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キュートな? 依頼主

「よいしょっ」


ヨッチがファルコンレガースに風の力を込めて強烈な踵落としを放つ鼬鉄槌(いたちてっつい)で原種ファットスライムを仕止めるの続き、


「せぇいっ!」


俺は片手剣ゴーストキラーに光の属性を込め突き炸裂させる技烈光突(れっこうづ)きを放ち最後の原種ファットスライムを粉砕した。

核以外はほぼ無色半透明の大型不定形のモンスターで、群れるとそれなりに厄介だ。単純な物理攻撃も核まで届かせないと効果が薄い。


「ありがとうございました! デーツさんっ、ヨッチさん!」


「凄ーいっ」


「いや、3階が限界ですね・・」


正直、身を守るので精一杯の様子だった駆け出しのG級冒険者3人組が安堵していた。

結局(パーティー)を組むことになった俺とヨッチは、最初の数日は東アリエス市近辺でソロの時よりやや難度を上げた素材集めをしていたが『技量だけ見れば』やはりヨッチは何も問題無かった。

なので改めてドーナワー遺跡の試練迷宮(ラビリンス)の上層に挑んでみよう! となったところで、メイリリーさんに実戦ではラビリンス未経験の新米3人組のお守りを頼まれていたんだ。


「大丈夫だったぁ? あ、ここ擦りむいててるよ? 回復薬(ポーション)だけだと痕、残ったりするから傷薬塗ってあげる~」


「あ、大丈夫ですっ、ヨッチさんっ。自分で! ホントにっ」


「いいから~いいから~」


新米の中に1人いた額に2本角を持つヤシャ族の女の子に絡みだすヨッチ。引く、他の2人の新米・・


「ヨッチ! 複数のハラスメントで訴えられるぞっ? 離れんかいっ」


俺はヤシャ族の女の子からヨッチを引っぺがしに掛かった。


「なんだよぉっ、こっからがあたしの本当の戦いなんだ!」


「やかましいわ!」


困惑しているヤシャ族の女の子をよそに、俺はムキになったヨッチをフルパワーで剥がしに掛かるっ。ぐぐっ、コイツ、めちゃ力強い! もはや口説くことより俺に対抗することに本気になってるなっ? お子ちゃまかっ!



てな具合に、ドーナワー遺跡のラビリンスでの事実上の初心者研修の随伴の仕事(ほぼノーギャラなので現地で自分達の報酬を調達する感じではあった)を終えた俺達はブギーキャットで軽い打ち上げをしていた。


「は~い、枝豆ツナオニオンと川海老のフリッター、アリエスエールお代わり2つ! お待ちにゃ~っ」


モフミがワゴンで酒とツマミを持ってきた。


「ありがとう、フリッター俺ね」


「モフミちゃ~ん、そろそろ通信石(つうしんせき)(文字通信できる魔法道具)の番号教えてよぉ~」


「『そろそろ』とか、そんなシステム無いですから」


「っ?!」


真顔で、語尾に『にゃ』も付けずにピシャリと切ってくるモフミっ。


「じゃ、ごゆっくりにゃ~」


何事も無かったようにすぐにいつもの調子に戻って立ち去ってゆくモフミ・・。唖然と見送るしかないヨッチ。


「・・ま、アレだな。積み重ねだ、モフミへの距離感の積み重ねが足りなかったんだよ、憧れが止まらなかったんだろうがよ」


項垂れるヨッチ。もそもそと枝豆ツナオニオンをチョップスティックで食べだす。


「なんかさぁ、このアスキー州に転籍してからあたしの打率下がった気がする。メイリリーさんも素っ気ないし!」


「まだ口説いてたのか? 手当たり次第過ぎるぞ?」


俺も川海老のフリッターを食べだした。美味っ。サックサク!


「そうだよねぇ・・どっかに、ど真ん中! な美女か美少女がいてくれたらあたしもさぁ」


「夢みたいなこと言ってら」


呆れたもんだ。俺はエールを飲む。常温発泡酒の濃密な芳香。ブギーキャットのエールは数種類あるが頼んだのは鳩麦フレーバーだ。人によっては「麦茶かよ」と嫌うが、俺はこの柔らかい甘味と香りが好きだった。

とその時、


「っ!!」


「っ!」


店の中に、1人の少女が入ってきた。身長は154センチメートル程度。僧帽(そうぼう)を被った栗色のボブカット。丸みのある整った可憐な顔つきをしていた。歳の頃は17歳程度か?

華奢だが健康そうな身体を旅装仕様のハーフパンツタイプの僧服で包み、刺突特性の犀の装飾の杖、ライノスティックを持っていた。

種族は・・小柄な人間族? 細身のドワーフ族? 種族の基準ではやや背の高いボックル族?? 中間的な風貌な為、判断し難かった。ハーフかクォーターなのかもしれない。

地味ではあったが、間違いなくいわゆる『美少女』に該当する娘で、目敏い客や店員は少し目を見張っていた。派手な薔薇ではなく野菊、といったところか?


「なっ! なななななななっ?!!!!」


ヨッチが激しく痙攣しだした。


「オイッ? どうした?! しっかりしろっ、ヨッチ! 何か当たったかっ?」


牡蠣とかは頼んでなかったが??


「美」


「美?」


「入ってきた子が美少女過ぎて精神的に妊娠してしまったよ」


「バカタレっ!」


どんな精神状況だよ?! 妊娠って、増えるのか? お前の精神???

わちゃわちゃしていると、僧服の少女は俺達の席の方に歩いてきた。おお? 思わず、身を引いてしまう俺達。接近すると整い過ぎた人物はそれだけで攻撃力高いっ!


「デーツ・サンドスターさんとヨッチ・グランリーフさんですね?」


意外とハスキーな声だ。


「あ、はい。そう、だが?」


「なんでしょう? 好き!」


「心の声がハミ出してるぞっ、ヨッチ!」


「あばばっ」


赤面して混乱するヨッチ。僧服の少女は少し目を戸惑ったが、話を続けた。


「依頼の件、通信石で御覧になってませんか? メイリリーさんが送信して頂いたと思うのですが」


「通信石?」


俺達は慌てて自分の通信石をウワバミのポーチから取り出し、確認した。

新米の面倒を見る仕事の後、新米達がせっせと連絡していたから俺達は後でいいだろうと、手をつけてなかった。

教練所のカリキュラムの参考にするからレポート形式で書くよう言われていたから仕事終わりに対応するのが億劫だったというのもある。

ともかく見てみると、確かにメイリリーさんからの通信文を受信していた。


「何々・・依頼内容、数ヶ月に及ぶ長期の魔法植物(マジックプラント)の調査の護衛及び補助。依頼主は地母神目敏マジオシュシュ神殿修学課所属、ダバティン・ウエノスキー、16歳。種族はドワーフだが、ユニークスキル『ドワーフマジシャン』を持つ為、細身の風貌。協会補助員(ギルドサポーター)登録済み。ジョブは神官。クラスはE級相当」


ドワーフマジシャンは頑強なドワーフにしては体力が無いが、代わりに高い魔法適性を持つ体質系スキル。結果的に殆んどの場合、体格にも影響が出る。


「神官なのにマジシャンなんだ」


「スキル名だけですよ。ただ、虚弱だった子供の頃から鍛えてきたので、体力面でも足手まといにはなりませんっ」


頑張ります! って感じのポーズを取るダバティン。カワっ。


「どうでしょう? 報酬自体は正直そう高くはありませんが、現地で調達可能なサンプル以外のいくらかのマジックプラント素材等は山分けにできます。いずれもE級数名で問題無く対応できる物ばかりです。希少な素材で装備の補強も・・」


「やるよっ!」


立ち上がってダバティンの手を取るヨッチ。


「あたしら攻撃役(アタッカー)防御役タンクだけでバランス悪かったし、他に新メン集まらなかったしっ! ダバティンちゃん! 一緒に旅しようっ」


「ええ、ありがとうございます。あの、できればちゃんではなく、『君』でお願いします」


「そう? じゃあ、ダバティン君! よろしく!! いいよね? デーツ!」


「ああ、まぁ」


内心、数ヶ月は長いと思わないでもないが、ヨッチが勢い付いてしまっているからしょうがない。

俺は席から立ち上がって右手を差し出した。


「改めて、デーツ・サンドスターだ。ソースの材料みたいな名前とよく言われる」


ダバティンは笑って、両手を取られていたが、やんわりヨッチの手から右手を離すと俺の手を取った。


「ボクはダバティン・ウエノスキー。よろしくお願いします」


これにヨッチが反応する。


「ボクっ子っ?! 可愛いが渋滞してるっ。あっ、あたしはヨッチ・グランリーフね!」


もうメロメロになりながらなんとか自己紹介して苦笑されていた。



マジオシュシュ神殿はアスキー州最大の宗教施設で、大学に近い機能も有していて修学課がその研究力の要だった。

ダバティンはそこでマジックプラント学を専攻していて、神殿が州内で管理している80箇所あまりのマジックプラントの生息地を20年ぶりに再調査する命を受けて3ヶ月程前から活動していたらしい。

ソロや現地ガイドを1人付ければどうにかなる程度の箇所は既に周り終えており、残りはやや手強い28箇所のみ、となっていた。

ブギーキャットで依頼を受けた翌日、俺達はまず東アリエス市の西の平原にある『バーバリーガーデン』に向かった。

ここは平地に生息する植物系モンスターの巣窟でもある。

目指すマジックハーブは『グラスラベンダー・アスキー州亜種』であった。

まず早朝、馬を借りて現地までなるべく早く到着し、基本的には安全な魔除けの効いた公道を通ってバーバリーガーデン各所にある採集拠点(クエストベース)を回りながら馬を乗り換え、手早く移動してゆく。

目的地に一番近いクエストベースに着いたのは午後1時過ぎ。悪くないペースだ。

俺達はここで昼食や買い出しを済ませた。


「ボクはお手洗いに行ってきます」


「わぁ、あたしも一緒に行きたかったけど来てすぐ済ませたし・・ちょっと道具屋行ってくるわ」


「俺は、・・ここでコーヒー飲んでる」


俺達は食堂で一先ず散会する流れになった。


「雑なコーヒーだなぁ」


専門の調理担当ではなく、手の空いた運営スタッフが大雑把に入れたらしいコーヒーは湯で豆に熱が通り過ぎた部分とあまり通ってない部分の味と香りが混ざって妙な具合になっていたが、いかにもクエストベースの飲み物らしくて好ましかった。

申し訳程度に添えられた焦げ目のあるクッキーの中には砂糖や小麦粉の小さな塊がそのまま残ってたりする。これもこのコーヒーとは相性がいい。

オカチャン達がいつか離れ、俺が残ったのはこの辺の感覚の違いかもな。

だが、


「・・飲み過ぎたか」


少々ブルっときて、俺もトイレにゆくことにした。

簡単な作りの男女別のトイレがあった。あるだけでもいいよね。クエストベースより簡素な、完全に野外にある魔除けは効いてるが無人の(はら)(しょ)では予算や古さ次第でトイレのコンディションがよくなかったり、そもそも無かったりする。

移動中等はそれ以前の問題だ。毎年、野外活動やラビリンス攻略時、トイレ中にモンスターに襲われて亡くなる冒険者はそれなりにいる。


『トイレがある』


素敵なことだぜ。その概念に乾杯!


「ふふっ」


俺は微笑みながら男子トイレに入った。その時、給水槽から水を流す音がして、個室からダバティンが出てきた。


「あ」


「どうも、お先です・・」


ダバティンはそそくさと洗面台にゆき、石鹸水のボトルの液で手を洗い、給水器の水て灌ぎ、蛇口に水を掛けて石鹸水を落とし、蛇口を締めると俺の方を少し振り返り言った。


「ここのトイレ、綺麗ですね」


「だよね! 俺、ここ出る時、維持費にちょっとカンパしようと思うっ。トイレ、大事だもんな!」


「はい、ボクもそう思います。それじゃ」


「おうっ!」


ダバティンはスッと去っていった。


「えーと・・」


男子だった? いや、女子トイレが混んでた、とか??


「・・よし、一旦忘れよう」


俺は切り替え、出す物を出した。人間だもん。

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