第61話 黒幕探し2
朝、出勤してきたスージーは准教授室で資料を読み込んでいるメリーアンに気がついた。
「おはよう、メリーアン。早いわね。よく寝れた?」彼女はそう挨拶をすると、自分のデスクに荷物を置きに行く。
「スージー、おはよう。早速だけど色々とやってもらうことがあるの。」メリーアンは立ち上がり、自分の部屋のドアに持たれながら彼女の背中に声をかける。
「どうしたの?というかちゃんと寝れたの?なんだかとても疲れてそうだけど?」スージーは歩みを止め、振り返りながらメリーアンの顔を見て疑問に思った。もしかして寝ていないのか。それとも、自分たちがいなくなった後からここにいたか?そう思いながら彼女の言葉を待つ。
「まず、アミットが入院したわ。」
「は?ちょっと待って。どういうこと?何があったの。」スージーはバッグを適当なところに置き、彼女の方に歩み寄る。その顔には困惑の色が浮かんでいた。
「転んで骨を折ったの。緊急手術になったわ。手術は成功してるし、元気よ。で、次の話、みんなの研究を一時的にすべて凍結させて。ジョンのたんぱく質の構造推定、エリザベスやジャックの変異遺伝子の機能特定、ジェニーやクリスの免疫染色、ライリーの現地調査も全部よ。もちろんあなたも私もよ。」彼女は有無を言わせぬ態度でスージーに申し付けた。生まれのせいか、こういう時の彼女は威厳があり、大抵の人は理由を尋ねることもできずにまずは言うことを聞いてしまう。
「ちょっと待って。いきなりなに?理由は?それにアミットのお見舞いにもいかないといけないし。」だがスージーは付き合いが長いせいか。そのような態度を取られても意にも介していないようで、彼女に詰め寄ろうとした。
「それは後。これはアミットのお願いだし、教授および准教授連名の命令よ。理由は後で説明するし、文句はすべて終わってから聞くわ。ほら、このメモ。昨日のうちにそれぞれがやるべきことを書いておいたから。とりあえずあなたはスミスのところに行って電子顕微鏡の順番を交換してきてほしいの。スミスがだめなら誰かほかの人に交渉をお願い。これが今日の予約のリストだから、あなたが知っている人と交渉してほしいの。」彼女はスージーの文句をバッサリと切り捨てメモを渡しながら言葉を続けた。
「とりあえずサンプルはすべて冷蔵庫の中でラベルを付けて整理してあるわ。昨日のうちにある程度準備をしたかったけど、文献調査の方に時間がかかってしまったわ。まだ必要だと思うから、私は昼までパソコンの前にいる。あなたは交渉に成功したらメンバーに仕事を振って、そこからやることをやって。昼以降に時間が出来たら詳しい理由を話すから。あと細かいメンバーに対する指示はそこに書いてあるけど、疑問があったりしたら私のところに来させて。」そう言うと彼女は自分の部屋に戻り、再度パソコンを眺め、何か文章を書き始めた。
メリーアンがこのような態度をとるのは久しぶりだ。スージーが研究室に入ったころのメリーアンは今のようにギラギラとしており、近寄りがたい雰囲気をしていた。
しかし、彼女と時間を過ごすうちにそれは彼女の内面が攻撃的なせいではなく、ただ人づきあいが苦手なところに起因していることに気がついた。そこから、ともに出かけるようになり、少しずつ仲良くする中で態度が柔らかくなってきたのだ。しかし、今日はまるで昔に戻ったかのようだった。
スージーは少し不満に思いつつも、メモに目を移し、内容を読み始めた。
「ちょっと、これ一枠じゃ無理じゃない?最低でも二枠確保しないと時間が足りないんじゃないの?」そう文句を聞こえるような声で言うが、メリーアンは答えない。
「てか、何なのこのサンプルの数。一体昨日何時間準備してたの?」メリーアンはその言葉に顔を上げることすらせず、デスクの上に広げられた書類にしるしをつけつつ、パソコンを見つめ何かを書き続けていた。
「ああもう!わかったわよ。やればいいんでしょ。」そう言うとスージーは部屋を出ていった。おそらくスミスに会いに行ったのだろう。




