第29話 女の話3
ある日いつもは息子たちばかりに熱を上げている母親が話しかけてきた。いつも父と話す時や兄達に話す時は猫なで声というか、甲高い声を使って話している彼女は、私と話す時だけは声のトーンを下げる。というよりもこれが地声なのだろう。話してきた内容は私が学校でいじめにあっていないか、つらいことがないかということであった。
自分のことを気遣ってくれるなんて珍しいと思いつつ、特に困っているようなことはないことを伝えた。そうすると、そう、それは良かったなどと抑揚をつけずに言いつつ、歩み去ってしまった。でも、その時にちらりと見えた彼女の眼というか、表情には残念さと悔しさが垣間見えた。わかってはいたが、多分私は母から嫌われていたのだろう。それもひどく。
兄たちはあまりかかわりがなかった。小さい頃はともに遊んだが、兄たちは塾に習い事が忙しく、自然と会話が減っていった。長男は口数が少ない、というか自我が薄いのか親の言いなりだった。自分のことを妹とはわかってはいたが、特に何も思っていないようで、かかわってくることはなかった。次男は事あるごとに私にやさしかったけど、長男と同じで親に行動を支配されていた。
高校をでて、父が希望する、何のためにもならなかった短大をでて、私はこの前まで勤めていた会社に就職した。その会社ももとは父の会社の取引先で、ただのコネ入社だった。父としては結婚までのつなぎのつもりだったのだろうか?今となってはよくわからないが、そこでは卒なく過ごせていたと思う。




