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第6話 壊れ始める日常1

まだまだ序盤。

 秋の過ごしやすい夜が深まる中、健太は由美とソファーに座りテレビ画面から流れるニュースを見ていた。カーテンの隙間からは涼しくて気持ちのいい風が部屋の中に吹き込んでおり、その方向を見るとレースのカーテン越しに美しく光る満月が空に浮かんでいるのが分かった。夏に公園で巨大な花を見てから約3カ月が経ち、二人はすこし大き目な部屋で同棲生活を営んでいた。すでにお互いの親には挨拶に行っており、いずれ結婚をすることは想像に難くなかった。

 普通に考えれば幸せの絶頂といってもいいような状態であったが、目の前に流れるニュースの内容がその感情を塗りつぶしていた。ニュースでは、全世界各地で目撃された異常な行動を示す動物たちの映像が次々に紹介されている。人里離れた山間部から都市の郊外に至るまで、平穏だった日常が突如として破られた瞬間の記録だ。


 画面上で、静岡県の郊外に出現した4mほどの巨大な猪が映し出される。その猪はまるで映画の一シーンのように、家屋をものともせずに突き進む。まるで生きている戦車のようで、バリケードのように停められたパトカーにぶつかりながら大暴れしていた。そこでシーンはカットされ、アナウンサーが警察の特殊部隊が出動し、最終的に駆除されたが、家屋約30棟が損壊し、けが人も30人を超えると報道された。次に映されたのはアメリカで巨大化した未知の魚が港に侵入し、停留してある小型船に体当たりしている姿を映していた。クルーザーを水中に沈めた魚はそのままどこかに泳ぎ去っていったとのことだ。


 アナウンサーの声は冷静に、しかし緊迫した状況を伝える。


「このような事態に対し、各国において調査チームの設立が宣言され、調査に乗り出しています。日本においても先日内閣の特別対策室が設立され、調査が開始されています。」


 健太はテレビ画面から目を離せずにいた。彼の心は、映像に映し出された光景の異常さと、それがもたらすかもしれない未来への憂慮でいっぱいだった。彼女を見ると、自分と同じような、心配そうな表情を浮かべている。健太の心にはこれまでの穏やかな日常がいかに脆いものだったかという認識と、未知への恐怖が広がっていた。


 画面はスポーツニュースへと移り変わるが、健太の頭の中は先ほどの映像でいっぱいだ。無意識にため息をついてから、窓の外を見つめる。外の世界が変わり始めていることを、自分は痛感していた。数カ月前から感じていた小さな変化はこの予兆だったのかと納得がいく気持ちと共に、将来への不安が首をもたげてきた。その時、自分の手の上に重ねられていた由美の手が握られる。彼女の顔を見ると、不安そうにこちらを見つめていたが目が合った瞬間微笑んでくれた。彼女は自分にはもったいないくらい素晴らしい女性だ。自分だって不安だろうに、それを隠して励ますような態度をとってくれている。彼女に気を使わせてしまった自分のふがいなさを自覚すると同時に、健太は改めて彼女を幸せにすることを決意し、彼女を抱き寄せた。

 

二人は、しばらくの間言葉を交わさずに、お互いを抱きしめあう。テレビの音量を下げた部屋には不確かな未来に対する不安で冷え込むように感じられたが、二人の絆のぬくもりが満ちてもいた。

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