授たちを見まわした。




