第62話 黒幕探し3
その後1時間かけてスージーはスミスや友人と交渉し、3枠分の電子顕微鏡の使用時間を確保した。非常にめんどくさい申請書を書きつつ、出勤してきたラボメンバーに仕事を割り振り、それぞれから理由を聞かれた。
ただ、その説明に関しては准教授室にいる鬼気迫った様子のメリーアンを指さすだけで済んだため、それほど手間ではなかった。
結局その日は一日をかけても仕事が終わらず、ラボメンバーもかなり遅い時間まで残って作業をしていた。今日だけでは終わらない作業が多かったのもあるが、単純に解析するサンプルの数が多いということも要因であった。
メリーアンも結局資料の調査が終わらなかったのか、すこしやつれたような顔をしながらも今もパソコンにかじりついてた。スージーはこの作業にはまだまだ時間が必要だと考え、席を立って大きな声をだした。
「さあ、みんな。いつの間にか夜の9時よ。もう今日は帰りましょう。まだまだ時間は必要だし、今は別に踏ん張る時ではないわ。」そう言うと、ラボメンバーたちに撤収するように伝えた。
彼らもみな顔を見合わせ、言葉に従い試料などをしまい始めた。実際のところ、鬼気迫るメリーアンに呑まれていたところもあるのだろう。そうして一人また一人帰路についた。閑散としたラボにはメリーアンとスージーのみが残っていた。
メリーアンはまだパソコンの画面を見つめ、何か作業をしていた。朝に会った時よりも青ざめた顔で、見てわかるほどの疲労が浮かんでいた。
「さあ、メリーアン、あなたもよ。ひどい顔してるわ。もう帰って眠ったらどう?昨日何時に病院に行ったの?ほとんど寝てないんでしょ?」彼女は准教授室の扉に体を預けながらメリーアンに声をかける。
「大丈夫。あと少しだけ。」
朝にしゃべった時以来初めて彼女はスージーの言葉に反応した。顔も上げず、画面を見つめたままであったが、それでも集中力が切れてきているのは確かなようだった。
「そう。わかった。でも根を詰めすぎてもだめだと思うわ。まだ始めたばっかりだし、わからないことも多いんだから。」スージーはまだティーバッグの入ったマグカップを彼女のデスクの上に置きながらそう言った。
「いえ、わかっているわ。今やっているのは検証なのよ。そして、たぶんアミットが正しい。今起こっている惨事なんてただの始まりだし、これからもっとまずいことが起こるのよ。」メリーアンはマグカップをちらりと見ると手に取り、ティーバッグを捨ててから一口飲んだ。
「何のこと?今散発的に起きている襲撃がもっとひどくなるってことかしら。確かに可能性は十分あるとは思うけど。」スージーは手ごろな位置にあった椅子を引き寄せ彼女のデスクの傍に座った。
「そうじゃないわ。襲撃とは別の話。」
「わからないわね。怪獣がさらに大きく強靭になることは確かに恐ろしいとは思うけど、大きくなるペース自体は鈍化している気がするのだけど・・・あとはやっぱり変異している動植物のパターンが判明していないことかしら。」
「そう、それよ。それに関する仮説をアミットと話したの。で、たぶん彼の仮説がその答えなのよ。でもそうするとこの後にさらなる地獄が待っていることになるわ。早く対策を見つけないと。」そう言うと彼女は再度画面に顔を移した。
「そう。朝言っていたことね。結局お互い時間ができなかったわね。」スージーは背もたれにもたれこみながら、そう話を続ける。
「ええ、そうね。ねえ、今からその仮説、話しましょうか?」メリーアンが再度顔を上げ、尋ねる。
「ええ、お願い。でも、待って。クッキーも持ってくるわ。食事お互いに忘れてたでしょ?あなたが好きなジンジャークッキーがあるから。」そういうとスージーは立ち上がり、冷蔵庫の方に向かった。
帰ってきたスージーはメリーアンと顔を突き合わせ、仮説を聞く。最初は陰謀論にも聞こえたが、今日調査した内容と自分が見てきたサンプルのデータを合わせると現時点でも十分あり得る話であった。そこから二人はいくらかの議論をぶつけ、そして二人とも納得した。
その後、結局二人は帰ることなく朝まで仕事をし続けたのだった。




