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聖女じゃないと否定したのに王宮に拉致されて囚われの身になってしまった女性の物語〜逃げようと思えばいつでも逃げられるのだけど逃げる訳にはいかないのよねぇ〜(表の題名)

作者: 佐倉佑里

「きゃー!? うさぎさん達がー!? うさぎさん達がー!?」


 孤児院で子ども達と遊んでいたら裏庭で飼っているうさぎさん達に餌をあげにいった女の子の悲鳴が聞こえてきた。


 急いで駆けつけると、女の子が落とした籠の中に餌の人参が入っているのにもかかわらず餌置き場には大量の人参が置いてあって、おそらくそれを食べている隙を狙って攻撃されてしまったであろう、うさぎさん達が血塗れになって倒れていた。


「酷いことをする人間がいるのね。大丈夫よ、リリー。すぐにみんなを助けてあげるから泣かないで?」


 私は女の子を抱き締めて慰めるようにその頭を優しく撫でてから彼女から離れ、血塗れで息も絶えだえなうさぎさん達の前にしゃがみ込む。


「私の寿命を代価に()のもの達の怪我を癒し給え。サクリファイス・ヒール」


 祈るように両手を組んで目を瞑り、口からそんな言葉を紡ぎ出す。


 すると、私の身体から1年分の寿命が奪われて一気にだるくなる。


 けれど、目を開ければ目の前で倒れていたうさぎさん達の身体が暖かいオレンジ色の光に包まれていて、身体についていた大きな傷口があっという間に治っていく。


「すっげー」

「うさぎさん元気になる? うさぎさん元気になる?」

「大丈夫よ、リリー! お姉ちゃんはお医者さんが匙を投げた私の病気だって治したのよ!」

「そうそう! ほら、うさぎ達が起き上がったぞ!」

「本当だ!? 良かったぁ〜」

「みんな不思議そうな顔して首傾げてるね!」

「本当だ!? ふふ、可愛いね!」

「ねー!」


 孤児院の子ども達が笑顔になってくれて良かったわ。

 うさぎさん達が誰も死んでなかったおかげね!

 それにしても誰がこんな酷いことをしたのかしら?

 弱いものを甚振って遊ぶ屑が犯人なら、うさぎさん達のうち何匹か殺されちゃっててもおかしくないのだけど……。


 私がそんなことを考えていると、裏庭の奥にある林の中から甲冑を身に纏った兵士達が姿を現し、その中央にいたいかにもお貴族様ですという感じの見た目だけは良い貴公子が拍手を打ちながら私に声を掛けて来た。


「素晴らしい! 瀕死だったうさぎ達を完全に癒してしまうとは噂は本当だったようだな! その癒しの力は我が王宮にこそ相応しい! 顔も実に好みだ! 胸は……顔のわりに貧相だな……。まあ、そこは他の妃で楽しめば良いか……。コホン。聖女よ、今日から貴様を私の妃の1人に加えてやろう。光栄に思え!」


 こうして私は王宮に連行されることになった。


 癒しの魔法が使えても聖女のように無制限に使えるわけではない、私が癒しの魔法を使うには寿命を代価として差し出さなくてはならないのだと訴えても、


「我が国にはその聖女がいないから貴様で代用するのだ! 平民が我が妃の1人になれるのだぞ? 文句を言わず黙ってついて来い!」


 と平手打ちされ、地に這いつくばるはめになった。


 DV野郎許すまじ。

 貧乳扱いしたこともいつか絶対に後悔させてやる。


 今日この日、私は固く心にそう誓ったのであった。


 (ㆀ˘・з・˘)




「ぐぁあああ!? 痛い痛い痛いー!? 早く、早く私の取れた腕をくっ付けて治すのだー!?」


 魔王との戦いにまたもや敗れて使い捨ての転移アイテムで目の前に転移してきた自称勇者パーティー御一行の勇者様であるクソ王子がそんなことを言って来た。


 王宮の大浴場で侍女達に身体を洗われている私に向かって……。


「えいっ」

「ぐああああ!? 目がー!? 目がー!?」


 イラッと来た私の目潰し攻撃によってクソ王子が片手で目を押さえながら悲鳴をあげる。


「ルシファーナ様、失礼いたします」

「ありがとう、ハンナさん」


 私はバスタオルで裸体を隠してくれた侍女にお礼を言う。


 それから、隣でクソ王子以外の勇者パーティーのメンバーに向かって「ほら、あなた様方には四肢に欠損がないのですから早くここから立ち去ってください」と言って大浴場から追い出そうとしてくれている侍女に、


「大丈夫ですよ、マリーナさん。ハンナさんがバスタオルを巻いてくださいましたから」


 と声を掛け、にっこりと微笑んだ。


「ですが、ルシファーナ様……」


 けれど、侍女のマリーナさんは納得がいかないらしく不満の表情を浮かべている。


 前は姉のハンナさんと一緒になって私にものすっごい嫌がらせをして来たのに、人間変われば変わるものね。

 まあ、魔物の襲撃を受けて瀕死になっていたご家族をクソ王子達に内緒で治してあげたんだから当然と言えば当然の手のひら返しなのかもしれないけど。

 でも、結局あのあと鑑定で寿命が減ってることがバレてクソ王子だけじゃなくて王様や王妃様からも折檻されてしまったのよね……。

 人助けしたのに、どうして折檻されないといけないのかしら?

 目の前にいるクソ王子達もそう。

 こいつらは治しても治さなくても私に暴力を振るうんだから、ほんと嫌になっちゃう。


 そんなことを思いながら私は侍女のマリーナさんに向かって、


「すぐに治さないとクソ王、失礼、勇者様にまた折檻されてしまいますから……」


 と言って悲しそうに微笑んだ。


 すると、侍女のマリーナさんは苦痛に歪んだ表情を浮かべたあと、私にお辞儀して素直に引き下がってくれた。


「おい、ルシファーナ!? さっさと私の腕をくっ付けろ!? 私が痛いと言っているのに、いつまで癒しの魔法を使わないつもりだ!?」

「きゃあ!?」

「「ル、ルシファーナ様大丈夫ですか!?」」


 痛みが取れて目が見えるようになったクソ王子にヤクザキックされてバスチェアーから蹴落とされた私を侍女達が濡れた床から起き上がらせてくれる。


「ありがとうございます。もう大丈夫です」

「「で、ですが」」

「ルシファーナ!!!」


「はい、直ちに」


 私は私に目潰しされた時にクソ王子が落とした片腕を拾ってそれをクソ王子の身体の欠損してる肩口に押し当てながら癒しの魔法を使用する。


「私の寿命を代価に()の者の怪我を癒し給え。サクリファイス・ヒール」


 すると、すぐにクソ王子の腕は彼の身体にくっ付き、彼の身体に出来ていた他の傷も全て癒された。


「おお、貴様の癒しの魔法は流石だな! 何事もなかったかのように腕も指も自由に動かせるぞ!」

「それはようございました」

「だが、先程はよくもこの私に目潰しをしてくれたな!」

「あうっ」


 サクリファイス・ヒールを使ってだるくなっているところに平手打ちをされてしまったため、私はその場で踏ん張ることができず、濡れた大浴場の床に打ち付けられるはめになった。


 ぶたれた頬や身体のあちこちが痛い。


「ルシファーナ様、大丈夫ですか!?」

「王太子殿下、あなた様の治療のために寿命を1年捧げたルシファーナ様になんてことをなさるのですか!?」

「フンッ! 寿命を1年捧げるだけでどんな怪我でも病でも呪いでも治せる癒しの魔法が使えるから、平民であるルシファーナを私の妃にしてやっているのだ! どこの生まれかも分からない孤児院なんかにいた平民の女をな!」


 そもそも私、あなたの妃になりたいだなんて一言も言ってないのですが?

 私、王宮に拉致されて来たのですが?

 こっちからすれば、あなたなんてただの自意識過剰な誘拐犯なんですけど、どうしたらその勘違い鳥頭を治せるのかしら?


「その平民の糞女が王族であるこの私に目潰しをかましたんだぞ!? むしろ平手打ちで勘弁してやったことを感謝して欲しいものだな! というか貴様は何だ? たかが侍女の癖に生意気だぞ!」


 あら、いけない。

 考えごとしてたらハンナさんがピンチだわ。

 最近は色々と親切にしてくれるから助けてあげないと。


「王太子殿下、どうかおやめください。全ては私が悪いのでございます」


 私はハンナさんを庇うためにその前へと移動して大浴場の濡れた床の上で土下座した。


「フンッ。そうだな。悪いのは全て貴様だな」

「痛っ」


 クソ王子が私の後ろ髪を引っ張って顔を強制的に上げさせる。


「貧乳だが、こうしてバスタオルの隙間から見える眺めは悪くないな。ごくり」


 ごくりじゃないわよ、この変態!


「貴様は私の妃なのだから、ここで致しても問題はないよな?」

「以前にも申しま──」

「問題大有りです王太子殿下!」

「隣国の聖女が護衛の騎士とエッチしちゃったら聖女の魔法が使えなくなったなんて有名なお話じゃないですか!?」

「そうですよバーカアーホ様! 俺達、魔王を倒さないといけないんですよ?」

「毎回魔王にコテンパンにやられて負った大怪我を無料で治してくれる奴がいなくなったらどうすんだよ?」

「そうそう! そういうことは魔王倒してからなら好きなだけやってくれていいから今はやめてくれよな? 全部終わってからだったら俺も混ざりたいし?」

「それ、俺も混ざりたいです! 聖女様って顔が超俺好みなんです!」

「そんときは俺も混ざるからな?」


 侍女のハンナさんとマリーナさんに続いて自称勇者パーティーの三馬鹿貴公子がクソ王子にストップを掛けてくれるのかと思いきや、とんでもないことを言い出したわ!?

 流石、クソ王子の取り巻き達だけあって考えてることが最低ね!?

 不能になる呪いでも掛けてあげようかしら!?


「つーか、バーカアーホ様よお? 俺らまだ聖女様に癒してもらってないから、そろそろ真面目に辛いんだけど?」


 ハゲリオ様、ナイスモヒカn、いえ、ナイス突っ込みだわ!

 今度そのモヒカンを手入れするのに最適な質のいいつげ櫛をプレゼントして差し上げるわね!


「むっ、そう言えばそうだったな。すまん。ルシファーナが淫らな姿で誘って来るから、うっかり欲情してしまった」


 誰も誘ったりなんかしておりませんわ。

 断りもなくいきなり大浴場に転移して来たのはそちらだと言うのに、クソ王子は何をおっしゃっているのかしら?


「全てここが浴場だから悪いのだ。浴場でうっかり欲情して何が悪い! ブフッ」


 このクソ王子、自分でクソつまらないダジャレ言って自分で笑ってるわ!?

 こんなのが王太子殿下だなんてこの国の未来はお先真っ暗ね!?


「バーカアーホ様、それめっちゃ面白い冗談ですね!」

「浴場で、うっかり欲情、ブフッ」

「おま、こっちは腹に抜き手刺されてマジ痛みでやばいって言うのに、そ、そんな笑わせるようなこと言うなよな!?」


 三馬鹿貴公子も同レベルとかホントこの国終わってるわね……。


 このあと神殿長の息子と魔法師団長の息子と騎士団長の息子が負った怪我とか猛毒とか呪いを癒しの魔法を掛けて治してあげたら、四馬鹿は「娼館に行って巨乳の綺麗なお姉さん達に癒してもらいに行くぞー!」と言って消えてくれた。


 私は侍女達に身体を綺麗に洗い直してもらい、ゆずの実がぷかぷかと沢山浮いている湯船の中に浸かりながらこう思う。


 なんであのクソ王子達、私の胸に視線送りながらああいうこと言うかなぁ?

 病気もらって数週間股間の痛みでのたうち回る呪いでも掛けておこうかしら?


 (๑•ૅㅁ•๑)ぷんすこぷん




「ふん♪ ふん♪ ふ〜ん♪」

「ご機嫌ですね、ルシファーナ様。また何かお植えになったのですか?」


 花壇にジョウロでお水をあげていたら侍女のハンナさんにそう聞かれたので私は、


「ええ、いつものお友達が珍しい花の種が手に入ったからって文通鳥に持たせて送ってくれたからね」


 と近くの木の枝に止まってひと休みしている文通鳥が首から下げてる小さな巾着袋に目を向けながら答えてあげた。


「こないだの花も綺麗な花が咲きましたけど、今度は何の花なんですか?」


 もうひとりの私の侍女マリーナさんにそう聞かれたけど、あの子は花の名前を手紙に書いてくれなかったので、私はそれをそのまま口にする。


「手紙には珍しい花の種が手に入ったから送るとしか書いてなかったから、私にも咲くまで何の花なのかは分からないわ」

「えー……」

「それはまた……」

「めんどくさがりのあの子が定期的に花の種を送ってくれるだけ奇跡なの。だから送り主を『なんて残念な奴なんだ』とか思わないであげてね?」


 私が『うわぁ』って表情を浮かべている侍女達にそう言うと、マリーナさん(姉妹侍女の妹のほう)がこんなことを聞いてきた。


「ルシファーナ様? 今、残念な奴っておっしゃってましたけど、文通相手って男の方なんですかぁ?」

「私より年下だから男の方って言われると首を傾げてしまうのだけど、まあ男であることは確かね」

「えっと、その方はルシファーナ様の弟君でいらっしゃるのでしょうか?」

「弟じゃないわ。私を慕ってくれてる可愛くてやんちゃな男の子よ」

「えー!? 弟さんじゃないんですか!? なのに定期的に文通鳥を使って贈り物を送ってくるなんて、どど、どういうご関係なんですか!? ルシファーナ様と!?」

「私との関係? あえて口にするなら求婚する・されるの関係ね。何度もお断りしてるのだけど、あの子なかなか諦めてくれないのよねぇ……」

「既にお断りの言葉を伝えている相手だったのですね。それを聞いて安心しました」

「私もです。その子が王宮に押し掛けて来たらどうしようかと思っちゃいました」

「いつか押し掛けて来そうなのよねぇ……」

「「えっ」」


 Σ(; ̄◇ ̄(; ̄◇ ̄)  (´・ω・`)




『ルシファーナお腹減ったぁ〜。ご飯まだ〜?』

『クロちゃん、ご飯はさっき食べたばっかでしょ? もうお腹すいちゃったの?』

『うん。だからなんか作って?』


 私の身体に抱き着いて私の顔を見上げながら、うるうるした瞳でそんなことを言って来る男の子を見て私は軽く溜め息をつく。


『はぁ、もうしょうがない子ね? じゃあ何か獲って来てくれる? そしたら作ってあげるから』


 頭を撫でてあげながらそう言うと、男の子はぱぁ〜っと花が咲いたような笑顔になって、


『うん、わかった! じゃあ、なんか獲って来るね〜♪』


 と私に向かって手を振りながらあっという間に出掛けていった。


『成長期って恐ろしいわね。テーブルに山盛りの朝ごはん食べたはずなのに……』


 それから数十分後──


『獲って来たよ〜♪ ルシファーナ、これで牛丼作って〜♪』


 と言ってクロちゃんが持ち帰って来たのは大きさが普通の牛の3倍ぐらいはありそうなベヒーモスだった。


『クロちゃん、雷の直撃とか受けてないわよね?』

『うん、受けてないよ♪ だから早く作って?』

『はいはい、じゃあ作ってあげるからクロちゃんはお風呂で汚れ落として来てくれる?』

『ルシファーナも一緒にお風呂入ろ?』

『入りません』

『えー? なんでー?』

『一緒に入ったら牛丼作れなくなっちゃうでしょ? 早く牛丼食べたいんじゃなかったの?』

『そっかー、じゃあひとりで入って来るねー♪』


 そう言ってクロちゃんはお風呂に直行した。


『素直で良い子なのだけど、なんかちょっとズレてるのよねぇ……。それにしても……』


 私は目の前の地面に置かれたベヒーモスの巨体を見上げながら心配事を口にする。


『ご飯足りるのかしら? とりあえずカラスのカーくんに頼んでお米屋さんにお米の追加発注をしに行ってもらわないとだめよね?』


 私はカラスのカーくんを召喚()んでお米屋さんに行ってもらった。



「ふふ、あの子の我慢はいつまで持つのかしら? 結構頑張って手加減してるみたいだけど、私としてはそろそろここから解放されたいのよねぇ? うっかり殺してくれちゃってもいいのだけど、あの子の私への執着すごいからきっと最後まで手加減、頑張っちゃうんだろうなぁ……」


 私はクロちゃんがちっちゃい頃のことを思い出したあと、


 なんであんな賭けに乗っちゃったのかしら?

 きっとお酒を飲み過ぎてご機嫌になっちゃってたせいね。

 またやらかさないように頑張って禁酒しなきゃ!


 と心に誓う私であった。


 *∀٩(๑❛ᴗ❛๑)و でも、ぶどう酒美味しいからやめられないのよねぇ……ふぅ♪




「にゃぁ……」

「きゃあ!? どうして王宮の中に魔物が!?」


 叫び声を聞いて侍女のハンナさんが見てる方角に目を向ける。


 すると、翼の生えた黒猫ちゃんが目からぶわっと涙を溢れさせながら私の胸に向かって飛び込んで来た。


「あらやだ、大怪我してるじゃない!?」


 大怪我してる翼の生えた黒猫ちゃんを私が魔法で元のサイズに戻した大きな胸で受けて止めて抱っこしていると、侍女のマリーナさんが悲鳴を上げた。


「ルシファーナ様、危険です!? 見た目が可愛くてもその黒猫は魔物ですからすぐにお放しになってください!?」

「大丈夫よ、この子が私に危害を加えることなんてないから。すぐに治してあげるから痛いの、もうちょっとだけ我慢しててね?」

「なっ!? 駄目ですルシファーナ様!? 先日あと1回癒しの魔法を使ったら寿命が残り1日になってしまうとおっしゃっていたではありませんか!?」

「そうですよルシファーナ様!? お姉様の言う通り、おやめください!?」

「そんなこと言われても困るわ。もう使っちゃったもの」

「「そんな……」」


 あらやだ、ハンナさん達がぺたんと座り込んでしまったわ。


「にゃあ♪」


 私の癒しの魔法で元気になった黒猫ちゃんが嬉しそうに私の胸にスリスリ頬擦りして甘えて来るので、私は「甘えん坊さんね♪」と言って頭を撫でてあげた。


 さて、どうしようかしら?


 と思っていると、向こうからご機嫌な四馬鹿がやって来た。


「ごきげんよう、王太子殿下」

「フシャー!」

「喜べ、ルシファーナ! ついに魔王を倒して来たぞ!」


 そうでしょうね、黒猫ちゃんがここにいるんですもの。


「これでようやく貴様の処女を散らしてやることができるぞ! 王太子であるこの私に抱いてもらえるのだ! 光栄に思え!」


 相変わらずキモい男ね。

 そんなだから王太子の癖にモテないのよ。


「フシャー!!!」


 あら、クロちゃんが怒って飛んでいっちゃったわ?

 もうしょうがない子ねぇ?

 賭けが終了しちゃってるから殺しちゃわないか、ちょっと心配だわ?

 大丈夫かしら?


「あっ、こら!? 何をする!? やめろー!? うぎゃー!? 腕がー!? 私の腕がー!?」

「なっ!? あの黒猫バーカアーホ様の腕を爪で斬り飛ばしやがったぞ!?」

「くそっ!? 喰らえ、ファイヤーボール! なっ!? 私のファイヤーボールを避けただと!? なんてすばしっこい奴だ!? あっ、やめ、ぎゃー!?」

「せ、聖女様! は、早くバーカアーホ様の腕を癒しの魔法でくっ付けてあげてください!」

「あら、それは無理よ」

「な、なんでですか!? このままじゃバーカアーホ様が出血多量で死んでしまいますよ!?」

「そんなこと言われても、さっき大怪我してたその子に最後の1回使っちゃったもの。もう私の寿命で癒しの魔法を使ってあげることはできないわ」

「そんな!?」

「き、貴様ー!? なぜ貴重な癒しの魔法を王族に断りもなく勝手に使用しているのだー!?」


 契約魔法で私を縛ってるわけじゃないのに、どうして私がいつまでも従順でいると思っているのかしら?


「こ、このままでは王太子であるこの私が!? この私が出血多量で死んでしまうではないかー!? せっかく魔王を倒して世界中の巨乳美女と酒池肉林ができると思っていたのにー!?」


 なんか治してあげなくても普通に最強生物のGさんみたいに、しぶとく生き残りそうな気がするのだけど気のせいかしら?

 私、クソ王子同様Gさんも嫌いなのだけど……。


「くそっ!? 俺の脚が!? 脚がー!? ぐぁああああ!?」


 あら、ハゲリオ様もクロちゃんにやられちゃったのね?

 これで残ってるのは神殿長の息子の……あら、なんてお名前だったかしら?


「ごめんなさいごめんなさい謝りますから殺さな、ぎゃー!?」


 とにかく四馬鹿の最後の1人もやられちゃったわね!

 お可哀想に♪


「うわーん、最後の最後でうっかり殺しそうになっちゃって動き止めたらやられちゃったのー! ルシファーナお願い! もう1回チャンスちょうだい! ね? お願いだよぉ〜!」


 ボフッと音を立てて翼の生えた黒猫ちゃんの姿から人間の姿に戻ったクロちゃんが泣きながら私に抱き着いてそんな懇願をして来る姿に思わず笑みが溢れてしまう。


 うふふ、泣いてるクロちゃん可愛いわ♪


「でも賭けは賭けだし、クロちゃんは私との賭けに負けちゃったのだから再挑戦はまた1年経ってからね?」

「そんなぁ〜!? それじゃまた1年ルシファーナを僕のお嫁さんに出来ないよぉ〜!? やだやだぁ〜!? もう1回チャンスちょうだい! お願いだよルシファーナぁ〜! うぇ〜ん」


 もうちょっと身長と心が成長してくれないと、お姉さん背徳感と罪悪感がすごいから頑張って耐えてね?

 そしたら、将来ちゃんとクロちゃんのお嫁さんになってあげるから♪


 そんなことを思いながらクロちゃんの身体を片手で抱き締めて、もう片方の手で頭をなでなでしてあげる私。


「ル、ルシファーナ様、その子はいったい?」

「だ、誰なんですかルシファーナ様? バーカアーホ様達をあっという間に倒しちゃったんですけど……」


 地面にぺたんと座り込んで放心してた侍女のハンナさんとマリーナさんが復活したみたいね?

 まあクロちゃんとの賭けも終わったことだし、全部ゲロっちゃいましょう♪


「この子が今まで私に珍しい花の種を定期的に送って来てくれた子よ♪」

「あっ、そうだったんですね! って、違いますよ!? そうじゃなくてですね!?」

「うふふ、冗談よ♪ この子はクソ王子達が今までずっと戦って来た魔王領の魔王様よ♪」

「えっ!? えぇえええええ!?」

「そ、それも冗談なんですよねルシファーナ様?」

「どっちも本当の話よ? 信じられない話かもだけど」

「う、嘘を言うなルシファーナ! 私達が戦って来た魔王はこんなガキではなく、ちゃんとした大人だったぞ!!」


 あら、やっぱりゴキブリ並みの生命力ね?

 そこだけは褒めてあげるわ、クソ王子様。


「魔法で姿を大人に変えてたのよ」

「そんな馬鹿な……。私達はこんなガキに今までずっと負けていたと言うのか……」

「むぅ、僕ガキじゃないもん!」

「ひいっ!?」

「クロちゃん、どーどーよ? ハンナさんとマリーナさんが怯えちゃうから爪は引っ込めましょうね?」

「はーい。ねぇ、ルシファーナ? ハンナさんとマリーナさんってだーれ?」

「この王宮で私のお世話を甲斐甲斐しくしてくれた侍女さん達のことよ? ね?」


 私が侍女の姉妹ににっこり微笑むと、ふたりは全力で頭を縦にブンブン振って頷いた。


 あんなに勢いよく頭振って気持ち悪くなったりしないのかしら?


「それで、えっと……何の話をしていたのだったかしら?」

「僕が魔王かどうかって話だよ、ルシファーナ? 僕ただの影武者なのに……」

「「えっ?」」

「はっ?」

「マジかよ!?」

「嘘だろ!?」

「そんな!? そのちびっ子が魔王の影武者だって言うなら本物の魔王はどこにいるって言うんですか聖女様!?」

「そんなの、魔王の影武者をやってたこの子が懐いているのが私なのだから言わなくてもお分かりでしょう?」


 どうしてここまでヒントを出してあげてるのに、みんなそんな馬鹿なって顔してるのかしら?


 私はこてりと首を傾げながら不思議に思う。


 あっ、きっと分かり易すぎて逆に分からなくなってしまったのね!

 そうに違いないわ♪


 謎が全て解決したので私はにっこりと微笑んだ。


「まさか貴様が真の魔王だとでも言うのか、ルシファーナよ! 馬鹿も休み休み言え!」


 こいつ、やっぱり嫌いだわ!

 どうしてほぼ答えを教えてあげてるのに分からないのかしら?

 きっと親の教育が悪かったから、ここまでお馬鹿さんに育ってしまったのね。

 親の顔が見てみたいものだわ。

 まあ、見たことも会ったことも折檻されたこともあるのだけど……。


「後宮内で魔法を使って暴れているのは貴様達かー!?」


 あら、噂をすればなんとやら。

 クソ王子のパパさんのご登場ね!


「なっ!? バーカアーホの腕が取れているではないか!? おい、ルシファーナ! 何をボサッと突っ立っておる!? 早く癒しの魔法でバーカアーホの腕をくっ付けぬかー!?」

「クソ陛下、申し訳ありませんが、もう寿命が1日しか残っておりませんので、そのご命令には従えませんわ。王家の秘薬を使って治してあげることをお勧め致しますわ」


「きききききき」

「お猿さんの真似なんかなさってないで早く4人分の秘薬を持って来るよう近衛兵に指示を出したほうがよろしいのではないかしら?」


「きさ、貴様ー!? この儂を誰だと思って!?」

「陛下、今はそんなことよりバーカアーホ様達を治療するための秘薬を取りに行く許可を」


「ええい! そんな聞くまでもないことを聞くでない! とっとと取りにゆかぬかー! この愚か者がー!」

「はっ、では直ちに!」

「近衛兵のほうがまともな判断を下すのが早いだなんて、やっぱりこの国は終わっているわね」


 あら、うっかり口に出してしまったわ。

 クソ陛下のお顔が真っ赤になって、まるで茹で蛸みたいね♪

 美味しくはなさそうだけど。


「なんだとー!? まあいい! 貴様がもう癒しの魔法が使えないと言うのであれば良いことを教えてやろう!」


 クソ陛下が下卑た笑みを浮かべているわ。

 流石、クソ王子の親だけあって品性のない笑みね!


「良いことじゃなかったら私に意地悪なことをした人達を全員魔法で動物に変えてしまうわよ? それでも構わないのでしたら、どうぞお好きにお話しになって?」

「フン、何を馬鹿なことを! 忘れたのか? 貴様がどうして王宮に囚われの身になったのかと言うことを!」


「あなた達が私がいた孤児院の子ども達を人質に取ったからでしょう? 今でもあなた達が人として最低のおこないをしたと思っているのだけど、それがどうかしたのかしら?」

「これを聞いて泣き喚くがいい! そのガキどもはもうこの世にはいないのだよ! 王太子の側妃が孤児院にいた平民だったなんて知られたら外聞が悪いからな! 兵士達に命令して──」


「私の存在を知る者を亡き者にしようとしたけど、その兵士達は魔物の大群に襲われて全滅してしまったのでしょう?」


 あら? 言葉を遮ってそんなこととっくに知ってるわよ?と教えてあげたらクソ陛下が目を点にしてフリーズしてしまったわ?


「な、なぜ貴様がそれを知っている?」

「だって孤児院を襲うお馬鹿さん達がいたらそれ相応の報いを与えてあげてねって魔物達にお願いしたの、私ですもの。知ってて当たり前じゃない?」


「で、では孤児院にいたガキどもやジジイ達は……」

「当然生きてるわよ? 魔王領で」


 あら、顎が外れそうなくらい開いちゃってるわね?

 なんとなくカバさんっぽいからクソ陛下はあとでカバさんの姿に変えてあげましょう♪


「ままま、魔王領でだと!? 馬鹿を申すな!!! そんなことある訳が、うぎゃあああああ!?」


 あらら、クロちゃんが放った火の玉でクソ陛下の頭がボンって爆発して髪の毛が燃やされちゃったわね♪

 ナイスボンバーヘッドよ、クソ陛下♪


「どうだ思い知ったか悪党め! まったく僕のルシファーナに向かって何度も馬鹿馬鹿って! いい、太っちょのおじさん? 馬鹿って言うほうが馬鹿なんだぞ! バーカ、バーカ!」

「駄目よクロちゃん? その理屈で言ったら今『バーカ、バーカ!』って言ったクロちゃんのほうがお馬鹿さんになっちゃうでしょ?」


「あ、そっかー! うん、次から気を付けるね、ルシファーナ♪」

「偉いわクロちゃん♪ 流石、私の可愛い子ね♪」


 そう言って頭を撫でてあげると、クロちゃんは「えへへ〜♪」と言って喜んでくれた。

 はぁ、なんて可愛いのかしら♪


「えええい!? 何をイチャイチャしておる!? 者ども、であえ、であえー! あやつらはバーカアーホ達に危害を加え、儂の頭を燃やして馬鹿にした大罪人どもだ! ぶち殺せー!」


 あらあら、兵士達がぞろぞろと集まって来て抜剣しちゃったわ?

 とりあえず私はそこのお馬鹿さんと違って慈悲深くて優しいお姉さんと魔王領では多分?定評になってるらしいから、ちゃんと予告を出しておいてあげないといけないわよね?


「えっと、実は皆様方に聖女だと思われていた私が魔王だったりするのだけれど、大人しく剣をしまって引いてくださらないかしら? 私と交戦する意思を持たない方は、ここでは一旦見逃してあげても良いのだけど?」

「フン、何を馬鹿なことを! 今まで罰を犯した時に無抵抗で儂達に折檻されていた貴様が魔王だと? そのような戯れ言、誰が聞くか! これは王命である! そやつらを殺せー!」


 せっかく剣をしまって引いてくれれば見逃してあげるって言ってあげたのに、どうしてみんなして襲い掛かって来るのかし、あっ、剣をしまってこっそり退場していく兵士さん達もいるわね?

 見覚えがあるからきっとあの兵士さん達は以前私が癒しの魔法を使って治してあげた子達ね!

 クソ王子の命令に背いて寿命を代価に癒しの魔法を使ったから私は当然のようにそのあと折檻されてしまったけど……。

 思い出したら、なんだか腹が立って来たわ。

 どうしてクソ王子もクソ陛下も自分の部下達を大事にしないのかしら?


「ってことで私の八つ当たり魔法をお喰らいなさい。えい♪」


 私が魔法を掛けたことで私達に襲い掛かろうとしてた兵士達や、地面に倒れてたり傷口を押さえてうずくまってた四馬鹿や、怒り狂った顔で私を睨みつけてたクソ陛下はみんな動物へと早変わり♪

 ついでに怪我の治療もしてあげたわ。

 だって四肢のどれかが欠損してる可哀想な動物さんの姿なんて見たくないのだから仕方がないわよね?


「うふふ、もふもふがいっぱいで可愛いわね♪ まあ、一部もふもふでない動物もいるのだけど」

「へ、陛下や王太子殿下達がみんな動物に……」

「こ、これ、夢だったりするのかな? ハゲリオ様、鶏になってるし……」


 あら、ハンナさんとマリーナさんがまた腰を抜かして地面に座り込んじゃったわ?

 今ので怖がられちゃったらどうしましょ?

 まあ、その時はその時ね!

 出会いがあれば別れがあるのは世の常なのですもの。

 悲しいことだけど仕方がないわよね……。


 一気に気持ちが萎えてしまってしょんぼりしていると、私の身体に抱き着いてたクロちゃんが服をちょいちょいと下に引っ張って、こう声を掛けて来た。


「大丈夫だよ、ルシファーナ! 魔王領にお引越しした孤児院の子ども達だって今でもルシファーナに会いたいって言ってるし、感謝してるんだから!」


 クロちゃんありがとう。ちょっと元気が出たわ♪


 でも、それで寂しい気持ちが完全に消え去ったわけじゃないので、その寂しさを紛らわすためにクロちゃんをぎゅっと抱き締める。

 クロちゃんはそんな私を慰めるために言葉を続けてくれる。


「そこのお姉ちゃん達だって今までずっとルシファーナの側にいたんでしょ? ルシファーナが慈悲深くて優しい人だって、ちゃんと分かってると思うよ? だから、ルシファーナのこと怖がって逃げちゃうようなことも絶対しないって! そうだよね、お姉ちゃん達?」


「は、はい! 平民が王太子殿下の側妃だなんてー!って嫉妬しちゃって意地悪なこといっぱいしちゃったのに、ルシファーナ様は許してくださっただけでなく私達の母の病気も治してくださいました! ルシファーナ様が慈悲深くてお優しいお方だということは十分承知しております! だから怖くなんてないし、ましてや逃げるだなんてそんな失礼なこと絶対に致しません!」


「私もマリーナと同じ思いです。私達はただルシファーナ様の魔法にびっくりして腰を抜かしてしまっただけなのです。それがルシファーナ様を悲しませてしまったのでしたら大変申し訳ありません。今まで以上に誠心誠意、心を尽くしてお仕えすることでそのお詫びとさせていただきたいのですが、これからも私達姉妹がルシファーナ様にお仕えすることをお許し願えますでしょうか?」


 私てっきり敵をみんな動物に変えちゃったから、ふたりに怖がられて嫌われちゃったんじゃないかって勝手に思ってしょんぼり落ち込んでしまったのだけど、それは私の勘違いだったのね! 良かったわ!


「ありがとうございますマリーナさん、ハンナさん。これからもどうかよろしくお願いしますね?」

「「はい! こちらこそよろしくお願いします!」」

「良かったね、ルシファーナ♪」

「ええ、クロちゃんのおかげよ。ありがとうクロちゃん、大好きよ♪ ちゅ♪」

「ルル、ルシファーナにキス、キスされ……きゅ〜////」


「あらあら? 唇にキスはクロちゃんにはまだ早かったみたいね♪ お顔を真っ赤にして気絶しちゃったわ♪」


 私はクロちゃんを地面に寝かせて膝枕してあげた。


「ななな!? こ、これはいったい!? へ、陛下ー!? バーカアーホ様ー!?」


 あら、王家の秘薬を取りにいった近衛が戻って来たみたいね?

 この短時間で秘薬を取って戻って来ることができるなんて、中々優秀ね!


「陛下はそこのカバさんで、バーカアーホ様はそこの種馬よ♪ 酒池肉林がしたいって言ってたから厩舎に連れていってあげるといいんじゃないかしら? 王宮の厩舎にいる馬ってほぼ雌馬だったでしょ? 精力有り余ってるからきっと人気者になれると思うのだけど、あなたもそう思わない?」


「えっ!? いや、あの、確かに雄馬の数が少なくてしかも高齢なのしかおりませんから若い雄馬をもらえるのはありがたいことなのですが……本当にその金髪のたてがみの雄馬がバーカアーホ様なのでしょうか、ルシファーナ様?」


「ええ、本当よ? ちなみに、青いたてがみの雄馬が魔法師団長の息子さんで、銀色のたてがみの雄馬が神殿長の息子さんよ♪ クソ王子の酒池肉林を邪魔しちゃうのは可哀想かもしれないけど、お馬さんの数を増やしたいなら一緒に連れてくと良いんじゃないかしら?」


 魔王を倒したらそのお祝いに四人で私を辱めようだなんて計画を立てていた鬼畜さん達にはぴったりの罰だと思うのよね♪


「えっと、冗談とかではなく本当にこの雄馬達がバーカアーホ様達なのですか?」

「ええ、本当よ? 私ね、今まで隠していたのだけど実は私が魔王だったの。私が今まで散々あなた達の王様やお妃様達や王子様に虐められて来たのは、あなたも知ってるわよね? だから、そのお返しの手始めとして手近にいた私の敵をみんな動物に変えてあげたのよ。あなたも動物になりたい? リクエストは聞いてあげるわよ?」


「い、いえ結構です。この王家の秘薬を全部あなた様に差し上げますので、どうか今までのご無礼をお許しくださいませ」

「あら、悪いわね? どうもありがとう♪」


「で、では御前を失礼させて、あっ!」

「どうかしたの?」


「い、いえ大したことではないのですが、赤いたてがみの雄馬が見当たらないので、ハゲリオ様はどちらにいらっしゃるのかなぁと……」

「ああ、モヒカンが立派だったハゲリオ様なら、そこでコケコケ鳴いてる赤い鶏冠(トサカ)が立派な鶏さんが、ハゲリオ様の今の姿よ♪」


「えっ!?」

「ちなみに産みの苦しみを知ってもらいたいから、ちょっと出来心で転性させてしまったわ♪」


「えっ!?」

「立派な鶏冠(トサカ)が生えてるからって雄だと思って食べちゃったりしないでね? ちゃんと毎日卵を産む呪いも掛けてあるし?」


「えっと、ではうっかり間違えて屠殺場に運ばれないよう、ルシファーナ様のお庭でお飼いになられるのはいかがでしょうか? 毎日栄養たっぷりな卵が食べられるのではないかと思うのですが……」

「そうね? それもいいかもしれないわね! じゃあ、そうすることにするわ♪ 役立つ助言をしてくれてありがとうね♪ お礼に魔法で──」


「いえいえいえ!? 大した助言はしておりませんので、お礼には及びません! 忙しいので私はこれにて御前を失礼させていただきます!」


 王家の秘薬を4本プレゼントしてくれた近衛兵は、3頭の種馬を連れて逃げるように去っていった……。


「魔法で動物に変えられちゃうとでも思われちゃったのかしら?」

「あは、あはははは」

「あのルシファーナ様? このあとはどうなさるおつもりですか?」


 乾いた笑いをしてるマリーナさんのお姉さんであるハンナさんにそんなことを聞かれてしまったので、後先考えず行動を起こしてしまった私は頬に片手を添えて考える。


「このあと? そうねぇ? お友達の吸血鬼とサキュバスを呼んで、この国の管理を手伝ってもらおうかしら?」

「えっ!?」

「あ、あのルシファーナ様? それは先行きがものすごく不安になるのですが……」


「心配しないでも大丈夫よ♪ 吸血鬼もサキュバスも人間がいないと生きていけないんだし、初めのうちは犯罪者をご飯にしてもらうから♪」

「犯罪者が激減していなくなっちゃったらどうするんですか、ルシファーナ様ぁ?」


「その時は……そうねぇ? サキュバスなら娼館を開けば良いんじゃないかしら?」

「では、吸血鬼さん達にはどうやって日々の生活を送ってもらうおつもりなのですか?」


「サ、サキュバスと一緒に娼館の共同経営とかかしら? 血を吸われると快感が得られるって言うし? だ、だめかしら? あっ、病気の人の血を飲むと不味いのよねーって何度も愚痴を聞かされたことがあるからエッチなことするついでに健康診断もできることを売りにすれば良いんじゃないかしら!?」

「健康診断って……それ何かの病気にかかってるってことしか分からないじゃないですかー?」


「お客さんが病気だったら私の所に来させれば良いのよ! 私の癒しの魔法でなんでも癒せちゃうし!」

「そう言えば、ルシファーナ様!? 寿命が1日しか残ってないはずですよね!? なんでそんなに元気なんですか!?」

「そ、そうですよルシファーナ様!? 実は錯乱して夢物語を語っていらっしゃるのですか!? こうしてはいられません! 急ぎ入浴をして身を綺麗に致しましょう! それから最期の晩餐に豪華な料理をお食べいただいて──」


「わー!? 待って待ってー!? 寿命はさっき延ばしたから! 今日で私死んじゃったりしないからマリーナさんもハンナさんも落ち着いてー!?」

「寿命を」

「延ばした?」


「ええ! ここにいる動物さん達って言うか元王国の人間達から迷惑料として寿命を1年ずつ頂戴したの! だから今日私が死んじゃうことはないのよ! だから安心してちょうだいね♪」

「よ、良かったぁ〜。私てっきり」

「ルシファーナ様の気がふれてしまわれたのかと思ってしまいました。本当に、本当に良かったです……ぐすん」


「うふふ♪ ふたりとも心配してくれてありがとうね? とっても嬉しいわ♪」

「私も嬉しいです! クソ王子達が動物になっちゃった今、ルシファーナ様に酷いことをする奴らなんてもういなくなったも同然ですから、これからはきっと毎日が平和になりますね♪」

「そう言えば、ルシファーナ様はあれだけいた兵士達を一度に動物に変えてしまうぐらい凄い魔法をお使いになれるのに、どうして今までクソ王子達のなすがままに甚振られていらっしゃったのですか?」


「はっ!? まさかルシファーナ様、ドMだったんですかー!?」

「あー、だからクソ王子達のなすがままに甚振られて……。いえ、私達はルシファーナ様の忠実な侍女。ルシファーナ様がいかなる性癖をお持ちであろうと一生ついてゆきますので、どうかご安心ください。お望みとあらば、このハンナ。涙を呑み、心を鬼してルシファーナ様のことを折檻させていただ──」

「ちが、違うから!? 私そんな趣味持ってないから変な覚悟決めないでちょうだい!? お願いだからぁ〜!?」


「じゃあ、なんでルシファーナ様はクソ王子達のなすがままに甚振られていらっしゃったんですかぁ? そこを教えてくださいよぉ〜。じゃないと私達姉妹の疑いを晴らすことなんて出来ないですよ? 私達が嫉妬して意地悪してた時も反抗する素振りすら見せずに甘受してましたし……」


 ああ!? ハンナさんとマリーナさんが完全に私がドMの変態さんなんじゃないかって疑いを持っちゃってるわ!?

 どど、どうしてこんなことに!?

 魔王最大のピンチなのだけど、どうしたらいいの!?

 クロちゃん助けてー!?


「僕知ってるよ! ルシファーナはね、囚われのお姫様になってみたかったんだよ!」


 キスでバタンキューしてたクロちゃんに私の祈りが届いたわ!?

 流石、私の可愛い天使ね!

 大好きよ♪


「それは某物語のように『くっ殺』な目に遭わされたかったと言うことでしょうか? クロちゃん様?」

「えー? それって折檻されるよりもっとヤバい奴じゃ……」


 ちょっとおふたりとも!?

 うちのクロちゃんに変な知識与えるのやめてー!?


「? お姉ちゃん達、何のお話ししてるの?」


 そうそう!

 クロちゃんはそのまま純粋でいてね♪


「うっ!? 純粋な目でそんなことを言われてしまうと精神的に来るものがありますね!?」

「うぅう……ハンナお姉様、どうやら私達の心はルシファーナ様に穢されちゃってたみたいですね……胸が痛いですぅ……」

「まったくです」

「おふたりとも、私を汚染源扱いするなんて酷いわ!? 私はただヒーロー役のクロちゃんが助けに来てくれるのを待つ健気で不憫で従順な囚われのお姫様になってみたかっただけなのに!?」

「ごめんねー、ルシファーナ? 僕が最後に失敗しなかったら、ルシファーナをかっこよく助けに行けたのに……」


 ああ!? クロちゃんがしょんぼり項垂れちゃったわ!?


「こ、今回は失敗しちゃったけど、次やる時はきっと上手くいくわ! 大丈夫よ! クロちゃんは今までに同じ失敗を繰り返したことがないでしょう? だから絶対に大丈夫! 私が保証してあげるわ!」

「本当?」


「ええ、本当よ! だってクロちゃんは私の可愛くて優秀な、優秀な……」

「優秀な、なーに? ルシファーナ? その先が聞こえないよ?」


「うぅう……こ、恋人だから////」

「わーい! お姉ちゃん達、今の聞いた聞いた!? 僕、ルシファーナに恋人って認めてもらえたんだよー! わーいわーい♪」


「あぁあああ、ついに言っちゃったわ……すっごい年の差なのに……。でも、もうちょっとで賭けに勝てたのに最後で失敗しちゃったクロちゃんはきっと当分の間ショックでずっとしょんぼりしたままだったはずだから、これはしょうがないの……ええ、しょうがないのよ……あぁあああ////」

「ルシファーナ様の羞恥に悶えるお姿……眼福でたまりませんわ♡」

「ルシファーナ様って基本動揺とかしないですもんね! 私もしっかりと目に焼き付けておこうっと♪」


「ルシファーナ、ルシファーナ! 今日から僕達、恋人同士ってことだよね!」

「え、ええ、そう言うことになるわね?」


「じゃあさ、じゃあさ! 今度から僕がお出かけする時は、行ってらっしゃいのキスはおでこじゃなくて、お口にしてくれるってことで良いんだよね!」

「ぶふっ!?」

「あらー♡」

「ルシファーナ様の激レアシーン絶賛更新中ですね! ああ、どうしてこの場面を記録する魔法が存在しないのでしょうか!?」


「ルシファーナ?」

「え、ええそうね。恋人同士なのだからお口にキスするのが当た、当たり前よね////」


「じゃあ、朝起きた時のおはようのチューも、寝る前のお休みなさいのチューもお口にしてくれるってことで良いんだよね!」

「ごふっ(吐血)」

「ルシファーナ様の理性値がドンドン削られてますね、お姉様!」

「ええ、ショタに翻弄されるルシファーナ様、初々しい反応で見てて最高ですわ♡」


「ルシファーナ? 僕、何か間違ってる?」

「そそ、そんなことないわよクロちゃん!? おはようのチューも、お休みなさいのチューも、ちゃんとお口にしてあげるわ! 恋人同士ならそそ、それが当たり前ですもの! ええ、ここ、恋人同士なら、きゃあああ、もう恥ずかしいよぉおおおおお////」


「あっ、ルシファーナどこ行くのー!? 僕を置いてかないでよぉ〜!?」

「ハンナお姉様、これから毎日が楽しくなりそうですね!」

「ええ、ショタとルシファーナ様のめくるめく背徳的な年の差愛のやり取りが毎日拝めるなんて考えただけで鼻血が──」



 こののち、クソ王子やクソ陛下達が治めていた国はクロちゃんが国王陛下、ルシファーナがそれを支える王妃となったことで治安が向上し、重い病にかかってもルシファーナの癒しの魔法で癒してもらえ、さらに魔王領に入って多種多様で豊富にある果物を取れるようになったので食卓に上る食事が今まで以上に美味しいものとなり、国民達は大変幸せに暮らせるようになりましたとさ。


 おしまい♪



 ⁺˳✧༚〜〜〜˚✧₊〜〜⁺˳✧༚〜〜〜˚✧₊〜〜⁺˳✧༚〜〜〜˚✧₊〜〜⁺˳✧༚〜〜〜˚✧₊


 自分から仕掛ける分には大丈夫だけどショタに攻められる側に回られてしまうとキャパオーバーして大人のお姉様キャラを演じていた仮面が剥がれて素が出てしまう、異世界転生したら魔王になってた女子大生(喪女)の物語(裏の題名)


 を最後までお読み頂き、どうもありがとうございました♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪


 ちなみに、ルシファーナが孤児院にいたのはクロちゃん以外にもショタが欲しいなぁ〜と思って物色していたわけではないことをルシファーナの名誉のため、ここに記しておきます_φ(・ω・`)カキカキ


 と言っても、ショタとロリを愛でていたのは事実なんですけどね?

 はっはっはー(´ε` )ヒュ〜ヒュ〜♪



 \   【魔王領】  【クソ陛下が治める国】

【果物】  豊富     普通

【穀物】  豊作     やや不作

【魔物】  大量で強い  普通


 クソ陛下がクソ王子達に魔王を倒しに行かせた理由・・・魔王を倒せば魔物が支配できて自国の食糧問題が解決し、食事の質も上がると思ったから、です。


 楽しんで頂けたらブックマークと評価をしてもらえると嬉しいです(*゜▽゜)ノ〜♪

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