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第243話 カケララ戦‐護神中立国①

 レイジー・デントが護神中立国の中央を飛行するカケララを見つけたとき、狂気に染まる人々たちを助けに向かわせたのは、まだアンジュとエンジュの二人だけだった。

 レイジーはサンディア・グレインとセクレ・ターリを合わせた三人でならカケララに対抗できると考えていた。


 しかし、レイジーはものの数秒で自分ではカケララに勝てないと悟ってしまった。

 彼女たちが戦うカケララの能力は物体を自在に動かす力、いわゆるサイコキネシスだった。それに加えてカケララの体はとんでもない耐久力を備えている。

 レイジーが指先から鉄をも溶かすレーザービームを放っても、カケララはそれを手のひらで受けとめるし、レイジーの指を操ってレーザービームをレイジー自身へと向けようとする。

 このカケララに対しては、すべての攻撃が諸刃の剣だった。


「サンディア、セクレ。あなたたちはアンジュとエンジュのほうを助けに行ってあげて」


 どうやっても勝てないのなら、人々を救うほうに人員リソースを()いたほうがいい。

 自分が負けた後は結局カケララが襲うだろうから、それがほんの少しの時間稼ぎでしかないのは分かっている。

 レイジーという少女は常に最善を選ぶ人間だ。しかし、今回ほど虚しい選択はない。いくつかある未来への分かれ道すべてに(またが)るように最悪の結末が寝転がっているのだから。


「一人で戦う気ですか? それは無茶無謀というものです」


 セクレがレイジーをたしなめる。

 レイジーの選択はいつも最善だから、これまでセクレがレイジーに意見したことは一度もなかった。だから、意見するのはこれが初めてのことだった。


「三人で戦っても同じだよ。アレには勝てない。それよりも救える人がいるなら、できるだけ多くを救うべきだよ」


 レイジーが勝てないと確信した最大の理由は、彼女たち三人にはカケララにトドメをさせる者がいないということだ。

 攻撃力でいえばレイジーは世界中の魔導師の中でもトップクラスなのだが、そのレイジーの攻撃がまるで歯が立たない。

 勝ちようがない。

 サンディアの砂で生き埋めにしようともしてみたが、拳一つで軽々と砂の魔法リンクを破壊してしまうし、本人談ではあるが、そもそも呼吸を必要としないのだという。

 概念種の魔法でもない限り太刀打ちできない。

 完全にお手上げだった。


 そしておそらく、というよりまず間違いなく、カケララは攻撃もすさまじいはず。攻撃してくる前から圧倒的気配で精神的にダメージを受けているくらいだ。

 そんな状況から、レイジーは一つの決断をした。


「狂気の濃度が高すぎる。アンジュとエンジュが心配だよ。二人を助けに行ってちょうだい」


 レイジーのその言葉に、サンディアとセクレの二人は返事をしなかった。二人の目が明らかにレイジーの頼みを拒否している。

 アレと一人で戦うだなんて馬鹿げている。目がそう言っている。


「サンディア、お願い!」


 悠長に配置換えの相談をしている暇はない。

 レイジーの切迫した表情と声音が、答えあぐねていたサンディアに口を開かせた。


「……分かりました」


 サンディアは忠実だった。

 もちろん、生徒会長の指示だからといって何も考えずに従うデクの棒ではない。彼女自身もアンジュとエンジュのことを心配していた。

 ただ、圧倒的強者の敵に相対している人数を減らすということは、生徒会長を見殺しにするようなものではないか。

 返事はしたものの、激しい葛藤が彼女を襲い、すぐには足が動かなかった。


「セクレ、君もだよ!」


「私は行きませんですよ、会長。あっちはサンディア一人いれば十分でしょう。それに、私と会長のコンビネーション技が通用しなかったわけでもないのに、絶望的な雰囲気を出さないでくださいです」


 レイジーは面食らった。セクレが自分に対して強気な物言いをするのは初めてのことだ。

 セクレ・ターリは魔導学院でいちばんの頑固者だろう。今日までレイジーとの衝突は一度もなかったのだが、ほかの生徒会メンバーと衝突したときは頑固すぎて驚いたほどだった。


 レイジーが面食らったことで、このグループの主導権はほぼセクレが握ったような状況になった。

 そして彼女は二の足を踏むサンディアの背中を押した。


「サンディア、早く後輩たちを助けに行くです。あなたがへたに手を出すと、私と会長の連携技の邪魔になるかもしれないです」


「そうですね、分かりました」


 迷っている時間がもったいない。行くにしても残るにしても、早く動かなければ狂気の侵食がもっと進んでしまう。

 サンディアは駆け出した。

 カケララはサンディアにちょっかいを出さずに見送った。


 そして、カケララが口を開いた。


「ねえ、もしかして、自分を追い込んだと思っている? 見当違いも(はなは)だしいわ。あの娘がいたところで、あなたとお友達が苦しむ時間は一秒たりとも減ったりしないのだから」


 そう言うと、カケララはレイジーの方に燃えるような紅い瞳を向けて口の端を吊り上げた。

 護神中立国は領土全域が神社の敷地みたいな雰囲気になっていて、辺りは石畳で整地されている。

 その石が地面から飛び出して、カケララの(かたわ)らで浮く。

 体積にして人の頭の四倍くらいあろう大きさの石が、まっすぐとレイジーの方へ飛んだ。かなり速いが、軌道を見てギリギリかわせる程度だった。

 ちょっと反応に遅れたレイジーが転げながら飛来石を避けたとき、カケララの周囲には無数の石が漂っていた。


「ちょっと待ってよ。一度に動かせるのは一個だけだと思っていたよ」


「あらかわいい。いっちょまえに私を分析していたのね。御褒美に教えてあげる。一個ではなく一種類よ。生き物は一固体ずつだけれど」


 そういうカケララ自身は石に乗っているわけでもなく空に浮いているので、それはサイコキネシスで浮いているのではなく、別の能力として浮いているのだろう。

 カケララには五人それぞれに一つずつの特殊能力が備わっているが、浮遊能力や超強力な身体能力は基本能力としてすべての固体に備わっているらしい。

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