第109話 残された者たち1
2016年の初夏、ここ最近は晴れた日が続いていたが、今日は久しぶりに雨が降っていた。それほど強い勢いではなかったが、しとしとと降り続く雨は夏の暑さと相まってじとりとした湿気を生じさせていた。
久しぶりに袖を通した黒い服が肌に張り付くのを感じながら、メリーアンはスージーや大学院生、他の大学の教員に交じってアミットの実家を訪れていた。生前からアミットと親しかった教員やラボのメンバーは順番にプリヤと言葉を交わしていた。
自分がロンドンに向かった日から2週間後に容体が悪化したアミットは再度大学病院に運ばれたのだ。転移がさらに広がり、状態が危うくなってしまったのだ。その時はなんとか意識を取り戻したのだが、結局そこから2週間と経たずに亡くなってしまった。
自分はというと、ロンドンで委員会のメンバーとディスカッションを行い、そのままメンバーとして推薦を受け、英国怪獣対策委員会に今は雇用されている。一応大学にも籍を置いてはあるが、今はロンドンで研究を行っている。
一度だけ、アミットの面会に行ってきたが、もうその時には意識があいまいな状態で会話をすることができなかった。本当はその3日前にも行けたのだが、忙しさを理由に行くことが出来なかった。
プリヤは何も言わなかったけれど、スージーは時々お見舞いに行っており、アミットと言葉を交わすことが出来たらしい。本当はその時に直接彼に色んなことを伝えたかったのだが、できないままに彼は天国へと旅立ってしまった。
「プリヤ、この度は本当に残念だわ。どうか、気を強く持って頂戴。」自分の順番が来て、プリヤと言葉を交わすことが出来た。もう2か月ぶりになるか。
「ええ、大丈夫。彼とは十分な時間を共に過ごしたわ。もっと過ごしたかったのは確かだけど、彼をこれ以上苦しめたくもなかったし。」彼女は涙ぐみながらそう返答した。
「プリヤ、アミットはあなたと入れて本当に幸せだったと思うわ。」本心から思ったことだった。
「ありがとう。あの人、あなたが対策委員会のメンバーになったことを聞いて本当に喜んでいたわ。でも、同じくらい心配していた。これからあなたが背負うもの、戦わなければならないものがどれほど大きいかを説明してくれたわ。半分くらいしかわからなかったけど、それでも大変なのはわかったわ。」彼女はそう言って、こちらを気遣ってくれた。そこまでしてくれることに対し申し訳なさを感じてはいたが、実際のところ大変なのは間違いなかった