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第197話 図らずも変えてしまった運命①

 庭師のガーディーを医務室に預けて休ませた。

 それから俺たちは応接間へと(おもむ)いた。


 広い部屋の中央に小さなテーブルと二人がけの椅子が向かい合って置いてある。

 俺が椅子の中央に座り、向かい側にはミューイとキューカが並んで座った。


「あの、もう少し詰めてくれないかな?」


 コータが俺の隣に立って、見下ろしながらそう言ってきた。気を利かせろよ、とでも言わんばかりの怪訝(けげん)そうな顔だ。

 俺はコータの肺の空気を動かした。コータが胸を押さえてうずくまる。


「おまえ、本気で俺の隣に座ろうと思ったのか? 俺は世界王、世界最高の権力者だぞ。そしてミューイはシミアン王国の女王、キューカはその相棒だ。で、おまえは何だ? 一般人だろうが。身分をわきまえろ。おまえの席はない」


 俺がこうしてわざわざ説明してやらないと分からないのも腹立たしい。

 もしも日頃のおこないがよくてコータが俺の信頼を勝ち得ていたなら、たとえ一般人だろうと俺は席を空けていただろう。

 だがこいつみたいなクズ野郎を甘やかすつもりはない。まずは礼儀や作法を学ぶべきだ。


「分かったよ……」


「おい、敬語を使え。やりなおし」


「……分かりました」


「承知いたしました、だろうが格下底辺」


「承知いたしました!」


 コータは開き直ったような口調で、顔からしても納得していないことは明らかだ。

 俺は思わず舌打ちした。身なりだけ貴族みたいな格好をしているのが余計に鼻につく。カッターシャツという質素な俺の格好とは真逆だ。


「これはあとで話そうと思っていたことだが、先に話すことにする。アラト・コータ、おまえは自分を特別だと思っているだろう? 自分のことを異世界から転移してきた物語の主人公だと思っているのだろう?」


 コータは俺がそれを知っていることに驚いた様子だった。

 だが俺がコータのことを知っているのは当然だ。創造者から聞かされていたのだから。まあ、厳密にはその代理人からだが。


「異世界から転移してきたのはおまえだけじゃない。ダースや俺も同じだ。そしてそれは、実のところ、そういう記憶を持つだけで実際にはこの世界の人間の一人でしかない。おまえもそうだ。おまえはまったく特別な存在ではない。おまえも俺たちと同じく、異世界の記憶を持つこの世界の住人でしかない。俺たちの記憶の中の異世界は実在しないんだ。ただし、おまえと俺たちが同じなのはその部分だけだ。おまえには俺ほど強い信念がないし、ダースほど善人でもない。おまえは半端者のクズだ」


 コータは頭を抱えた。さらにはふらついて、ゆっくりと床に腰を落とした。


 この話に限っては俺もコータのことを笑ったり見下したりはできない。俺も神の代理人からこの話を聞かされたときはコータと同じく頭を抱えたものだ。さすがの俺も立ち直るのに時間がかかった。

 しかし、この話をするとしてもまた別の機会だ。長い話になるだろうからな。


「異世界……?」


 ミューイはポカンとしている。まったく状況を飲み込めていない。

 ダースも俺もコータも、自分が異世界から来たということは伏せていた。もしかしたらダースかコータが誰かに話したりしていたかもしれないが、そんな突拍子もない話は誰も信じなかっただろう。


「この話は気にするな。この世界の一部の人間が、異世界から来たというニセモノの記憶を持っているというだけの話だ」


 もっとも、異世界自体が存在しないわけではない。神の世界は異世界といえるだろう。それは俺たちの記憶にある異世界とはまったく別物だ。


 俺がコータの方を見ると、まだ膝を抱えて(ふさ)ぎこんでいた。自分の中の真実が壊れたときの衝撃は俺にも分かる。俺ほどメンタルが強くないであろうコータにはなおさらダメージが大きいだろう。

 だがコイツに同情する余地はない。狭い水槽の中を泳がされている魚を外から眺めて愉悦に浸っていたつもりが、自分も同じ水槽の中の魚だっただけのこと。べつに自分の水槽だけ排水されたわけじゃない。同じ土俵に立ったにすぎないのだ。

 俺はそれを受け入れた上で最強を目指し、そして勝ち取った。


「おい、コータ。こっちに来い。本題はこれからだ」


 俺はコータを空気で包み込み、無理矢理引き寄せた。俺やミューイと直角の位置の下座に空気を固めて椅子を作り、そこに座らせた。魔法を使ってでも俺の隣に座らせるつもりはない。


「あれ? 案外優しいんだな……ですね」


「異世界の話はいったん忘れて、これからする話をよく聞いておけ。いいな?」


「分かった……りました」


 なれなれしさがなかなか抜けないコータに溜息(ためいき)をつきながら、俺はミューイとキューカの方を向いた。


「まずはミューイ、俺はおまえに感謝している」


「えっ!? 感謝だなんて(おそ)れ多いです! 私のほうこそ何度も助けていただいて感謝しています。王国を滅茶苦茶にしたことに対する恨み言もないわけではないですが、恩のほうが大きいです」


 俺は思わず笑った。


「おまえ、正直者だな。俺はそのほうが好きだが、普通はマイナスな印象は目上に対しては言わないものだ」


「あっ、ご、ごめんなさいっ!」


 メイドが紅茶を持ってきた。

 カップは四つあり、コータの分も出された。白を基調としたカップは、縁に緑の(つた)が走っていて、その先に小さな青い花がワンポイントとして入っている。実にシミアン王国らしいデザインだ。

 だが中の紅茶は帝国産だろう。紅茶を特産品とする帝国で飲んだことがある。


「でも、なぜ世界王様が私に感謝されているのですか?」


「おまえがキューカを人成させたことだ。俺はキューカが人と契約して人成するのをずっと待っていた。感覚共鳴の力が絶対に必要だったからだ。俺は全世界の強者と力を合わせて、この世界に訪れている最大の脅威と戦わなければならない」


 キューカの魔術は感覚共鳴という名称だが、意思共有と言ったほうが的を射ているかもしれない。

 その魔術でつないだ者同士は、思考や感情を共有し、つながった相手が何を考えているのか、何を感じているのか、それがお互いに分かるようになる。

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