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第31話 女の話5

そんな時だっただろうか、健太と出会ったのは。職場に出入りしている企業の営業で、明るく、声が大きくて無遠慮な青年だった。一般的には好青年と映るのだろうが、女学校を出て、女子しかいないような短大を卒業した由美にはあまり出会ったことがないタイプであった。多くの好かれる人とはこのような人を言うのだろうとは思ったが、自分としては苦手なタイプでもあった。

 

 初めて会った時はそういう風に思っただけで終わったのだが、彼は来るたびに自分に話しかけてきた。おそらくこのフロアに彼と似た年齢の職員がいなかったせいだろう。当初は苦手意識が強く、ある程度の言葉しか返せなかったが、その内なれた。でもいろいろとやり取りをしていると、勝手にこちらの感情を推察して、思い込みで押しつけがましい発言をしてくるのはやはり苦手だと感じた。

 会社同士の付き合いもあるためいちいち否定したり、訂正したりするのも面倒だし、実際一般的には間違っていない発言や行動をとってくるのでそうするのは不自然なのもある。ただ、正直な話、人の上っ面しか読み取れない、薄っぺらな人間だとは思った。

 

 でも、そうこうしている内に、これはチャンスでもあるのではないかと思った。あの暗い、居場所のない家から出られるチャンスだと思ったのだ。彼は背も高く、顔立ちも悪くないし、タイプかといわれるとタイプだ。勤めている企業も悪くない。結婚すれば家を出る理由もできる。


 そのあとのことは簡単だった。できるだけ彼と話す時には嬉しそうな態度をとっていると、その内に連絡先を交換することができた。今まで読んだ本の受け売りではあったが、できるだけ二人でいるときが楽しいようにつくろい、多分こう思われるであろう、と考えながら様々な態度をとっているとどんどんと相手は自分に興味を持ってくるようだった。

 母のようには猫なで声で媚びるような態度までは取れなかったが、母がそんな態度をとっていた理由がよくわかった。男はそれくらいやると引っかかるし、それくらいしないとわからないのだ。

 

 その内、デートに出かけるようになった。今まで持っていた服はどれも地味で映えなかったので、捨てて新しい服で出かけるようになった。デートは今までしたことがなかったが、新鮮で楽しかったし、健太との会話はうんざりすることもあったが、楽しいこともあった。何より、家を出るとき、帰ってくるときに見る母の何とも言えない、悔しいような憎いような表情を見るのが楽しかった。


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