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第107話 幸せのおまじない

 まるでスローモーションのようだった。自衛官の叫び声で後ろを振り向くと、急降下してくる怪獣が見えた。その怪獣は脚のかぎ爪を開いて、由美をつかもうとしていた。とっさに走り出して彼女を押し倒そうとしたけど、数mがまるで何kmもあるように遠く感じられた。

 間に合わないと思った時、いきなり彼女は隼人を投げつけてきた。うまくキャッチ出来たけど、もうその時すでに彼女は空中に吊り上げられていた。うつろな彼女の眼と視線が合って、彼女はにこりと笑って、そして何かを言おうとしていた。声は出なかったけど、口の形でわかった。


 助けようとしたし、助けたかった。けど、そこからの記憶はあいまいで、何かの大きな音がして、たぶん銃声が聞こえ続けて、それで気が付いたらトラックの荷台にいた。隼人は自衛隊の人が抱いてくれていて、自分は床で倒れていた。その後はトラックで病院まで運ばれて、入院になった。何も考えられなかったし、何も考えたくなかった。

 そこからどれくらい経ったのかもわからないが、気が付いたら両親が迎えに来てくれて、それで隼人と4人で実家に帰った。どれくらいの日数が経ったのかもわからないし、わかりたくもなかった。


 結局、何がいけなかったのだろう。今まで何事にも全力を尽くさず、努力をしてこなかったからか?土壇場で覚醒して、何もかもうまくいくなんてマンガだけの話だから、今までのつけがここで来たのか?毎日毎日考えても考えても答えが出ない。

 あの日飲み会に行くと玄関を出た時から、彼女が空に消えていくまでをずっと振り返っても、答えが出ない。

 振り返れば振り返るほど詳細がぼやけていって、でも彼女の笑顔や泣き顔だけはずっと鮮明で、最後の表情と口の動きはいつも同じで忘れることが出来ない。彼女の最後の言葉が頭の中で24時間反響している。それにあの怪獣、あの姿が目に焼き付いて離れない。憎くて憎くてたまらない。でも同時に恐ろしくて恐ろしくてたまらない。目の奥に焼き付いた彼女の笑顔が、やがて怪獣の姿に変わっていく。そんな毎日が流れ、朝も昼もわからなくなっていた。


 何日経ったかもわからないが、気が付いたら毎日が常に闇に包まれたかのように見えるようになっていた。体が重くて、目に見えるすべてが暗闇に包まれていて、何もやる気が起きない。母の声も父の声も、隼人の声も聞こえないし、聞こえても意味がわからない。思考がまとまらない。


 もう、何も考えられない。


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