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第46話 反省会

「はは……。無様でしょ? 弱い私を侮蔑(ぶべつ)するのなら好きなだけそうしなさい。それとも、マーリンを守れなかった私に怒っている? 好きなだけ罵声を浴びせればいいわ。何を言われても、たぶん、全部が事実だもの……」


 キーラは涙の筋に新たな涙を重ねていた。

 俺はキーラの前にしゃがみ、その顔を直視した。

 キーラは顔を背ける。相手が俺だろうと、いや、相手がゲスだからこそ、傷だらけの顔を見られたくないのだろう。


 俺はキーラの頭に手を乗せた。


「おまえ、マーリンのために頑張ってくれたんだな。ありがとな」


 キーラが驚いた様子で俺を見た。

 涙は流していても気持ちは(こら)えていたらしく、俺の胸にすがりついてきて大声で泣いた。


「ごめん。マーリンを守れなかった。悔しいよぉ」


 さぞかし悔しかろう。マーリンを守れなかったことだけではない。思春期の少女が顔をボコボコにされ、トレードマークたる綺麗な髪をバッサリ切り落とされたのだ。


「マーリンは俺が取り返してくる。それから、おまえのやられた分もやり返してきてやるよ」


「……うん。ありがとう」


 キーラらしい。シャイルなら「私の分はやり返さなくていい」などと言いそうだ。


 後ろから足音が近づいてくる。シャイルかと思ったが、振り向き様に少し遠方のシャイルが視界に入り、足音の主が残りの可能性、リーズであることが知れた。


「あの、キーラさん……。本当に、本当にごめんなさい……」


 リーズはキーラが一方的になぶられているとき、ただ見ていることしかできなかった。それしか許されなかった。

 リーズはキーラに「許さない」と言われたことを気にしているようだ。そんなことを言われずとも相当な傷心だろうに、当人からそう言われてしまっては、ダメージは計り知れない。


「べつに。あそこで『気にしないで』なんて言ったら、私があんたの涙にほだされたみたいでプライドが許さなかっただけよ。つまり、ただの強がり。べつにあんたが無力なことを怒っているわけではないわ」


 なるほど。それもキーラらしい。ツンデレのツンが発動したわけだ。

 まあ、仲があまりよろしくないことには変わりない。


「よかったな、リーズ。キーラはおまえのことを嫌いらしいが、今回のことでその嫌い度は増えていないらしいぞ」


「そ、それ、ぜんぜんフォローになっていませんわ!」


 リーズが両の拳を小さく振り下ろす仕草とともに口を尖らせた。


 いやいや、十分すぎるフォローだと思うが、そもそもゲスにフォローを期待することが間違っている。


「キーラ、ちなみに()くが、サキーユが笑うのをやめたとき、おまえ、笑ったよな? あれはなぜだ?」


「ああ、あれ……。この人、心が(もろ)いんだなって思って」


 つまり嘲笑(ちょうしょう)だったわけだ。キーラもなかなか図太い神経をしている。

 報復するに当たって、そこを攻めるのもいいかもしれない。


「たしかに他人の言動一つで精神状態を揺り動かされるなんて小物に違いねえ。俺みたいに精神の太い奴は何を言われても動じないもんな」


「エスト君、結構いつも怒っている気がするよ。ちょっと侮辱されたら『極刑だーッ』って言って相手を打ちのめすじゃない」


 シャイルが俺を白い目で見ている。軽蔑しているというより、言動と行動の不一致に立腹しているように見える。


「分かってないな。アレはキッカケを探しているだけだ。基本、誰にでも喧嘩を吹っかけたいタチだからな」


「ふふっ。あんた、最悪ね」


 キーラが笑った。傷の痛みを堪えつつ表情を崩している。

 笑顔で言われると悪い気はしない。

 シャイルは(あきら)めたように深い息を吐き出した。


「ああ、いい()め言葉だ」


 サキーユたちを追いかけるべく、俺は頭上に障害物のない開けた場所へ出た。

 飛行の準備が万端に整ったところで、リーズが声をかけてくる。


「待って! 相手は帝国の皇族ですのよ。手を出したら戦争になりますわ!」


 彼女の制止を聞くつもりはないが、俺に足りない知識がそこにある以上、聞くだけ聞いてやろうではないか。


「帝国と学院でか?」


「学院だけだったら戦争にもなりませんわ。一方的に処断されるだけ。でも、ジーヌ共和国がそれを静観しているはずがありませんの。学院は公地にあって、どこの国の民でも入学できる国際的な学校ですけれど、その運営資金の大部分を出資しているのがジーヌ共和国ですの。ですから、もし仮に学院を一つの国と見なすのであれば、学院と共和国は同盟国のようなものです。そして、世界の力の均衡が帝国に一気に傾くことを恐れ、シミアン王国と諸島連合の国々も共和国と結託するでしょう。つまり、護神中立国以外のすべての国が参戦する世界戦争が起きますのよ!」


 事態は思っていた以上に深刻のようだ。

 となると、帝国はマーリンを奪取するだけでなく、あわよくば戦争を起こそうとしているのではないかとさえ思える。

 いまの話を聞く限り、帝国が世界最大の国家であり、世界と戦争する力も有していることがうかがえる。

 あるいは、世界戦争を恐れた共和国が学院側を抑制してマーリンを追ってこさせないと、帝国の連中は高をくくっているのか。

 たしかにマーリンの存在、その能力は、世界に戦争を招きかねない超貴重なものだ。

 マジックイーターと帝国がどうつながっているのか、まだ推し量るには判断材料が少なすぎる。

 だが、なんにせよマーリンをマジックイーターの手の内に置いておくわけにはいかない。

 そして何より、あんないたいけな幼女が悪党どもに恐怖を与えられることを、俺は許さない。


「ふははははは! 世界戦争か。願ったり叶ったりだぜ。俺はそんな最悪の情勢に身を投じたかったんだ。だが安心しろ。そうはならねえよ。帝国を一方的に蹂躙(じゅうりん)し、支配し、そしてこの俺が皇帝の座についてやる。俺に(こび)を売るなら、いまのうちだぞ」


 俺はそう吐き捨てて空へと飛び立った。

 下方でリーズが叫んでいる。


「待って! 駄目! 勝てないってば!」


 俺はその声を弾き返すかのように加速して帝国方面へと向かった。

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