第66話 男の話2
だけど、由美に関しては少し話が違った。こちらに引っ越してきてから、会社で上司や同僚から恋人や結婚のことを聞かれることがたまにあった。別に出世をしたいわけではなかったが、会社では今でも結婚して一人前だという考えが残っていたようで、それで時々探りを入れられていたようだった。なので、その頃は恋人を探すため、出会いを求めていた。
彼女を選んだのは偶然で、別に彼女でなくてもよかった。見た目はかわいらしく、おとなしい。正直ちょうどいいと思った。でも、最初の頃は話しかけるのが苦痛だった。
可愛い顔立ちをしていたが、常に暗い表情をしており、返答も言葉が少なかった。だが、ある程度会社に通う度に話をしていると表情も明るくなってきたし、会話も続くようになってきた。そして由美の方から話しかけてくるようにもなった。意を決して連絡先を渡すと受け取ってくれ、そこからはラインで連絡を取るようにもなった。多分、もうその時には彼女は自分のことが好きだったのだろう。
それからはデートに何回か行って、告白した。付き合ってから予想外だったのは彼女が思った以上に家庭的で、優しかったことだ。最初に会った時に印象と違い、非常に甲斐甲斐しく尽くしてくれてこちらが申し訳なく思うくらいだった。その頃だろうか、彼女のことを好きになり始めたのは。
そこからは坂を転がるように彼女のことを好きになっていった。彼女の仕草、彼女の話し方、彼女の考え方そのすべてが好きになっていった。彼女の好きそうな場所にデートコースを設定して、それで彼女が喜んでくれるのがうれしかった。仕事終わりに彼女と電話するのが楽しかった。彼女の横顔を見るのが好きだったし、彼女の寝顔を眺めているとあっという間に時間が過ぎた。彼女と一緒に暮らしているときは毎日が幸せだった。世界はとても不安定な状況だったけど、それでも自分たちは幸せだったし、何かがあっても彼女を守ろうと思っていた。
だから妊娠が判明したときに結婚を申し込んだ。多分、今までの人生で一番真剣だったし、一番ドキドキした。それで、結婚を受け入れてもらえた時には天にも昇るようだった。
でも、それ以上に、隼人が生まれた時は幸せすぎてどうにかなるかと思った。おさんが終わり、ぐったりしている由美、そして小さな隼人。二人の無事な姿を見た時に涙が込み上げてきた。何より、小さな隼人。あの子を胸に抱いた時、心の奥底から爆発するような喜びというか、幸せな感情が噴き出してきた。その時から、自分にとって何よりも大切なものが二つになった。
今までどんなことにも真剣になれなかったけど、二人を守るためならなんでしようとその時に誓った。




