表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/114

第30話 女の話4

そうこうしている内に父が癌になった。前立腺がんだった。元々医者嫌いで、会社の健康診断の勧告を数年間無視して受診をしていなかったらしい。会社自体はもう退職しており、どこか他の会社の相談役をしていたが、健康診断なんて受けていなかったのだろう。体調不良でやむなく病院を受診したときに判明したようだ。

 すでにその時点で進行していて、末期の状態だった。その診断を告げた医者を藪医者呼ばわりし、無理やり大学病院を受診。そこで全く同じ診断を告げられ観念したようだった。その後はなんだかよくわからない食事療法だとか、免疫療法だとかを受けて、まったく効かないまま悪化していった。


 あっという間に悪くなって、最後の1か月は病院に入院していた。でもあまり私は面会に行かなかった。母と長男はよく面会に行っていたし、次男は一人暮らししていたからわからない。でもいつも帰ってくる母はうっとうしいというか、うんざりした顔をしていた。

 一度意識がなくなってから病院に面会に行ったが、からからに乾いた意識のない老人がそこに横たわっていた。しわくちゃで、頬がこけ目の落ちくぼんだ苦しそうに呼吸するかつての父の残りカスみたいな男がそこにいた。特に声をかけることもなく、何も感じないまま病院を出て、それで・・・それで笑いがこみあげてきてしまった。昔はあんなに偉そうで、嵐のような人だったのに、今やその嵐でへし折られそうな枯れ木になってしまっていた。本当におかしくて、今でもなんだか笑ってしまいそうになる。


 結局その日から1週間後に父は死んだ。何も感じなかった。正直父が入院してから死ぬまでの時間の方がよっぽど人生でつらかったかもしれない。陰鬱な母との時間。仕事から帰ってきて、表情のない母が帰ってくる息子を花の咲いたような笑顔で迎えるまでの数時間がまるで永遠のように感じたものだ。当時は今後一生これが続くのかと絶望していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ