表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

奮い立つ、体

 気がつくと、俺の知らない部屋で寝かされていた。



 外は大雨で、部屋の中までその音が聞こえている。


 どうやら気を失ってから三日程経っているようだ。


 邪気祓いの力も残っていない中で獣化した俺の体は、全身に枷を付けられたように重く、動けば節々に激痛が走る。


 よく持ち堪えたな、と思う。

 

 しかしここまで疲弊してしまうと、眠るだけでは枯渇した力は殆ど回復出来ない。


 ひなの力が無ければ、まともに動けるに二週間はかかるだろう。 

 

 厄介な事になってしまった。


 


「起きたのね。 体の具合はどう?」

 

 俺の心配をして側にきたのは、満月だった。


「……何とか動くよ」 


 俺は体を起こし、腕を動かして見せた。




 という事は、どうやらここは菱川家の仮住まいのようだ。




 満月の家にいるという事は、俺はあの時満月に負けたのだろうか。



 どうしても三日前の事が思い出せない。



 ひなに近づこうとした満月に対抗出来るよう、俺は獣化して止めに行った。

 そうでもしないと、僅かだった俺の力では、満月に敵うかどうかわからなかったからだ。


 けれど、それも後少しというところで、俺の記憶は途切れている。 



 その時の記憶が、ハッキリと思い出せないのだ。


 

 満月の顔を見ても、彼女の表情は何故か乏しく読み取れない。

 泣いているようにさえ見える。 


 聞き出すなら、少し時間をあけてからが良さそうだ。

  


「弦太、お願いがあるの」


 すると、俯いたままの満月が口を開いた。


「何だ?」


「私と夫婦になって」


「…………え?」



 

 悲しげな顔をして話す満月の突然の申し入れに、俺は動揺が隠せなかった。



 

「ちょっと待て! 何でそんな話が急に出てくるんだよ」


 

「ずっと好きだったの!!」



 満月はそう言うと、ポロポロと涙を流し始めた。



「子どもの頃から、ずっと弦太の事を想ってたの。  稽古場に来てくれなくなったのは自分のせいだって解ってる。 でも、どうしても忘れられなくて、どうしてもあなたを手に入れたくて、私……ごめんなさい……」



 そして満月は、体が思うように動かせない俺に抱きついた。



 肩を震わせて泣いている姿を見ていると、強いと思っていたのは俺だけで、実際はひなと同じ、中身は普通の女の子なんだと気が付いた。


 けれど、俺は満月を抱き締め返す事は出来なかった。

 

「悪いが諦めてくれ。 俺にはもう決めた人が居る」


「……ひなたさんの事?」

 

「あぁ」


 



「それももう終いだ」


 続けて部屋に入ってきたのは、満月の父親、菱川章大だ。

 昔から何を考えてるのか読めなくて、好きになれない人物だ。

 唯一わかっていたのは、満月を押し潰してしまいそうな程の期待を彼女に背負わせていることだった。


「章大さん、終いって、どういうことですか」


「君はもうひなたさんには会えないということだよ」


「……何を言ってるんです?」


 ひなの名前も知っている。

 そして挑発ともとれる発言に、俺は少し苛立った。 


「これを預かってね」


 そう言って、ひなが持っているはずの赤い石のネックレスを俺に見せた。

 いつの間にか、ひなに接触していたのか。

 

「なかなか威勢のいい子でとても魅力的だったよ。 だが所詮何の力もない一般人だ。 君が獣化した時の話をしたら怖くなったのか、逃げ出してこれを捨てていったよ」



 章大の話に、俺は思わず耳を疑った。

 


 俺が獣化して満月と闘っていた時、俺を止めるひなの声が微かに聞こえた気がした。

 記憶は朧気で、本当にあの場にひながいたかは解らないが。

 

 だから章大の話は信用しきれない。


 だが、満月ですら怖がってた獣化(あのすがた)だ。

 逃げ出してもおかしくはない。



 俺は頭を抱えた。



 そんなはずはない。

 彼女だけはそうであってほしくない。

 じゃあ章大があの石を持っているのは何故だ?

 考えれば考える程、思考が悪い方へと向かっていく。



「弦太……」


 隣で満月が心配そうに、俺の腕に手を添えこちらを見ていた。


「そういうことか……」


 俺は満月の手を振り払い、章大を睨みつけた。


「俺とひなの関係を壊して、満月と結婚させようって魂胆か。 相変わらず人の事なんかお構いなしか」


「人聞きが悪いな。 かわいい娘の為にしてやった迄だ」


「何だとっ……!」


 すると、俺は章大に胸ぐらを掴まれた。


「父親になろうかという人に何て口を利くんだ。 躾がなってないな柳家も」


「俺の家族すら侮辱するような奴、父親と呼べるか!」


「お願い、やめて!」


 満月が慌てて間に入り、やっと章大の手が離れた。


「……力も残ってないお前など恐れる事もない。 さっさと諦めて満月と夫婦になれ。 婚姻の儀は一週間後だ」


「はぁ!? 何だその話は!」


「勿論、拒否すれば、わかってるよな?」


 章大は、赤い石をちらつかせて俺を見る。


 あの石を持たないひなは、無防備に近い。

 元々引き寄せやすい体質だ。

 章大が手を出さなくても、悪い事に巻き込まれる恐れがある。


「婚姻の儀が滞りなく済めば、コレも彼女に返してやろう」



 今は、打つ手が無いのか。



 いや、考えればきっと有るはずだ。


 『彼女の手を離さない』と決めた。


 彼女が俺から離れても、命懸けで守ると決めた。


 なら、このまま時が経つのをただ待つわけにはいかない。


 だから思考を止めるな。


 こんなことで、俺を飼い慣らせると思うなよ。



 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ