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縁を結ぶ、儀式

 弦太くんも満月さんも助けたい。


 そう決意した私は、真白さんに会ったその日のうちに鈴屋へ駆け込み、李月さんに前のめりで相談を持ち掛けた。


 李月さんは初めは驚いていたが、私の顔を見てクスリと笑うと、色々な所と連絡を取り協力してくれる伝手を探してくれた。

 その協力者の中に、あやめちゃんと宣親くんの名前もあった。


「あんなのに何やられてんのよ!」


 連絡を受けて鈴屋に現れたあやめちゃんは、私を見るなりギュッと力強く抱きしめてくれた。

 宣親くんが言うには今回の話を聞いた直後、あやめちゃんはやっていた仕事を放り出し、鬼の形相で飛び出してきたという。

 『何やってんだ……』と誰に向けての言葉はかは解らなかったが、宣親くんも呆れ顔で溜息をついた。

 

「なぁひなた、さっさと腹を括ったらどうだ?」


「腹を括るって何を?」


 そして私の方に視線を向けると、真剣な顔をして私にある提案を持ち掛けた。


「ひなたが満月より先に弦太と夫婦になれって事だ」


 夫婦になれって、結婚しろって事?

 私は言葉の真意が理解できず思わず固まってしまった。

 

「それ、私も賛成」


 固まる私の横で話を聞いていたあやめちゃん

も、この時は宣親くんと同じように真剣な面持ちで賛成派となり手を挙げた。

 何で乗り気になっちゃうの!


「何なら、あれを二人にやらせる?」


「あれか? まぁあれが一番わかり易いな」


「どうせなら後に引けない位にしちゃおうよ」


 二人は私の意見を聞かぬまま何やら話し合いを始め、『じゃあそういうことで、明日説明に来るわね』と颯爽と出ていってしまった。

 

「いやぁ、久しぶりにワクワクしてきたよ」


 李月さんもニコニコ顔で二人を見送った。

 私は一体何が起こったのか検討もつかず、嵐が過ぎた後のように呆然とするしかなかった。

 そうして用意されたのが、あやめちゃんと宣親くんの、仮の婚礼の儀だったのだ。


 因みに、二人の本当の式は一ヶ月後だ。


 正直こんな大事になるなんて想像もつかなかった。

 突然過ぎて心の準備だって出来ていないのに、結婚式に加えてまさか自分から弦太くんにプロポーズする事になるとは夢にも思わなかった。

 あたふたとする私にあやめちゃんは『コレぐらいしないと連れ戻せないわよ』と耳打ちされ、私は半分諦め顔で白無垢を着ることにしたのだった。


 そして本番当日。


 私はあやめちゃんに教わった通り、彼の前で膝をつき盃を差し出した。


「私を弦太くんのお嫁さんにしてくれる?」


 私は一生分の勇気を振り絞り彼にそう伝えた。

 もう手遅れだろうか。

 それとも断らないでくれるだろうか。

 周囲も動揺しているようだが、私達の動向を見守るように静まり返っている。

 私はその静寂に押し潰されそうになりながらギュッと目を瞑り彼の返事を待った。


 すると彼は私が持っていた盃を手に取ると、中の神酒をぐっと飲み干し、私の顎を掴んでそのまま私に口移しで飲ませた。

 ジリジリと喉の奥が熱くなるのを感じながら、私は朱くなった弦太くんの瞳を見つめた。


「当たり前だろう。 これで俺とお前は夫婦だ」


 眉を下げながら唇に薄っすらとついた紅を指で拭う彼を見て、私はやっと安堵の涙が溢れてきた。


「ちょっと待て!! こんな茶番が許される訳ないだろう!!」


 喧々しい怒鳴り声をあげたのは、満月さんのお父さんだった。


「……よくそんな事が言えるな」


 その声に反応し、彼は私を護るようにして肩を抱き寄せると、鬼面を被ったような顔で睨みつけた。


「あんたが俺にやったこと、そして一般人のひなにやったことは、決して許されることじゃねぇぞ」

 

 その一言には今迄の彼から感じたこともない程の憤りと、殺意が滲み出ていた。

 満月さんのお父さんは少し怯んだが、すぐさま護衛を呼び私達を取り囲んだ。


「まだ力が回復していないお前など、すぐに捻じ伏せてやるさ!」


「へぇ、やれるものならやってみろよ」


 彼は微笑を浮かべ私の肩を抱いている手に力を入れると、反対側の手で空を切るようにして指を打ち鳴らした。

 その直後、私達を囲んでいた人達は小さくうめき声を上げながらバタバタと倒れてしまった。


「なっ……何故……」


「可愛い花嫁のお陰ですっかり万全だよ。 ……いや、それ以上かもな」


 般若の冷笑を浮かべる彼の中でも獣が殺気立っているのか隣にいてもピリピリと肌が痛い。


「さぁ、どう償ってもらおうか」


 今度は矢をつがえる様に彼は指先を満月さんのお父さんに向けた。


「ひぃっ……!」 


 彼の瞳は既に満月さんのお父さんを射貫いているようかの様に鋭く、彼の只ならぬ殺気に恐れてか、満月さんのお父さんはとうとう腰を抜かし座り込んでしまった。

 

「弦太くん、もう止めて!」


 それを見て私は彼の服を掴んで必死に呼び掛けた。 


「あの人は満月さんのお父さんだよ!」


 弦太くんは私の声を聞いて少し肩を震わすと、やっと私の方に目線を向けゆっくりと腕を下ろした。


「そうそう、これ以上片付けなきゃいけない人間を増やさないでちょうだい」  


 声のする方に目をやると、少し離れた所で着物姿のあやめちゃんと宣親くんが、腕を組んでこちらを見ている。


「早く気を静めてくれ。 殺気が異様過ぎて迂闊に近づけんのだ」


 彼らの呼びかけにやっと耳を貸した彼は大きく溜息をつき、少しずつ殺気立つ感情を抑えてくれた。

 その様子を隣で見ていた私も安堵の溜息を漏らし、彼にそっと寄り添った。


「弦太くん、無事で良かった……」


 すると弦太くんは私を包みこむように抱き締めた。


「……不安にさせてごめんな」


 私の肩口に額をつけたまま小さく呟き、抱きしめる腕にグッと力を込めた。

 私もそれに応えるように彼の背中に手を回しギュッと抱き締め返したのだった。

 

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