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第1話 予兆

まだまだ触り程度の変化

2014年,初夏の日差しが心地よい午後、西日本のとある町のはずれの雑木林で小さな異変が起きていた。


 学校帰りの小学生たちが見たこともないような大きさのバッタを見つけたのだ。その大きさは大人の手のひら大、ずっしりと重そうなその体をものともせず、子供たちの背丈に近づくほどの高さまで飛び跳ねていた。


 みんな当初は精密なラジコンか何かだと思っていた。だが、動きが止まった時に近づき、それが本当に生きているバッタだと気がついた。

 色は緑色と茶色が少し混ざったような色で、通常の大きさのバッタに比べ脚がすべて太い。特に後ろ脚は太く、そこにいた誰もが見たことのないくらいだった。その場にいる誰もが知らなかったが、同じくらいの大きさである世界最大級のバッタ、リオックのそれよりも太かった。顔はいびつで、触覚の長さ、顎の大きさ、複眼の大きさが左右で違っていた。


 いくらやんちゃ盛りの小学生といえども、その一目見てわかる不気味なバッタに近づくものはなく、ただみんなで唖然として様子を見ていた。小学生たちがお互いに誰が最初に触るかを相談し、探してきた小枝で恐る恐るつつこうとしたとき、そのバッタはまた動き始め、雑木林の中へと飛び込み姿を消してしまった。


 その後家に帰った彼らは各々自分の親たちに今日見たものとしてその大きさを精一杯伝えようとした。しかし、どの親も子供の言っていることだとまともに取り合わず、そのうち子供たち自身も忘れてしまった。


 とある漁村では漁師たちが海からの帰還途中、異常な光景に遭遇した。元々この時間帯に水面近くで魚の群れを見ること自体が稀であったのだが、その日はそれだけではなかった。水面近くをかなりの数の魚が泳いでいただけでなく、その魚たちは非常に大きく、また形も今まで見たことのないようなものであった。漁師たちは目の錯覚かと思い、とっさに網を投げ入れ、そして網の中にいた魚を見て自分たちの目がおかしくなったのではないことを理解した。

 

 港まで持ち帰られた魚は他の漁師、組合の職員の目を引き、議論の的となった。見た目もいびつで何の魚かがまったくわからない。科学的な知識をほとんど持たない村人たちにとって、いったい何が起こっているのか皆目見当がつかなかった。話はすぐに村中に広がったが、多くの大人たちは海の怪異として片付け、深く考えることを避けた。一部の人間はこの魚をしかるべき研究機関に持ち込み、調査を受けるべきだと考えたが、村長はその魚を廃棄することに決めた。


 これらの小さな事件とほぼ同時期に、別の町の片隅でまたしても奇妙な出来事が起こっていた。地元の小学校の裏庭で、普段なら見向きもされない雑草が異常な速さで成長し、一夜にして校舎の倉庫を覆い尽くした。雑草の中からは不格好な形をした大きな花が咲いていた。


 花の色は中心が紫、外に向かって桃色にグラデーションで変化していくような色彩をしていた。全体的な形状はバラに似ていたが、花弁の開きが大きく、一つ一つの花弁が肉厚であった。学校の先生たちは、子供たちがその花に触れないよう注意を払ったが、好奇心旺盛な子供たちは、休み時間になるとその花を見に集まった。しかし、花からは強烈な匂いが放たれており、近づく者すべてを咳き込ませた。 

 

 この事象については地元の新聞に短い記事が掲載されたが、具体的な原因や対策については言及されなかった。また、花と雑草も気がついたら枯れており、調査のために地元の大学の研究者が到着したころには生きたサンプルを採集することはかなわず、枯れた花のかけらと蔦や茎、葉の残滓を回収することしかできなかった。記事を読んだ人々は一時的には関心を示したものの、日々の生活に追われる中で、やがてそのことを忘れていった。

 

 しかし、この花の調査に関しては後に従来存在している類似した植物との遺伝的な相違点が見つかり、調査を行った大学では新種発見と話題となった。だが、発表をする段階にはもはやその話題は大きなものとなりえなくなっていた。



 一つ一つの出来事は奇怪ではあるが、人々の耳目を通り過ぎていくだけのものであった。しかし、これらの出来事はただの偶然や一過性の現象ではなく、はるかに大きな自然の異変の序章に過ぎなかった。各地で報告される生物の異常な大型化や変異は、徐々にその範囲を広げていき、やがては人々の生活に直接的な脅威を与えるようになる。これの現象はその大きな変化の小さな予兆にしかすぎなかったのだ。

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