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第231話 傷心と前進

 キーラは意識を失った後、ほんの数分で意識を取り戻した。

 自分を心配そうに見守る仲間たちの中にゲス・エストの顔を見つけると、不意に視界がぼやけた。


「おやすみなさい……」


 キーラは言いながら立ち上がって、うつむいたまま(あかつき)寮の自室へと走った。

 就寝のあいさつには「そっとしておいて」という意図があったが、どうやらみんなそれを()んでくれたらしい。

 自室の鍵をかけると、ベッドにうつ伏せに飛び込んで枕に顔を(うず)めた。

 そして、寝入るまでひたすら声をあげて泣きつづけた。



 キーラは夢を見た。


 目の前には巨大なムカデ型イーターが鋭い(あご)をワシャワシャ動かしながら自分のことを見下ろしている。

 しかし、いまのキーラにとっては脅威ではない。

 キーラは体内電流を起点として指先から電気を放つ。白く光る電気は空気を食い破りながらイーターへと飛んでいき、イーターの体へと到達した瞬間に爆発的に電圧を上げた。

 巨大ムカデはビクンと仰け反り、硬直した。やがて全身から湯気をあげながら横倒しに崩れ落ちた。


 思い返せば、キーラがゲス・エストに好意を抱きはじめたのは初めて会ったときだった。

 巨大なムカデ型イーターに襲われ、絶体絶命のところをエストに助けられた。


 その後もエストと関わりつづける中で、最初は嫌な奴だとも思ったが、四天魔やE3(エラースリー)をどんどん倒していって「俺が最強だ」を有言実行する姿や、憎まれ口を叩きながらもなんだかんだで助けてくれるところを見ているうちに、キーラの好意は少しずつ大きくなっていった。


 エストとの付き合いの中で、キーラは誰よりもエストのことを理解している自信があった。

 だからこそ、エアが人成してエストに対して牙を剥いたとき、エストがエアを処断せずに彼女を救おうと躍起(やっき)になる姿に衝撃を受けた。「本気の殺意を決して許さない」みたいなことを常々口にしていたのに、エアに対しては許さないどころか彼女の力になろうとしていた。

 それはキーラが見たことのないゲス・エストだった。


 結局はエストがエアを倒したのだが、「世界がエアを断罪しようものなら俺が世界を許さない」というようなことを言って彼女を守った。

 エストがエアに()れているのは間違いなかった。

 その事実をキーラは受けとめきれなかったが、当のエアは恋愛感情に(うと)くエストの告白を受けなかったと聞いて、わずかに希望が残った。


 告白を受けなかったといっても断ったわけではなく保留した形のようなので、悠長に構えているわけにはいかない。

 エストは自分のことを初めて倒したからエアを好きになったのだ。エストは強者にしか興味がなく、エアは間違いなく強者だった。

 だから、エアよりも強く、エストよりも強くなれば、エストは自分に振り向いてくれるはず。キーラはそう思い至って、とにかく強くなろうと努力した。


 不意にビューッと突風が吹き抜けた。

 髪を押さえながら後ろを振り返ると、そこにはうつむいたリーズ・リッヒが立っていた。

 彼女もおそらく自分と同じ動機で人一倍修練に励んでいた。生徒会長には二人そろって鬼気迫る勢いだと並べられていたものだ。


「どうしたの? また手合わせ?」


 リーズはうつむいたまま首を横に振った。彼女はただ話をしにきたのだと言った。


「雷の音で聞こえませんでしたけれど、告白しましたの?」


 リーズはいまのキーラにとって最大のライバルだった。

 恋愛に限ればエアがいちばんの天敵なのだが、魔法の実力やエアを追いかける立場として見れば、隣を走っているのは間違いなく彼女だった。


「うん。フラれた」


 エストは一番はエアだと言った。だったらフラれたのはリーズも同じだ。

 しかしそれを自分がわざわざ言う必要はない。エストに出会う前の関係性だったら嫌がらせでそれを告げたかもしれないが、いまはそれくらいの気を使って当然の仲。

 ライバルであっても友達であり仲間なのだ。


「そう……ですの……。その、なんと言っていいか……」


「いいの。平気よ。だって、分かっていたことだから。ありがとね」


 サーッと優しい風が吹き抜けていった。それはまるで、(ほお)()でて涙を(ぬぐ)ってくれる温かい手みたいな感触だった。



 キーラは目を覚ますと、体を起こして伸びをした。

 思いのほか清々(すがすが)しい気分だった。

 外は暗い。夢の中ではけっこうな時間が経った気がするが、寝ていたのはほんのわずかだったらしい。


 明日からは紅い狂気に備えて厳戒態勢になる。今度はちゃんと寝なければ。

 そう思い、今度は電気を消してちゃんと布団に入ったのだった。

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