第16話 彼女の過去1
メリーアンの過去編
家に帰ったメリーアンはシャワーを浴び、最低限返さなければならないメールに返信した後、ベッドに座り込んだ。いつも寝る前にはベッドの上に腰かけて本や論文を読んで、眠くなったら寝るようにしているのだが、今日は疲れを感じている。いつもよりは早く眠れそうだ。そう考えると、ベッドにもぐりこもうとするが、その前に体を起こし周りを見る。綺麗だがあまり生活感のない部屋だ。最近はほとんど帰ってくることがない質素な、あまり物を置いてない広い部屋を見回しながら彼女自分の半生を思い出していた。
彼女は代々貿易商を営む家に生まれた。厳格な父親と優しいが厳しいところもある母親、そして兄と妹の五人家族で、裕福で何一つ困ることのない、多くの人がうらやむような家に自分は生まれた。
父は言葉が少なく、常に厳格な佇まいをしていた。背が高く大柄、表情は常に硬いが不快には感じない。背筋が伸びて凛としていた。そして見た目だけではなく態度や行動も厳格さがよく表れていた。会社を運営するものとして自分を律し、それを私たちにも求めてきていた。自分も含め兄弟はみな厳しくしつけられたが、兄と自分は賢く、言われたこともすぐ守れたためあまり細かい文句を言われた覚えは少ない。忙しいため食事の時間は一緒になることが少なかったが、それでも必ず週に1回はともに食卓を囲んでいた。その時は自分も兄弟もピリリとした空気を感じ、緊張し食事の味もわからないほどだった。いつも表情が変わらず、考えていることがわからなくて苦手ではあるが、常に正しく、間違ったことはしない立派な父だ。
母はおっとりとしていて、優しく、愛情深い人であった。やわらかい雰囲気をした美人で、忙しい父に代わり、社会に対する家族の義務を果たすためボランティア活動や地域における交流、家事育児と常に忙しそうにしていた。そして、母は非常に教育熱心であり、私たちには家庭教師をつけてマナーを叩き込まれた。中学に上がってから私も兄も別の家庭教師がついたが、学校での出来事の報告や宿題の提出、行事への参加、進学先の選定などは母親が管理しており、私たちには有無を言わせなかった。
でも、二人のおかげで今の自分の忍耐強さや賢さ、キャリアというものが築けたのは間違いがない。本当に感謝しているし、大好きだ。それに、今になって思うと母と父は家庭内での役割を分担し、私たちを教育していたのだろう。大人になってから二人と会うと以前に比べ砕けたような雰囲気をしており、あの父が面白くはないが冗談をいうこともある。面白くないけど。