表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

出会いの、音

 はじめましての方も、お久しぶりの方も、読んで頂き、ありがとうございます。


 『獣憑きの彼を追いかけたら、溺愛されるようになりました』シリーズ三作目です。

 キャラクター達の関係などは、前作を読んで頂けるとよりわかりやすいと思います。

 そちらもどうぞ合わせて読んで頂けると幸いです。


「結婚が決まった!?」


「婚約はしてるって言ってたでしょ。 やっとその気になったってだけよ」


「でも結婚ってことは籍をいれるんでしょ? 苗字は変わるの?」


「それは私じゃなくて宣親の方よ」



 私の前に座り、紅茶オレを飲む彼女は、日上あやめ。

 彼女も弦太くんと同様、邪気祓いを生業にする"鼠"の獣憑きであり、弦太くんと次期頭の地位を争う者の一人だ。

 そしてその婚約者が、椎本宣親。

 彼は私と同じように、日上あやめの邪気祓いの力を回復する事が出来る『"癒やし"の君』なのだ。 

 出逢った頃は対峙していたが、今はこうしてお互いの話が出来る程の関係になっていた。


 そんな彼女達が既に婚約しているという話は知っていたが、あれから二年程経つにも関わらず、まだ籍をいれていなかった事に驚いた。



「周りがやっと宣親の事を認めて、私が家を継ぐって決まったの」



 獣憑きで、邪気祓いをしてきた彼等一族は、その血筋を絶やさない為に跡継ぎ問題も多い様で、日上家も例外ではなかったらしい。 

 日上家には、彼女の他に上に兄が二人いる。

 本来ならば長男が継ぐらしいが、『"癒やし"の君』が現れた場合は例外で、より強い邪気祓いの力を継げるという事もあり、彼女が後継者として名前があがったようだ。


「宣親は私の『"癒やし"の君』でもあるんだからって散々言っても、女の私が家を継ぐってのが気に入らなくて、うちの兄達がなかなか聞かなかったのよ。 まぁ私等の粘り勝ちね」

 

「あやめちゃん、宣親くん大好きだもんね」

 

「バカな事言わないでよ! 大好きとは言ってないでしょ! 宣親とは『仕方なく』なんだから!」


 あやめちゃんが宣親くんを想いとても慕っているのは既に知っている。

 それを真っ赤な顔をして否定する、このツンデレな美少女が、堪らなく可愛くて私は大好きなのだ。 

 この姿が見たくて、つい意地悪を言ってしまうこともある程だ。

 


「ひなたこそ、アイツとまだ結婚しないの?」


 すると矛先がこちらに向いた。 


「私は大学生になったところだし、二十歳まではないかな……」


「年齢なんて関係あるの?」



 アイツ呼ばわりされている私の彼、柳弦太とお付き合いしてることは、既にうちの両親にも報告済だが、結婚するとなると、ごく普通の家庭で育った私には『十代ではまだ早い』となるのだ。 

 父親なんかは特に……。


「そりゃ関係あるよ。 しかもあの『柳家』に嫁ぐ決心がまだつかなくて……」


「あんだけイチャイチャしといて何が『まだ』よ。 ちょっと弦太に同情するわ」



 そんな目で見られていたのか。



 日上家、椎本家等、"鼠"一門を統べる現当主は、『柳家』の柳真白。 そして現時点での次期頭は、息子の柳弦太だった

 そんな立派な家系に、一般市民の私なんかが嫁いでいいものかと、未だに悩んでいる。 



「そんなにのんびり構えてたら、誰かに持っていかれるわよ。 まぁ弦太においてそれは無いだろうけど」


 彼女は少し呆れ顔で、紅茶オレに口をつけた。



「……ねぇあやめちゃん。 結婚式の準備とかはじまったら、また暫く会えなくなる?」 


 私は上目遣いで、彼女の目を見た。


「……どうしても会いたいっ言うなら、仕方なく時間作ってあげるわよ。 だからそんな目で見ないで」


「じゃあまた連絡していい? 相談とか愚痴とか聞いて貰っていい?」


「……ホントに仕方なしだからね」


 彼女は真っ赤な顔をして私から目線を逸らした。




「何が『仕方なし』だ。 一昨日からソワソワしてたくせに」


 彼女の背後から気配なく現れたのは、彼女の婚約者の椎本宣親だ。

 彼もまた端正な顔立ちで高身長の為、今も周囲から熱い視線を浴びていた。  

 


「そろそろ挨拶まわりに行く時間だ。 ひなた、悪いがあやめを借りるぞ」


「予定があったの? こっちこそ時間取っちゃってごめんなさい」

 

「いや、この時間を作るために、必死に予定をこなしてたあやめの気持ちを優先しただけだ。 こちらこそあやめに付き合ってくれてありがとう」


「宣親! そんなことバラさないでよ!」


「本当の事だろう、ほら行くぞ。 じゃあな」


 そう言って宣親くんは、騒ぐあやめちゃんを脇に抱え、そのままスタスタと店を出ていった。


 宣親くんも、あやめちゃんをとても慕い尽くす、頼りになる人だ。

 その二人の結婚が決まったのを知って、まるで自分のことのように嬉しくなった。

 


「私も、弦太くんに会いたいなぁ……」



 二人を見送ったあと、私は一人カフェオレを飲みながら弦太くんの顔を思い出していた。



 実は彼とは、もう一ヶ月近く会えていないのだ。



 仕事の依頼をした李月さんが言うには、今回は都心の方での依頼が重なり、戻るのに時間がかかっているそうだ。 

 比較的穏やかと言われる鼠一門でも多少の揉め事はあるようで、当主の代わりに彼がそれを治めるために出向く事も多いようだ。 

 元気でいるならいいけれど。


 私は彼から貰った、赤い石のついたネックレスをギュッと握った。


 


 すると、隣のテーブルから落ちたペンが、私の方へと転がってきた。



 この一本のペンが、その後私と弦太くんの関係を揺るがすようなきっかけになるなんて、まだ私は気付いていなかった。

 






 


 

 

 

 


 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ