第181話 王都徘徊
異世界転移ものの主人公が異世界に飛ばされたときに最初に考えることは何だろうか。何を目的として行動するだろうか。
だいたい相場は決まっている。
まず自分の転移した世界がどのような世界なのかを知ること。そして、元の世界に帰る方法を探すこと。
僕はというと、この世界のことはだいたい知っている。ここが僕の好きなラノベの中の世界だからだ。
一方、元の世界に帰る方法は分からない。
ラノベの中で、主人公のダース・ホークは元の世界に帰らなかった。元の世界なんてなかったからだ。
異世界転移の主人公のはずが、実は神によってそういう記憶を与えられただけの、この世界の人間だったのだ。
だが僕は違う。明らかに元の世界の新鮮な記憶がある。
では元の世界に帰る方法が分からなくて僕が途方に暮れているかというと、実のところそうでもない。
僕は元の世界に帰れなくてもいいとさえ思っている。なにしろ、ここは憧れの世界なのだ。
そして憧れの魔導師にもなった。ダース・ホークと同じく、最強種である概念種だ。
では僕は何を目的に冒険すればいい?
いや、そもそも冒険が義務というわけでもないのだが、いまは僕がラノベの主人公みたいなものだから、やっぱり冒険したいじゃないか。
僕は連続瞬間移動で王都の上空までやってきた。あまり魔法をひけらかさないほうがいいだろうから、テキトーな所に降りて、王城見物でもすることにしよう。
僕は王城の外壁に沿って歩いた。立派な王城を眺めながらひたすら歩く。
そのうちに正門へと辿り着いた。鉄格子の大きな門があり、その両サイドには王国騎士が門番として立っている。
シミアン王国における王国騎士と王国魔導騎士は別物だ。
王国魔導騎士は魔法が使える精鋭の騎士だが、王国騎士は数が取り柄で魔法は使えない。そこには貴族と平民くらいの格差がある。
シミアン王城。
僕は入ろうと思えばいつでも中に入れる。だが用もないのに侵入して賊とみなされるのはバカバカしいので、いまは眺めるだけにしておく。
「おい小僧。さっさと立ち去れ。正門から王城をじっと眺めていると怪しい者と判断して捕らえるぞ」
捕らえられるものなら捕らえてみろ、と言いたいところだが、ここは大人な対応をするとしよう。
「おっと、これは失礼したね」
「おいガキ、口の利き方!」
無用な争いは避けるべきだ。僕は早々に立ち去ることにした。
そもそも僕はシミアン王城の中の様子や王家の内部事情にだって詳しい。ラノベで読んで知っているから。
シミアン王家はシミアン王とその王妃の間に四人の子がいる。
年齢順に、二十五歳の第一王子、二十四歳の第一王女、十九歳の第二王女、十七歳の第三王女の四人だ。
シミアン王家は王位継承権でギクシャクしていた。
特に第一王子と第一王女の間が犬猿の仲で、相手を貶めようと互いに隙をうかがっている。
第二王女は第一王子・王女の熾烈な王位継承争いから弾き出されてしまっているが、野心は強く、誰よりも策謀を巡らせる性質だった。第一王子に取り入り、第一王子が王位継承したあかつきには第一王女よりも優遇される特権を得られるよう画策している。
第三王女は野心もなく王位継承争いからは完全に外れている。彼女は草花が好きで、将来は植物に関する研究をしたいと考えている。
そんなシミアン王家に対して、主人公のダース・ホークはやはり深い関わりを持った。
公務で外出していた第一王女がレジスタンスに襲われていたところを彼が助けた。それでシミアン王家に気に入られ、頻繁にシミアン王城に出入りするようになった。
そんな折、横暴な王国騎士とヒロインのサンディアとの間でトラブルが発生する。
市場で走りまわって遊んでいた幼い少年が王国騎士の足を踏んでしまったのがきっかけだ。
その王国騎士は短気な上に子供嫌いというのも相まって、足を踏まれた際に激情に駆られてしまった。
少年の首根っこを掴み、左腕を掴み、徐々に締め上げたのだ。
少年が泣き叫ぶが、それをうるさいと感じて王国騎士はさらに激昂した。
そこへ現われたのがサンディア・グレインだった。
一刻の猶予もないと判断し、サンディアは魔法を使った。砂の操作で王国騎士の体を羽交い絞めにし、少年から引き剥がしたのだ。
それが原因でサンディアは国家反逆罪にされてしまう。王国騎士に対して敵意を持って魔法を使ったら、その時点で国家反逆罪と見なされる。
応援に来た王国魔導騎士に捕らえられそうになるが、それを助けたのがダース・ホークだった。
ダースはサンディアを助けるため、王国と決別して戦った。最後には王国首席魔導騎士との一騎打ちにもつれ込み、そして勝利した。
そうしてダースはシミアン王と取引した。
ダースはシミアン王家を壊滅させることができる状況にあったが、それをしない代わりにシミアン王家は今後二人には関わらないと誓約をかわした。
「あーあ」
僕も同じように王女様を助けて王家に気に入られてみたい。おいしいご馳走を振舞われたりしてみたい。
でも、さすがにそんな都合のいい展開は降ってこないか。
いくら僕がこの世界のことをラノベで読んで知っていたとしても、そういった偶然に意図して遭遇することなどできない。
「お腹すいたなぁ……」
どこかのお店で……、いや、そういえば僕はこの世界のお金を持っていない。まずはお金を手に入れなければ。
よし、ギルドを探そう。依頼をこなしてお金を稼ぐのだ。
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