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第266話 カケララ戦‐リオン帝国③

 キーラが動く。元々カケララとは一メートルくらいの近い距離にいたとはいえ、その距離をゼロにするのに要したのはたったのコンマ一秒程度だった。


 カケララは反応できなかった。反応できず、(ほお)を殴られた。

 普通の人間であれば起こった事象を認識して反応できるまでにコンマ三秒ほど要するため、それより速く殴られたら、その瞬間ですら殴られたことを認識するに至らない。だが、カケララは殴られた瞬間にそれを認識した。

 キーラもカケララもコンマ一秒の世界にいるのだ。


 しかしカケララはキーラ程度の打撃も電撃も自分には通用しないと高をくくっていた。


「いっ」


 効いていた。大ダメージではないが、たしかにカケララにダメージが入った。

 キーラはカケララと渡り合えるだけの速さもパワーも持っている。タイマンで渡り合える。


 カケララはキーラの一撃に驚いて一瞬だけ硬直したが、復帰は早かった。

 キーラは殴った直後、一秒後には、強烈な殺気を感じて高速のバックステップでその場を跳び退()いた。

 しかしカケララの拳が追いつく。腕をクロスさせて胸部をガードするも、鉄球がぶち当たったかのような衝撃が腕から胸へ、そして全身へと伝播(でんぱ)した。


「いったぁ……」


 一瞬、息が止まった。次にいまの攻撃を食らったら、今度は心臓が止まるだろう。


(素でこの力を出せるなんて、反則だわ)


 (しゃべ)ることすら億劫(おっくう)なほどのダメージを受けたキーラは、カケララが心を読めることを見越して心中でカケララに向けて言った。

 しかしカケララはキーラの心内の独り言だと思ったようだ。カケララが拾ったキーラの心の中は、攻撃を繰り出す前のものだった。


「なるほど。電気を流し込むことで私の神経を直接攻撃したのね。私の体は鉄で殴られてもビクともしない頑丈さだし、電流を体表から地面に受け流せるし、それで無傷無痛でいられるほど電気に対しても耐性があったのだけれど、電気を体内に潜り込ませて直接痛覚に働きかけてくるとはね」


 本来なら敵はなぜ電気攻撃が通用したか分からず面食らうべき状況。だが心を読まれるからトリックが筒抜けだ。


 しかし、キーラは攻めをためらってはならない。カケララのスタミナは計り知れないが、キーラの電気操作は精密を極めるため集中力が長くもたない。

 それに、動いていない時間はあれこれと思考に走ってしまい、読心のカケララに情報を与えてしまう。


「えいやああああっ!」


 キーラは体内電流により自身の運動能力を極限まで高め、さらに四肢にコイル状の電気をまとって磁力のサポートも得て、出し得る最大スピードでカケララに飛びかかった。

 右ストレート、左フック、右アッパー、それらすべてをかわされたが、キーラの思考は加速し、本能の領域へと突入する。


 カケララが上体を反らせて右アッパーを避けたので、とっさに左回し蹴りによる足払いを繰り出す。その動作には思考がともなわなかったためカケララは避けられなかった。

 しかし、カケララの足は動かず耐えた。強靭ゆえに動かない。

 カケララの手が喉をめがけて伸びるが、キーラは反射的にそれをかわし、右の裏拳をカケララのコメカミに打ち込んだ。


 裏拳はコメカミには届かず受けとめられていた。カケララの右手がキーラの拳をガッシリと握っている。


「ふふふ。いまの姿勢からだと、その動きしかないわよね。本能のままに最短の攻撃を出すと分かっていれば、心が読めなくても先は読めるわ」


 体勢的には背後を取られた形になっている。キーラは右肩越しにカケララの顔へと左の拳を飛ばす。

 カケララは動かない。後ろから右手を掴んでいるのだから、関節的に左の拳はどうあがいたって自分には届かないと分かっているからだ。


「なっ!」


 しかし、キーラの思考が見えた瞬間、カケララは焦燥に揺れた。

 キーラの左拳が開け放たれ、握られていた砂鉄が解放される。


「コイルアーム・鉄砂散弾!」


 散弾銃のごとく放射状に射出されたそれは、まさに散弾。細かい粒子であるため、むしろ貫通力は通常の弾丸よりも高い。

 カケララはそれをもろに顔面に浴びた。

 普通の人間なら頭部が吹き飛んでいるはずだが、カケララは目を閉じてよろめいただけだった。

 しかし右手は解放され、キーラはすぐさまカケララから距離を取った。


 キーラが散弾にした砂鉄は、ロイン大将がメッセージを届けるために飛ばしてきたものを回収したものだった。それに電気を流し、磁力を帯びさせる。さらに腕にコイル状の電気をまとい、磁力を発生させ、砂鉄を放つことで電磁加速砂鉄が散弾銃の銃弾として高速かつ広範囲に敵を襲う。


 いまのキーラは電気の応用で磁力も自在に操れる。電気が流れるものなら内部に磁場が発生するように電気を流すことで、たいていのものは動かせる。

 物質の操作型魔法ほどうまくは扱えないが、導電性のある物体を引き寄せたり遠ざけたりできる。


 一歩、二歩、三歩。顔を押さえたカケララはふらつきながら後退したが、そこで姿勢を正し、顔から手を離す。

 カケララの顔は無傷だった。あるいは再生したのかもしれない。とにかく、それはカケララへの有効打とは言えなかった。


 だがカケララが怒っていることは間違いないだろう。

 それなのに、そうは思えないような意外なことを言いだした。


「キーラ・ヌアさん、ちょっとお話をしましょうよ。あなた、疲れてきたでしょう? 休んでいいわよ。私はぜんぜん平気だけれど、休憩につき合ってあげる」


 カケララは笑っていた。

 正直なところキーラにも休みたいという気持ちはあったが、カケララの誘惑に乗ったら最後、地獄が待っていることは心が読めなくても分かる。


「いいえ、けっこうよ!」


 カケララにはキーラの返答は聞く前から分かっていた。しかしキーラに少しでも休みたいと思わせてしまえば、それが精神的な毒となってキーラを苦しめることになる。カケララがキーラに語りかけても、それを(さえぎ)ってまで攻撃をしてこなくなる。


「キーラ・ヌアさん。私の読心能力はね、戦闘を有利に運ぶためのものじゃないのよ。狂気を(むさぼ)るためのものなの」


「だったら何だっていうのよ」


「ふふふ。あなた、コイバナは好きかしら?」


 カケララにそんなことを訊かれたキーラは、寒気がして全身に鳥肌が立った。

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