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第54話 幸せの終わり1

N市にサイレンが鳴り響く。由美は先ほど消したテレビをつけなおす。するとすべてのチャンネルが災害緊急速報に切り替わっていた。いつもならこのようなときにも通常の番組を流してくれるようなチャンネルでさえ、速報を流していた。


 番組ではヘリコプターの光に照らされた凄まじい巨大な虫の群れが家や商店をなぎ倒しながら進行している様が中継されていた。アナウンサーは真っ青な顔をしながらも冷静に、声を抑えつつもしっかりとした口調で視聴者に避難を呼びかけていた。


「ただいま、A県K市にて大規模な怪獣の発生を確認しました。この怪獣の群れは時速20㎞程の速度でN市に向かって進行しています。N市、S市、K市、H市、O市全域に現在緊急避難命令が出ています。指示に従い最寄りの避難所に退避をしてください。これは訓練でも映画でもありません。直ちに避難してください。繰り返します。ただいま、A県K市で・・・」


 彼女は自分の目に映っている光景が理解できなかった。ほんの少しの間テレビの画面を見ていると、そこに自分が健太とよく行っていた大型商業施設が映った。その施設自体は損傷を受けていない様子だったが、その光景をみて彼女は自分が見ているものがかなり近い距離で起こっていることをようやく理解した。


「なに、これ??噓でしょ?」彼女は答える者のいない部屋で独り言を言っていた。


「嘘?本当なの?逃げないと。でも、どこへ?」そう言うと彼女は少しの間おろおろと部屋を動き回り、そして最終的に思い出したのか健太と前に話していた避難用のバッグを取りに隣の部屋に移動した。粉ミルク、栄養バー、水や懐中電灯などのセットが入った避難用のバッグが寝室に用意してあった。


その時、リビングに置きっぱなしにしていたスマホに着信が入る。それに気が付いた彼女はリビングに移動しスマホを手に取る。健太だった。まるで天から糸が下りてきたかのようなに思えた。彼女はすぐに電話を取った。


「健太!ねえ、何か起こってるよ。ねえ、私不安で怖くて本当にどうすればいいかわからなくて。ねえ、助けに来てくれるよね?」彼女は一気にまくしたてる。電話越しの健太の声は周りの音がうるさく、また彼も走っているのか聞き取りづらかった。


「ねえ、私どうすればいいのか本当にわからなくて。え、避難?そんな、、、でも、そんな、私できる自信ないよ。うん、隼人?隼人は今寝てる。え、私が?そんな、無理だよ。どこに行けばいいのかわからないもん。え?地図?あ、あった、、、」彼女は健太から指示され、バッグの中を探す。すると中には防災避難マップが入っており、赤のペンで最寄りの避難所がマークされていた。健太がこのような事態を想定して地図を用意していたのだ。


「ねえ、今から帰ってこれないの?私じゃ無理だよ。ねえ、助けてよ。」彼女は涙を流しながら自分の不安を一気に吐露し、健太に助けを求めた。元々親のいいなりで生きてきた彼女にとって、自分で何かを決めるのは非常に難しく、つらいことであった。


「え、でも、そんな。私そんなこと無理だよ、出来ないよ。お願い、助けてよお。ねえ、健太、お願い。」彼女はスマートフォン越しの健太に縋るように助けを求めた。

 

 これは彼女の悪い癖でもあった。彼女は今まで自分で何かを決めることがなかったし、そのせいか自分で何かを決めることから逃げるようになっていた。平時であれば健太がすべてを最終的にやってくれていたし、それで問題が起きることはほとんどなかったが、今回はそうはいかなかった。


「ねえ、健太、本当にお願いだから。え、ちょっと、健太、健太。」そうしていると健太から通話を一時的に切ることが伝えられた。丁度避難所に到着し、そういう指示があったとのことだった。


 彼女は気づいていなかったが、健太がいた繁華街はK市に近く、すでに怪獣の群れが近くまで来ていた。彼の避難先は怪獣の進行に丁度ぶつかる位置にあり、警察もそれに備えるためできるだけ静かにするように住民に伝えていたのだ。


「そんな、ひどいよ。私無理だよ。」


 彼女は切れたスマートフォンを見つめながらそう独り言を言った。いつも優しく、自分の言ったことはなんでもやってくれた健太。今一番助けてほしかったのに断られたことに彼女はショックを受けていた。もちろん、こういう状況では仕方がないことはわかっていたが、やはり今の不安で心が張り裂けそうな中で誰も助けてくれないのはつらかった。


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