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プロローグ――俺が異世界転移に至るまでの経緯

 高校三年生になってしまった。

 受験の年だ。


 進学校の受験シーズンは勉強一色に染まる。先生も生徒も、その親も。

 とかくうちは親からの圧がすごい。まるで勉強という凶器で俺を殺そうとしているかのようにさえ感じる。

 かといって学校が心休まる場所かといえば、まったくそんなことはない。


「ぜんぜん勉強してねー」


 ヘラヘラ笑いながら、今日もどこかに遊びに行くだのとクラスメイトを煽り散らかす奴が、日課を終えて帰宅していった。


 しかし俺は気づいている。奴の右手には人一倍大きいペンタコがあり、左手には紙で切った切り傷のために絆創膏(ばんそうこう)を巻いていることを。


「なあなあ、勉強なんかしてないで、一緒に遊びに行こうぜー」


 一方で、帰って勉強すると豪語している友人をたぶらかす奴が、手当たりしだいに声かけのハシゴをしている。


 彼は本当に勉強する気はない。ただし、彼は実家の事業を継ぐことが決まっていて、単純に勉強をしなくても将来が約束されているのだ。


 まったく、どいつもこいつも友人の足をひっぱろうとする奴ばかりだ。

 空気が読めないのではなく、悪意をもって、貪欲に、強欲に、他人を蹴落とすことで相対的に自分が上に立とうとしている奴。

 人の都合など考えずに自分の欲望を満たすことしか頭にない奴。


 俺からすれば、彼らは友人同士などではない。ただのクラスメイトであり、敵だ。


 もっとも、俺にはそういった表面的な友人すらいないのだが。


 俺こと下須(げす)恵主都(えすと)は、毒舌ゆえに仲良くなったそばから友人が離れていく。

 口は災いの元とはよく言ったものだ。俺ほどそれを体現している者はいないだろう。


 口を開けば人の心を刺したり(えぐ)ったりする。

 それは悪気があるわけではなく、思ったことを言っているだけなのだ。


 だから俺は自ら口を閉ざすことにした。

 しかしそれはそれで誰も寄りつかないし、友人ができるはずもない。

 結局、俺には友人などできないのだ。


 友情、信頼、情熱、あといちおう恋愛。そういったものに憧れがないわけではない。

 しかし誰も信用できない。俺の脳内で勝手に発生する洞察が邪魔をして、人の意地汚い部分が透けて見えてしまう。

 だから俺は、人間が嫌いだ。


 俺は教室を、そして学校を出た。


 人類は皆、敵だ。

 敵とは見知らぬところで発生しているものだ。

 例えば、親が恨みを買って子供の俺が狙われる、とか。


 ほら、正面から殺意の高い大型トラックが向かってくる。

 こういうのも俺は常に警戒している。


「ん?」


 こいつは本物かもしれない。

 運転手がじっと俺を見ている。いや、睨んでいる。


 トラックが速度を上げた。

 ここは広い直線道路。不運にも俺の左隣には豪邸があり、切れ目のない長い壁が続いている。

 右前方からトラックは迫ってくる。

 いや、不運にも、ではない。この場所を狙っていたのだ。

 俺はすぐさま後ろへと走った。幸い電柱が立っていたので、その裏側へと走り込む。

 トラックはそのまま追いかけてきて電柱へ激突した。


「おいマジかよ!」


 電柱がへし折れ、倒れかかってくるのを冷静に横に避けた。


 トラックからは、頭が血で染まった中年男性が降りてきた。フラつきながらこちらへ歩いてくる。

 目の前の重傷者を介助せず放置するのは法律違反、保護責任者遺棄罪になるはず。

 いや、いまの段階では俺に保護責任などないはずだ。「大丈夫ですか」などと声をかけたら最後、その瞬間に俺に保護責任が生じてしまう。

 だいいち俺は殺されかけたのだ。こんな奴に……。


「死ねぇえええええ!」


 殺意が高すぎる!


 出刃包丁を振りかざして走ってきた。

 俺には対抗手段がない。逃げるしかない。

 俺はとにかく走った。幸い俺は足には自信があったし、向こうは怪我を負っているので追いつかれることはなかった。


 息を切らしながらビルの解体現場の(かたわ)らを歩く俺は、ふと思い立って道を変えた。鉄骨の落下事故などを警戒してのことだ。


 もちろん、そんなことが起こる確率は極めて低い。

 だがその超低確率を警戒するかどうかで不幸を嘆くことしかできない愚か者と俺との差が開く。


 ――ガッシャーゴゴゴゴーン!


 工事現場の白い遮蔽版の向こう側で、複数の鉄骨が落下するけたたましい音が鳴り響いた。

 道を変えていなければ、いまごろ俺は鉄骨の下敷きになっていた。


 嫌な予感がして再び走りだす。

 さすがに鉄骨とトラックの運転手に関連性はないはずだが、何か大きな殺意が俺に向けられている気がしてならない。


 もちろん、ここまでは偶然が重なった域を出ない。あと一つ何かが起これば確信が持てる。


「誰かーっ! ひったっくりよーっ、捕まえてー!!」


 自転車を押していたおばさんが、自転車を道に倒してヒステリックに叫んでいる。


 黒い帽子に黒いジャンパー、黒いジーパンを着た黒ずくめの男がこちらへ走ってくる。


「どけっ!」


 左腕にはブランドもののバッグを抱え、右手は早く走るために大きく前後に振っている。


 俺は男に道を空けた。そして足を突き出し、男をこかした。


 俺はルールを守らない奴や不誠実な奴が大嫌いなのだ。

 とっ捕まえてやろうと、うつ伏せに倒れた男に近づく。


 しかし、俺はとっさに身を引いた。男が右手をポケットに突っ込んだからだ。おそらくナイフを取り出す気だ。


 武器持ちに素手で挑むのはリスクが高すぎる。武術の心得があるわけでもない。

 俺は即座に逃げた。男が立ち上がる前に。逆上して俺を襲いに追いかけてくるかもしれない。


 陰謀論めいているが、これはどう考えても何者かが俺を殺しにきている。

 見えない力が俺に死を与えようと動きまわっている。


 俺は恐怖を覚えた。

 それと同時に、どこか嬉しいとも感じていた。

 俺が日々過剰とも思えるほど警戒しながら生きてきたことが無駄ではなかったからだ。

 人生に光明が見えたわけではないが、嬉しい瞬間というのが一度でも訪れたことは僥倖(ぎょうこう)である。


「殺せるものなら殺してみろ! 俺は用心深いぞ」


 俺は偶像的な神の存在を信じていないが、それをイメージしながら天に向かって叫んだ。


 俺を敵に回すのなら、神だろうが何だろうが冒涜(ぼうとく)してやる。


 俺はよく下衆(げす)と呼ばれる。

 それはもちろん俺の苗字だから当然なのだが、脈絡的に不自然な流れで名前を呼ばれることがある。それをもし名前ではない意味で捉えたなら、文脈はつながることがある。

 つまり俺は、ゲス野郎なのだ。


(仕方がないな、君という奴は)


 そんな声が聞こえた気がした。きっと気のせいだろう。幻聴というほどはっきり聞こえたわけではない。いまのは自分の心の声程度の感覚だった。勝手に俺が神の声を妄想したのかもしれない。


 ただ、見えない大きな存在というのは、確かにいるらしい。

 山でもないのに急に真っ白な霧が辺りに立ち込め、俺の視界をゼロにした。

 喧騒や雑音も遠ざかって無音の世界がやってきた。まるで五感が奪われているかのようだ。


 さすがにこの状況で暗視スコープをつけた軍人なんかに襲われたら対処のしようがない。


 しかし、俺の命はもう狙われていなかった。


 霧が晴れていく。

 景色が変わっていた。

 あたり一面に草原が広がり、風が草を()でて通りすぎる音がした。


「これは……」


 異世界転移だ。そうに違いない。


 本当は転生させたかったのだろうが、俺が死なないから、諦めて転移、それもキッカケも何もない強制的な転移で、この世界に俺を移したということだろう。

 俺の唯一の趣味がライトノベルなのだから、その発想に結びつけてしまうのはやむを得ないことだ。


 実際、見たこともないような巨大な怪鳥が空を飛んでいる。


 ここは異世界だ。まったくの見知らぬ世界か、あるいは俺がいつか読んだライトノベルの中の世界かもしれない。


 もっとも、ここがラノベの中の世界だったとしても、俺は読みはじめて早々に切った小説が数多くあるから、先の展開を知っていることになる可能性は低い。ラノベのテンプレ展開くらいは予測できるが。


 こんな奇妙な事態をあっさりと受け入れている自分のことが自分でも不思議だが、それはきっと俺が心のどこかで望んでいたからだろう。


 これでもし魔法が使える世界なのだとしたら、俺は世界で最強になれる自信がある。俺は肉体的には強くはないが、精神的には世界でいちばんタフな自信があるからだ。


 そして、この世界にたくさんのダメ出しをしてやる。

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