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私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~  作者: 瑠美るみ子


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14 ポーション作り

「ポーション作り、ですか?」


 サリクスは長細い机に並んだ道具を見て、不思議そうに言った。


「魔道具店とは回復薬も扱うのですか?」


「いや、店によって違う。都市部なんかは大体魔道具専門だな。ただ、辺鄙な場所だと薬屋が無いこともある。そういった場合、近隣の住人から回復薬の販売を請われるんだ。魔道具店で働いている魔法使いなら、下級ポーションぐらい作れるしな。俺の店も、そういった需要に応えているってわけだ」


 ユーカリは懐から魔法の杖を取り出した。サリクスの手首から肘ぐらいの長さのそれを、小鍋に突きつける。そして、くるくると先端を回すと、円を描きながら水が中に溜まっていく。魔法で水を出したのだ。


「ポーションの作り方だが、まず、鍋に水をこれくらい入れる」


 小鍋の半分ぐらいまで水を入れ、ユーカリは魔法を止めた。杖をピンッと上に向けると、今度は横に置いてあった薬草がふよふよと宙に浮く。


「次に、材料を水の中に沈める。右から、メシアンの小葉、キーチキの若草、乾燥させたベラ人参の根を順に入れて、蓋を閉める」


 宙に浮いていた材料が鍋へ入っていき、水の中に沈められる。

 ユーカリは次いで蓋を閉め、コンコンと杖で鍋を叩いた。すると、三脚台の真ん中に火が灯り、ヒューと音を立てて蓋が動く。蒸気がもくもくと隙間から出てきた。


「そして今度は黒魔法『(フレイム)』と『(プレス)』を同時にかけ、少し待つ。蓋が動いて蒸気が出てくるが、気にするな。蒸気が出なくなったら、蓋を開けて薬草を取り出していく」


 ユーカリは動かなくなったのを確認してから蓋を開け、サリクスに鍋の中を見せる。

 最初とは違い、鍋の中の水は琥珀色に濁っていた。心なしか量も少なくなっている。匂いも無臭から、土のような匂いに変わっていた。

 ユーカリが杖を動かして薬草を鍋から取り除いていき、中身を空の瓶に注ぐ。


「鍋に残った液体を瓶に注いで、蓋で閉める。最後に赤魔法『維持(キープ)』をかけたら、ポーションの完成だ」


 また杖を振って、瓶に魔法をかける。上から下へ走っていくように、ガラスの容器が光った。防腐用の魔法をかけたのだ。これで瓶を開封しなければ、半年間はポーションの効能が保たれ、腐ることもない。

 ユーカリの手際の良さに感心していると、サリクスの耳に精霊達の笑い声が聞こえてきた。


『下手くそ! 不味いポーション作ったな! ユーカリの下手くそ!』


 と、言っているのを、サリクスですらハッキリと聞き取れた。

 人外の血が流れているユーカリは更に詳しい言葉が聞こえたのだろう。彼はサリクスから気まずそうに顔を逸らして、ボソボソと言い訳をした。


「し、仕方ないだろう。俺の本業は薬屋ではない。五回に一回ぐらいは、不味いポーションだって出来上がるさ」


 その五分の一を、今引いたのだろう。サリクスが返答に困っていると、ユーカリは己の失態を誤魔化すように出来上がったポーションを光に当て、説明し始めた。


「本来なら、もう少し澄んだ琥珀色の液体になるんだ。この色だと雑味があって飲み辛くなる。まあ、その、効能は変わらないから、こういうのは値打ち品として売り出せばいい。だから多少失敗しても問題はない。ほら、やってみろ」


 ユーカリはポーションを用意していたかごの中に入れ、サリクスに作成を促す。

 彼女は小さく頷いて、先ほどの手順通り、まず鍋に水を入れようとした。


「ウンディーネ、お願い」


 精霊を呼ぶと、彼女の手のひらに青い光が浮かんだ。そのまま水の生成を頼んだら、ウンディーネが躊躇ったのがわかった。


(え、どうして?)


 サリクスは驚き、ウンディーネに語りかける。どうやら、ユーカリが作ったポーションを気にかけているようだった。

 サリクスはしばし考え、ウンディーネの意図を汲んだ。


(……もしかして、普通に水を生成したら、失敗してしまうと言いたいの?)


 サリクスの心を読んだのだろうか、青い光は頷くように振動する。そして、彼女に向かって懸命に話し始めた。

 拙い話し方に真剣に耳を傾け、サリクスは精霊の主張をなんとか把握する。


(魔法で生成する水は私が飲めるように魔素(マナ)の濃度を薄くしている。だけど、ポーション作成するときは、魔素の濃度が高い水の方が質が良いのが作れる。つまり、意識して魔素濃度が高い水を生成した方がいいのね)


 サリクスはウンディーネの言葉に素直に従い、水の生成方法を工夫した。

 体内に流れる魔力を、いつもより多めにウンディーネに渡す。そして、水の精霊を通して、その自然の力の一部を拝借する。

 己の身体から血が抜けていく代わりに、暴力的な力が手に入る感覚。サリクスはそれを、荒れ狂う水流みたいだと想像した。

 すると、地面から水が湧き出るように、鍋の底から透明な青い水が渦を巻いて出現する。あっという間に鍋の半分の量まで達し、サリクスは慌てて魔法を止めた。


 鍋に水は溜まった。その中に材料を入れたら、次は(フレイム)(プレス)だ。

 今度は火の精霊サラマンダーと風の精霊シルフを呼び出す。彼らもまた、サリクスに普通に魔法を使ってはダメだと助言した。


 炎は闇雲に燃え上がらせるのではなく、材料を内側から溶かすように。圧はただ力任せに押し付けるのではなく、空気を抜いていくように。

 サリクスは言われた通りに魔法を実行する。炎はマグマ、圧は穴の空いた気球を想像し、ポーションを作成した。

 見守っていたユーカリが、何か言いたそうに口を開いたり閉じたりしたのに気がつかず、サリクスは魔法を使い続けた。

 そうして一通りの手順を終え、鍋の蓋を開けてみて、サリクスは驚きの声を上げた。


「あの、これは……」


 サリクスが不安そうにユーカリを見上げる。

 結果がわかっていたのか。彼は苦笑しながら言った。


「まあ、成功ってことで良いだろうよ。売り物にするには、少し厳しい代物だが」


 サリクスが作ったポーションは琥珀色では無かった。

 透明に近い青色で、とても澄んだ液体だった。

 鍋の中で揺れているそれを見ながら、ユーカリは困ったように頭をかく。


「まさかこんな田舎で、上級ポーションが売れるわけないしな。記念に取っておくか」


 ユーカリが作った下級ポーションよりも、数段も効能が高く生産が難しい上級ポーションを、サリクスはうっかり作ってしまったのであった。


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