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第32話 女の話6

 母に結婚の挨拶に行ったときには胸のすくような思いがした。母は健太に会うと昔のように、そして今でも息子にしゃべるかのように猫なで声で喋り始めたのだ。私は最初唖然としたが、彼女の瞳がこちらを見た時にすべてを理解した。嫉妬。嫉妬の色に染まった美しいが、とても醜い女がそこにいた。

 やはり、彼女の処世術は男に媚びることだったのだろう。頼れる男を探し、その男に寄生する。その結果引き当てた男があんな男だったから、次の男を息子に求めたのだろう。そして私は同じ屋根の下に住むライバル。憎くて憎くてたまらなかったのだろう。今まで生きてきて、自分が憎まれているのはわかっていたがなぜなのかはわからなかった。でも、今日初めて理由が理解できた。私の家にいたのは母親ではなく、最初からずっと女だったのだと。


 それを理解した瞬間、私の顔は自然とほほ笑みの形になり、隣で真剣な顔をして私との結婚の許可を求める健太を愛おしく見つめているように見えただろう。作ったような笑顔を張り付けたあの女は、大切にしてほしいなどというたわごとを言っていたけど、それはどうでもよかった。今まで自分の体に巻き付いていた鎖のようなものがほどけ、自分が自由になった気がした。その解放感を味わっている内に、健太もあの女も話を終え、帰宅することになっていた。その日は嬉しくて嬉しくて、夜も眠れないほどであった。


 でも、次に健太の両親に会いに行ったときは何とも言えない気分になった。とてもやさしそうで、お互いのことを愛しているのがよくわかる夫婦。人間が健太のような性格に育つには、こんな親が必要なのだとその時実感した。自分でも言葉にできない気持ちで心がドロドロになっている間に、挨拶自体はつつがなく終了し、私はその気持ちを胸にしまいつつ、健太の実家を後にした。

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