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止まらない、想いと涙

 私はあの後、他に異常は見当たらなかったので、無事に退院することが出来た。


 そして改めて、一葉くんと李月さんに会いに鈴屋へ出向いたのだった。



 一連の話を聞いた後、一葉くんや李月さんは口数少なく考え込んでいた。


「まぁこれで、菱川家が関わってることが確定したけれど、弦太の方にも問題がありそうだね」


「何かあったとしても、選択肢は間違ってると思うけど」


 いつになく不機嫌な一葉くんが、刺々しく呟いた。


「まぁ、お守りの赤い石を取られたっていうし、もしかしたらひなたちゃんの事で脅されてるのかもしれないから、そう荒ぶるんじゃない」


「……解ってるよ……」


「菱川が関わってるとなると少し厄介だ。 もしかしたら私が弦太に頼んだ仕事が数珠繋ぎになったのも、あちらの差金かも知れない。 私も甘かったな」


 李月さんは溜息をついたが、直ぐに口角を上げて笑った。


「まぁうちのひなたちゃんに手を出したことは許せないからねぇ。 さて一葉、お前はどうする?」

 

「とりあえず弦太を殴ってくる」


「うんうん。 少し手荒いが、それぐらいしても良いかもね」


 何だか物騒な話に進んでいくので私は少し慌てたが、二人は私に何も言わせないかの様に笑顔を向けた。


「ひなたちゃんは何も心配はいらないよ。 弦太(あのバカ)とは温厚に話を進めて来るから」


 一葉くんは李月さんから許可が出たからだろうか、黒いオーラを背負いつつも、久しぶりに嬉しそうな顔をしている。



「今回菱川のやってる事は、僕もちょっと許せないからねぇ。 そして弦太も、一度一葉に叩き起こしてもらったほうがいい」


 李月さんも口元は笑っていても、目が全然笑っていない。


「でも……」


「ひなたちゃんは、この先をどうするのかを決める大事な時だ。 しっかり体を休めて考えておいで」


 そう言って李月さんは、黒い石を使ったブレスレットを私に手渡した。


「あの赤い石には劣るが、君のお守りが戻るまでの代わりだ。 暫くは身につけておくといい」

 

「ありがとうございます……」


「街もちょっと落ち着かないから、真白さんには一応連絡してある。 あの人が直に手を下すことはしないと思うけど、もし何か悩む事があるなら、相談に行ったらいいよ」



 真白さんが戻ってくる。

 そうなれば、この街も落ち着きを取り戻すだろう。 


 

 けれど、真白さんがこの状況で戻ってきたなら、弦太くんと満月さんとの関係は確実なものになってしまうかも知れない。

 

 何せ、満月さんは弦太くんと並ぶような強さをもっていると言うのだから、その二人が結ばれる方が、お互いの家にも有益ではないだろうか。



 何も持たない私なんかより……。


 

 自然と涙が零れてくる。


 黒い靄に取り込まれた部分は、心に住み着いたまま拭えないでいた。


 彼の声が聞きたい。


 名前を呼んでほしい。


 笑った顔が見たい。



 彼を諦めきれない自分が情けなくて、嫌になる。



 この時の私は、彼を諦める為の言葉を何度も何度も自分に言い聞かせていた。 


  

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