第105話 彼女の戦い
ヘリコプターから見える光景はわかっていても恐ろしいものだった。四足歩行が基本だが、後脚が肥大化し、まるでT-レックスのような2足歩行に近い姿勢を取っている怪獣が街の端の方で民家を破壊しながら進んでいた。体長は8mくらいあるだろう。体高も5mくらいで、明らかにロンドンで出現した個体よりも大きい。頭部は不格好に大きく、地面から持ち上げるのに苦労するのか顎を地面に引きずるような格好となっていた。
その怪獣が民家を薙ぎ払い、街を進む。歩兵がマシンガンで攻撃しているが、まったく効いた様子がない。
メリーアンがその様子を食い入るように見ていると、先ほど自分と話していた軍人がまた話しかけてきた。
「ミス・ブラックウェル、お疲れのところ申し訳ありません。このまま1時間かけてロンドンまで向かいます。ロンドンに到着後はそのまま対策委員会の本部まで来ていただくこととなります。護衛は引き続き私たちが担当します。」彼は鳴り響くローターの音に負けないように声を張り上げ彼女に言った。
「わかりました。ありがとう・・・一つ、質問よろしいですか?」彼女は彼に感謝をしつつ、下で起きている光景について尋ねようとした。
「ええ、なんでしょうか?」
「下の怪獣、まったく攻撃が効いていないようですが。大丈夫でしょうか?」彼女はそう尋ねる。実際、兵士が無駄に死ぬようなことがあってはならないのだから、今やっていることに意味があるのか気になった。
「ああ、それに関してはご心配なく。あくまでもう少し広い場所におびき寄せているだけです。このあとRPG、つまりロケットランチャーを叩き込んで駆除する予定です。」彼は表情一つ変えずに答える。
その言葉を聞いた直後、下の方から爆発音が聞こえる。慌てて窓をのぞき込むと、黒煙が上がり、体の側面を負傷した怪獣とが見えた。
どうやらロケットランチャーが着弾し、ダメージを与えたようだ。まだ死んではいないようだが、かなり効いているようで、体をふらつかせている。
「よくわかりました。ありがとう。」彼女はそういうと、作り笑いではあるが、微笑んだ。
下の方から何かの咆哮が聞こえる。そしてまた爆発音。おそらくとどめになったのであろう。もう何も聞こえなくなった。彼女は距離が離れてぼやけて見える市街地の方に顔を向けてから、この先のことを考えた。
ロンドンについたらおそらく再度の発表を行う必要がある。そのあとは実際にデータを突き合わせてディスカッションをして、そして今後の調査に関する話し合いだ。そのあとがどうなるかはまったくわからない。何もかもが不透明だ。また大学に戻ってこれるだろうか?スージー達は無事だろうか?彼女は将来に対する不安を感じながら、一路ロンドンへと向かうのだった。
 




