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第10話 真夜中の襲撃1

被害が出始めます

 法案が可決され4カ月が経った真夏の深夜、蒸し暑さが部屋の隅々まで染み渡り、涼しい風一つ通り過ぎることはないような夜が日本のどこでも続いていた。今年は酷暑だろう。空調のない部屋では窓を全開にしても外からは熱を帯びた風がわずかに流れ込むだけで、寝苦しさは一向に和らがないほどであり、日本全国で多くの住民がクーラーをつけていた。これから事件が起こる住宅街でも同様で、街は室外機が発する音だけが聞こえるある種の静けさに包まれていた。しかし、その静寂にまぎれるように、何かが忍び寄る気配があった。

 

 この住宅街は成立が古く、都市計画が不十分だった時代の名残で非常に入り組んだ構造をしている。地域の住民でなければ行き止まり、ループする道などで容易に迷ってしまうような構造をしていた。木造の建物が多く、ところどころに比較的新しい家屋もあったが、全体的には昭和の雰囲気を残す町並みであった。

 そこから少し離れた場所は再開発の波が押し寄せ、区画整理された均整の取れた構造をしていたのだが、山間のこの区画は古い街並みを残していた。


 時刻としては午前1時を回るころだろうか。突如、何か大きなものが衝突したようなすさまじい轟音がしたのち、街の一角から悲鳴が上がる。何かに襲われたような叫び声が、夜の静寂を切り裂く。しかし、何が起こったのか、その姿は暗闇に隠れ、誰にも見えない。地元の自警団が急いで集まり行動を開始する。それぞれが手に懐中電灯を持ち、暗闇の中を探し回る。彼らの足音と緊張した声が夜の空気を揺らす。

 

 そして、自警団が悲鳴の聞こえたと思しき地域に近づくと、うごめくようにこちらに進んでくる巨大な影が、夜の闇の中からゆっくりと浮かび上がってきた。まばらについている街灯の光の中に姿を現したそれは、非常に不格好な姿をしていた。

 それは全長4m、体高2mの巨大な昆虫のような生物だった。血で汚れた前肢と口吻を動かしながらそれは自警団に向かって猛烈に進み始めた。

 

 自警団はあくまで住民が自分たちで組織しているだけであり、その構成員は全員が一般人である。彼らは自分たちに襲い掛かってくる巨大な怪虫を見て恐れおののき、パニックに陥った。逃げ惑う彼らを追う怪虫は、狭い通路が多い住宅地では動きがとりづらいのか時には塀にぶつかり破壊しながら、時には電信柱をなぎ倒しながら逃げ惑う人々を追いかけた。その騒ぎにより複数の住宅の明かりが付き、住民たちが窓や玄関から外の様子をうかがった。直接巨大な影をみた住人は狂乱し、自宅内に引きこもった。あまりにも狂乱したものの中には自宅から飛び出したものもいたが、怪虫の注意を引くことはなく、無事に逃げることができた。また、騒動を遠くから聞いていただけの住人たちは自宅内に戻り、状況を静観した。


 その内、自警団の中で、特に年老いた者や一人遅れる彼を助けようとした者、転倒し、動転して立ち上がることが出来なかった者の3人が追い付かれ、その前肢に貫かれ絶命し、怪虫はそこで腹ごなしを始めた。


 逃げることに成功した人々はすぐさま警察に連絡、同一地区から複数の通報を受け、大勢で出動した警察もすぐに自分たちでは対応が難しいと判断し自衛隊の出動を要請。自分たちは生存者の救出と避難誘導をおこなうこととした。


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