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第145話 ゾロ目④

 ロコイサーはベッドの方をチラと一瞥(いちべつ)した。

 小さな盛り上がりがある。キーラの同居人が布団を頭まで被って寝ている。

 目を覚ましているかどうかはロコイサーには分からないが、騒がしくしていたので目を覚ましていてもおかしくはない。

 だが、それは瑣末(さまつ)なこと。どうせ彼女には何もできないのだから。


 ロコイサーは立方体の箱を再び取り出した。左手に乗せて、賑やかで気色の悪い模様の箱を見つめる。


「さて、この箱に入るものをいただきましょうか。この箱、実は闇道具でしてね。人の魂を封じ込めることができるんです。もっとも、封じ込められる対象は箱の使用者が意識を喪失させた相手に限定されますが」


 そう言いながら、右手で木目の切れ目に指をあてがい、蓋を開いた。

 すると中から異様な気配のモヤが出てきて空気を紫色に染めていく。


「ダメ!」


 マーリンが慌てて布団から出てきた。

 キーラを抱き起こし、壁にもたせかける。そして一生懸命にキーラに呼びかけた。


「キーラお姉ちゃん! キーラお姉ちゃん!」


 しかしキーラは目を覚まさない。

 部屋をじんわり染めていく紫がキーラに達したとき、キーラの頭上から眩い光が飛び出した。そしてロートに水を流し込むように滑らかな動きで箱の中へと吸い込まれていった。


「残念でしたね、マーリンさん。ゲス・エストがあなたの能力を独占していなければ、キーラさんを助けられたでしょうに」


 マーリンはキーラの体に抱きつき、声をあげて泣いた。

 ロコイサーにはマーリンがいつ目覚めたのか、どんな思いで泣いているのか分からない。キーラが魂を抜かれたことを悲しんでいるのか、自分の不甲斐なさを悔しがっているのか、自分も魂を奪われることを危惧(きぐ)して恐怖しているのか。


「安心してください。あなたの魂は抜いたりしませんよ。そんなことをしたら、私があなたの能力を使えなくなりますからね」


 ロコイサーのその言葉に、キーラを抱きしめているマーリンの泣き声はいっそう大きくなった。マーリンはキーラに抱きついたまま動かなかった。

 ロコイサーがマーリンを連れ出そうと腕をひっぱるが、なかなかに抵抗が強い。


「仕方ありませんね」


 ロコイサーはパーカーのポケットから小瓶を取り出した。コルク栓を指で引っこ抜き、中に入っている白い粉をマーリンの頭上に振りかけた。

 白い粉はマーリンに触れると蒸発して消えてしまったが、その効果はしっかりと現われていた。

 キーラを抱きしめるマーリンの腕から力が抜け、バタリと倒れた。意識は残っている。もはや声も出せないが、キーラを見つめる目からは涙が流れつづけている。


「これは忘我薬(ぼうがやく)です。理性にもとづくすべての行動を不能にします。これが意識も奪える代物なら、楽にキーラさんの魂を奪えたのですがねぇ」


 ロコイサーはマーリンの膝裏と脇下に手を差し込んで、その体をすくい上げた。

 キーラの部屋を出て、足音を殺して廊下を渡り、鍵が開いたままになっている玄関から外に出た。


 無事にマーリンの奪取に成功した。

 あとは自分だけが分かる場所にマーリンを隠し、ゲス・エストの魂も箱に封じ込めれば、マーリンがゲス・エストの能力を使って(しゃべ)ることもできなくなるため、盟約の指輪の効力も失われるはず。晴れてマーリンの真実を知る魔法を使えるようになるわけである。

 ギャンブルに自分の魔法を(ささ)げているダイス・ロコイサーにとっては、マーリンの魔法は極めて重要である。

 勝負というのは勝つか負けるか二つの結末があるが、真実を知ることができるということは、ギャンブルにおいては勝利が約束されているということだ。

 その理想を考え出すと、笑いが込み上げてくる。

 特に今日対戦したキーラのような素直な人間が相手ならば、ロコイサーは絶対に負けなくなるし、素直でない人間とのギャンブルを避けることもできるようになる。


「キーラさん、やはりあなたはギャンブルには向いていない。ギャンブルは待っていちゃ駄目なんですよ。取りに行かなきゃ。あなたが魔法を一度しか使えないのはあなたのターンだけです。私のターンでもあなたは魔法を使えるんですよ。魔法を駆使して出目を操作しにかからなきゃ駄目じゃないですか。ギャンブルっていうのは、いかにバレずにイカサマをやるかっていうゲームなんです。ああ、言っておきますが、私はイカサマなんてやっていませんよ。だって、このゲーム自体が私に有利なものなんですから」


 ダイス・ロコイサーは背にした(あかつき)寮を一瞥してほくそ笑んだ。

 だがそのとき、突如としてダイス・ロコイサーを異変が襲った。その異変が何なのか、それを考える猶予もなく、彼はマーリンを抱えて立ったまま意識を失った。

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