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第3話 日常 小さな変化

2014年、夏の土曜日の朝、今日はいつもに比べ少し気温が低く、最近の猛暑の中では過ごしやすい日であった。健太は由美とデートに出かけることになっており、短めのズボンと薄いTシャツを身に着け外に出た。彼女とは公園の前で待ち合わせする予定となっていた。いつもよりは気温が低いとはいえ、むしむしとした道をできるだけ早く歩き、公園へと向かった。

 公園の中にはすでに日傘をさす由美がいて、彼のことを見つけると手を振ってくれた。健太は待たせたことへの謝罪をしながら合流し、二人は公園を横切ってバス停へと向かった。


 その道すがら、ふと見ると木々の間に見慣れない鮮やかな赤色の花を見つけた。公園に咲く花としては大きく、見た目は椿のような、ハイビスカスのような、中央からめしべとおしべが突き出て、それを中心に外に大きく広がるような形をしていた。また、その茎は太くて背も高く、全体的にはヒマワリのような見た目をしていた。一つ一つの花弁の大きさが不ぞろいで、色の入り方もそれぞれ濃さが違っており、全体的なプロポーションがいびつで、他の花とのバランスを欠いているように感じた。

 隣にいた由美も同意見であり、まるで異物がそこに突然出現したかのように感じたと言っていた。この花については他の公園の利用者も同じことを感じたのか、朝の早い時間であるにもかかわらず小さな人だかりが公園にできているような状態であった。

 ただ、健太も含め彼らの誰もがその光景を不思議に思えども明らかな異常とはとらえず、そのうち一人一人と離れていった。健太たちも同様に興味を失い、予定していたバスに乗るためその場を離れた。

 

 二人のデートから数日後、健太は日常生活の中で普段とは異なる動植物を見かけることが増えた。市内を駆け回る中で目にする景色が、何となく以前と変わり始めているように感じられた。オフィスの照明を提案するために訪れた企業の周囲の植物、通勤途中の公園で見かける鳥たち、さらには、恋人と歩いた夜の街角で見上げた空に舞う蝶や蛾までもが、いつもとは異なる大きさや色をしているように見えたのだ。


 ある夜、友人たちとの飲み会から帰る途中で見上げた空に、いつもとは違う異様に大きな何かが飛んでいるのを目撃した。暗闇でよく見えなかったが月に照らされるそれは自分が知っている飛行生物のどれよりも大きく見えた。その信じがたい光景に、健太は一瞬足が止まった。

 先を行く友人に声を掛けられ、はっとした健太がその光景について話すと、友人たちも思い出したかのように自分たちが日常で見かけた不思議な生物や植物の話をし始めた。

 突如現れた大きな花や蔦などの植物、巨大化したネズミ、川を遡る大きな魚など最近ニュースでもちらほら取り上げられるような話をそれぞれが自分の体験として話し始めた。それまでは見かけても一時的なものとして忘れていた話が、まるで点と点を結ぶように感じられ、健太は自分の背筋になにか冷たいものが駆け上がるような感じを感じた。

 彼らは全員が何か恐ろしいものが街の裏側をはい回っているような感覚を覚え、酔いの醒めた足取りでそれぞれの家へと帰っていくのだった。


 次第に日常の中で起こる小さな異変に心を乱され始める健太。これらがもしかしたらもっと大きな何かの前触れなのではないかという考えが頭をよぎる。ただ、それで何がどうなるのか、全く想像ができない。

 

 ある日、健太は由美とベッドに横たわりながら、窓の外を見つめた。疲れ果て寝息を立てる恋人を横目に見る夜空はいつもと変わらないように見えたが、心のどこかで、世界が微妙に変わり始めていることを感じ取っていた。それは、まだ見えない未来への予感のようなもの。明日もまた、普通の日常が待っているはずだが、健太にはそれが少しずつ、しかし確実に異なるものに変わっていくような気がしていた。


眠りに落ちる瞬間まで、自分の心はその不確かな予感に揺れ動いていた。

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