第70話 黒幕1
冬が終わり、春の訪れを予感する季節。メリーアン達がこの研究に従事して1年と半年の時間が経過していた。アミットと話してからはもう3か月たっており、彼は自宅に退院していた。一度研究室に尋ねてきたが、その時彼は車いすを使用していた。あの骨折は彼の体力根こそぎ持っていき、完全な回復に至れなかったようだった。
メリーアン達はこの3か月でアミットの仮説を検証し、そのほとんどを完了しかけていた。やはり彼は正しかったのだ。あとは細かい部分を詰める段階となっており、手が空いたものは黒幕の解析と対抗策の立案のための研究を開始していた。
「じゃあ、行ってくるわ。」メリーアンはUSBメモリを片手に会議室に向かった。これから行くのは教授会であり、彼女にとっては戦いでもあった。
すでにアミットの仮説についての論文は雑誌に投稿しており、あとは掲載の判断を待つばかりだ。すでに査読者からのコメントは帰ってきており、それには適切に答えられたと思う。少なくとも仮説としては検証を行うに値するものだと判断されているのだろう。あとは世界を納得させ、対抗策を考えていくだけだ。そう考えながら、彼女は会議室の扉をくぐった。
すでにプロジェクターの電源はついており、部屋は少し暗く調整されていた。彼女の席は発表席の最も近くに設置されており、彼女はそこに着席した。理学部の教授はほぼ全員そろっており、彼女を貫かんばかりの視線を向けている。
また、部屋の一角にはモニターが置いてあり、そこには何人もの顔が映っている。この発表を遠隔で聞こうとしている英国怪獣対策委員会のメンバー達だった。この論文の話を聞き、今回の発表を聞くことを希望してきたのでこのような形をとった。彼らの視線も同じように鋭く、モニター越しにピリピリとしたものを感じるくらいだった。ただ、肌に感じる視線は攻撃的な雰囲気を含んでおらず、ただそれは単純に、彼女の説明を一言も聞き漏らすまいといった真剣さの現れだった。
今日ここで彼らを納得させられないなら世界を納得させることは不可能だろう。すでに論文の内容を有力な学者に送っているが、方々から詳しい説明を求められている。すでに1か月後の国際学会に招待を受け、緊急ではあるが公演をすることとなっている。今ここで彼らを納得させられないなら、そこでも失敗するだけだろう。そう思いながら彼女は緊張で喉の奥がぺたりと張り付いていくのを感じた。そして全員が揃うまで数分待ち、扉を閉め、理学部長が音頭を取り教授会が始まった。




