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現れた、花嫁

 一葉が教えてくれた、あやめ達の結婚式。


 当日俺と満月は、着物に着替え参列していた。

 唐突な話で怪しまれたが、日上家内で挙げる挙式とあって、今後の関係の為章大を含め、監視役がつく事で何とか同意を得た。


 ざっと十人程だ。


 思ったより大した数ではなく、隙を見つけりゃなんとか菱川の家から抜け出す事ができそうだ。


 ただ、問題は満月の方だった。


 今の彼女の力が何処まで強いのか解らない。

 なので、今の俺の力で太刀打ちできるかどうかは未知数だ。


 だがそれ以上に、満月の様子がおかしい。


 六日前『夫婦になってくれ』と告げ、俺と形だけの婚約者となったが、あれから俺に近づく訳でもなく、ただ側に居るだけだった。

 笑った顔もどこか寂しげだったのが気になっている。


 一体何を考えているのだろうか。


 満月は本当に俺との結婚を望んでいるのだろうか。

 そんなことをずっと考えていた。


 式が執り行われる迄の間、俺は周囲の目を盗みながら、逃げ道を確保出来るよう、日上家の中の構造を調べていた。

 

「弦太か、ちゃんと来たのか」


 すると、袴を着た宣親が向こうから現れた。


「あぁ、今回は呼んでくれてありがとな。 あやめとの結婚もおめでとう」


「その言葉、有り難く頂くよ。 だが……」


 宣親は少し険しい表情で俺を見た。


『頼むから、ひなたを巻き込んで揉め事を起こすんじゃない。 こっちはあやめが荒れて大変なんだ』

 

 隣にいる満月に聞こえないよう宣親は小声で会話をする。

 章大の策によってひなたが危険な目にあった事を知った時、あやめもかなり激怒したらしい。

 それを宥める宣親も、大層骨が折れたようだ。


『悪い、今回は俺がしくった。 次はないようにするよ』

 

 すると宣親は、少し驚いたような表情を見せた。


『……えらく素直だな』


『これでもかなり凹んでるんでね』


 俺は苦笑いと共に返事を返した。


『なら、次は選択肢を間違わないようにするんだな』


 一葉と似たような台詞を残して、宣親はまた準備の為別室へと向かっていった。


「何の話?」


 隣にいた満月が、不思議そうな顔で俺に聞いた。


「いや、あやめの話だよ」


 俺は話を逸し、日上家の庭を眺めた。


「章大が決めた俺達の婚礼の儀は、明日だよな」


「そうね」


「本当に、このまま明日を迎えて良いのか?」


「……」


 俺の隣で一緒に庭を眺める満月の顔からは、やはり前向きな感情は見られない。

 だが俺は、満月に気の利いた言葉をかけてやる事が出来なかった。


「そろそろ行きましょう」


「……そうだな」


 話題を逸らすかのように、ふっと満月は挙式の間へと歩き出し、俺も満月の本音を聞けないまま、後に続いた。



 ◇



 雅楽の演奏が始まり、いよいよあやめと宣親の婚礼の儀が始まる。

 明日これを自分がするのかと思うと、かなり複雑な気分だ。

 勿論実感も湧いてこない。

 そんなことをぼんやりと考える俺を置いて、演奏と共に黒紋付きの羽織袴姿の宣親と、白無垢姿のあやめが部屋へ入ってきた。


 だが、何故か花嫁の様子がいつもと違う。

 普段からあやめは気が強く、やることに躊躇いがない為、花嫁になっても凛々しく堂々とした姿が見れるのかと思っていたのだが、何とも淑やかな立ち姿で正直驚いた。

 さすがのあやめでもこの場に緊張しているのだろうか……。

 

 違和感を感じながらも式は着々と進み、いよいよ交盃の儀に差し掛かる。


 一つの盃に神酒を入れ、それを交互に飲み交わすというシンプルなものだが、そこには『結縁』の意味があり、我々鼠一門の中でも重要とされる儀式だ。

 宣親とあやめの前にトンと盃が置かれ、神酒がゆっくりと注がれる。


 すると突然花嫁がその盃を手にし、すっと立ち上がった。

 その行動に、俺も含め周りは驚きの表情を見せたが、この場の雰囲気から何も言い出せないまま、黙ってその様子を見守っていた。


 そして花嫁は、なぜか俺の前で足を止め膝をつくと、手に持っていた盃を俺の前にスッと差し出し、緊張した声色で話しかけてきた。


「弦太くん、私をお嫁さんにしてくれる?」


 そう頬を赤らめて呟いたのは、俺がずっと会いたいと願っていた花嫁姿のひなだったのだ。


 


 


 

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