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第206話 身の程を思い知る①

 魔道学院の校長先生から神へ会うための鍵玉を受け取った後、俺は護神中立国へと飛んだ。

 シミアン王国での一連の出来事より少し前のことである。


 護神中立国の空には水の格子が張り巡らされており、入国するためにはザハートの関所を通る必要がある。

 ザハートにはリオン帝国とジーヌ共和国の関所もあり、世界の中心地と呼ばれる場所である。

 三つの関所の中でも護神中立国は入国審査が飛び抜けて厳しい。


 護神中立国に入国するためには、まず二人の幼い巫女に認められなければならない。巫女には人の中の本質的な部分を見抜く力があり、(よこしま)な精神を持つ者は入国できない。

 もしも力ずくで通ろうとすれば、関所の番人である盲目のゲンと戦うことになる。盲目のゲンはE3(エラースリー)と呼ばれる世界最強の三人の魔導師の一人とされている。

 もっとも、俺がE3(エラースリー)たちと戦って打ち勝ったため、いまとなってはゲス・エストが単独で世界最強の魔導師と(うた)われるようになった。


 俺とエアはザハートに降り立ち、赤い鳥居の前に立った。そこが護神中立国の関所なのだ。

 二人の巫女が出迎え、普段は顔を出さない盲目のゲンがいきなり姿を現した。白い拳法着をまとう白髪で盲目の老人。

 盲目のゲンとはかつて戦って以来、初めて会うことになる。


「通してもらう」


 二人の巫女は互いの顔を見合わせ、(うなず)きあった。そして、水の入ったコップを渡してくる。一次審査は合格といったところか。

 次は二次審査。というよりは通行料だ。入国者はこの水を飲むことを義務づけられる。


「水は飲まない。いいな?」


 盲目のゲンは水の操作型魔導師だ。コップの水には盲目のゲンの操作リンクが張ってある。水を飲めば俺たちは盲目のゲンに命を握られる。

 彼が理由もなく攻撃してくることはないとは知っているが、俺は用心深く、決して他人を信用しない。もしも水を飲まなければ通さないというのなら、かつてやったようにまた盲目のゲンを倒して力ずくで入国するまでだ。


 巫女の一人が盲目のゲンへとトコトコ駆け寄って耳打ちした。


「うむ、よかろう。鍵玉を持つ者を通さぬというのは、神様の導きに逆らうことに等しい。通るがいい」


 鍵玉。校長先生からもらった神に会うための宝玉。

 これがなければ盲目のゲンと再び戦っていたかもしれない。前の戦いで勝ったとはいえ、ギリギリの勝利だったし俺は死にかけた。エアがいなければいまの俺はなかった。

 エアが人成したいまでは俺の魔導師としての能力は格段に上がっているからもう負けることはないはずだが、決して(あなど)ってはならない相手だ。

 幸いなことに鍵玉のおかげで水を飲まなくても通行許可が下りたのだった。


 護神中立国内は閑静(かんせい)というか、閑散としていた。

 人はごく少数。それも当然のことだ。この国にいるということは、彼らは決して邪な心を持つことがないということなのだ。

 彼らは非常に穏やかな顔をしている。そんな人間らしい感情を持たない者が世界にどれほどいるというのか。せいぜいこの国の住人くらいのものだ。

 だから人の感情に()かれる精霊はいないし、イーターも神を(おそ)れて近寄らない。もっとも、神をも畏れぬイーターがいても盲目のゲンが通さないだろうが。


 俺とエアは二手に分かれ、空を飛びまわって神社を探した。空間把握モードで建物を見つけてはそこへ飛び、目視確認した。


「エスト、見つけたよ」


 エアが空気の操作で遠方から声をよこしてきたので、俺は声の飛んできた方向へ飛び、エアと合流した。


 濃密な白い霧のせいで一歩先の景色も見えないような場所だったが、俺もエアも空間把握モードで周囲の地形や物体の位置などは正確に把握している。

 俺とエアは並んで巨大な鳥居を(くぐ)った。

 鳥居を潜った先は不思議なことに霧がかかっていなかった。正確には参道の部分だけを霧が避けていた。

 石畳の参道には赤い鳥居が連綿と続いており、鳥居の外側は濃い霧に覆われている。


 鳥居を百近く潜っただろうか。最後の鳥居だけ白い色をしていた。

 三段の石階段を上がると、正面に拝殿があり、黄金のしめ縄に銀色の紙垂しでが垂れ下がっている。

 ただ、俺の知る神社とは様相が異なっていた。鈴を鳴らすための縄がぶら下がっていないし、上を見上げると鈴も付いていなかった。

 賽銭箱(さいせんばこ)も普通の賽銭箱ではない。賽銭を入れられるような格子状の穴は開いておらず、桐らしき木の蓋が付いている。蓋の中央には黒い石がはめ込まれており、その黒い石の中央には丸い(くぼ)みがある。

 鍵玉をその窪みに合わせてみると、サイズはピッタリ一致した。


 鍵玉を黒い石の窪みにはめ込んで手を離すと、鍵玉が(まばゆ)い光を放った。かと思ったら、箱が消えていた。

 いや、俺たちは移動させられたのだ。さっきまでは拝殿が眼前にあったが、いまは後方に拝殿があり、眼前には本殿がある。


 振り返っていた俺たちが改めて本殿へと向き直ると、本殿の観音開(かんのんびら)きの扉が勝手に動きだし、扉の隙間から眩い白光があふれ出した。

 そして扉が完全に開くと、光は止み、中から一人の人間が姿を現した。

 少年だ。背丈は中学生くらいに見える。

 独特の着こなし術をお持ちのようで、白いシャツに白い(はかま)を履いている。

 黒髪で、相応に童顔なのだが、どこか貫禄があり、威厳(いげん)を感じさせる。


「ようこそ、ゲス・エスト。ようこそ、エア」


 少年は俺とエアに順番に視線を向けた。

 そして、最後に俺とエアの間に視線が落ち着く。


「でも、君のことは歓迎できないな」


 俺とエアは少年の視線を辿るように後ろを振り返った。

 その瞬間、俺の背中を悪寒が痛みをともなって駆け抜けた。

 そこには真紅の瞳のシャイル、いや、紅い狂気がいた。

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