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第11話 真夜中の襲撃2

 先日可決された法案により出動が容易となった自衛隊は、巨大な怪物と報告された生物への対処を総理大臣から命じられた。最後に怪虫が確認された場所から2㎞離れた場所に駆除作戦司令部を設置、その後部隊を残った住民の避難を行う部隊と駆除を実行する部隊に分け、作戦を開始した。

 避難部隊は警察の情報からまだ避難が完了していない区画に向けて回り込むように、実行部隊は慎重に、しかし迅速に怪虫の最終確認地点への進行を開始した。夜の闇を背に、彼らは初めて実戦で使用する火器を携えて怪物のもたらした破壊の現場に近づいていった。また現状避難が完了していないのは間違いなかったが、状況が切迫していると判断し、司令部は住宅街に自宅から出ないように音声を流してから交戦開始することを決断した。


 最初の遭遇は、最終の確認地点に近い、住宅街の狭い通路でのことだった。彼らはまず、怪物の位置を特定しようと夜の暗がりに目を凝らした。そして、その巨大な影を確認し、司令部に確認。司令部の指示が出るまで待機した。70年間戦争がなかったこの国において、自衛隊員たちは普段は市民の平和な生活を守るために訓練されている。しかし、今宵は全く異なる種類の敵と対峙することになった。

 司令部からの指示が入り、最初は小火器を使用した威嚇射撃を行った。放たれた弾丸は怪虫の外皮は貫通できているように見えたが、それで怪虫を打ち倒すことはできなかった。むしろ怪虫の怒りを買い、部隊に向けて注意をひいてしまった。司令部の用意していた通り、次の作戦に移行。攻撃を続行しながら後退し、怪虫を住宅地内の公園まで誘導した。


 開けた場所に誘い出された怪虫はあらかじめ公園内に設置されていた投光器により全身を照らし出された。頭部は小さいが巨大な複眼と太くがっしりとしたあご、そこから生える牙、そしてその中心に隠れるように存在する鋭い口吻があった。頸はほとんどなく、胸部から腹部は段々と太くなっていき、尾部に向けて収束するように細くなっていた。脚部は3対存在しており、おそらく胸部と思しき部分から伸びていた。太さはどれも似ていたが、しいて言うなら後ろ脚は若干太い形状をしていた。どれも体幹の太さを思うと細めに見えたが、先ほどまで起きていた殺戮と破壊を見るに十分なパワーを有しているようだった。全体的な形としてはシンプルな昆虫に見えるが、体表の様々な部分が不規則なパターンでごつごつとした甲殻となっており、しかしその厚さはさほど厚くないような見た目をしていた。それは知識がある人間がそこにいれば不気味なくらいに大きなヤゴだと思うような見た目であった。


 公園から100m離れた家屋の上では、夜の闇を利用して、部隊のスナイパーが静かに位置を取っていた。照準器を通して、明かりに照らされた怪虫の巨大な姿を捉える。彼の呼吸は静かに制御され、一点の震えもない。周囲は静まり返り、唯一、彼の心臓の鼓動だけが耳に響く。目標を定め、彼はトリガーを引いた。瞬間、サイレンサー付きの狙撃銃から放たれた弾丸が、夜の空気を切り裂いて怪虫の左側の後脚を正確に打ち抜いた。衝撃で怪虫の脚はまるで紙切れのように吹き飛び、巨大な体が不安定になる。

 怪虫がバランスを崩し、混乱するその瞬間を逃さず、別の地点にいたスナイパーから弾丸が放たれ、今度は眼球を狙い撃ち、怪虫は地面に倒れ伏した。地面に倒れ込む怪虫は、混乱し暴れるが、視界を失ったために的確な反撃ができない。その隙をついて、茂みから一斉に現れた自衛隊員たちが、サブマシンガンで止めを刺す。一斉射撃の雨が怪虫を襲い、最後の抵抗もむなしく、巨大な体は動かなくなった。ついに怪物は力尽きたのだった。周囲は再び静けさを取り戻し、部隊員たちは息をついた。しかし、彼らの表情には安堵よりも、この夜の出来事が何を意味するのかという深い思索が浮かんでいた。


 この襲撃では5名の市民が死亡し、1名が現在も行方不明となった。この時点までに報告されている襲撃事件とは被害の深刻度が違った。今までの事件ではいずれも人的被害としてはけが人程度で抑えられていたのが、今回の襲撃では少なくない数の死者がでることとなった。しかし、この事件は今後人類に降りかかる大災厄のほんの触りにしかすぎなかった。


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