降り続く、雨
一葉くんが私を抱き締めたまま、動かない。
心配をかけてしまって申し訳なかったが、これ以上はさすがに恥ずかくなってきた。
「一葉くん……あの……」
私が声をかけると、慌てて一葉くんが手を離した。
「あ! ごめんっ!」
一葉くんが真っ赤な顔をしている。
いつもかわいい顔をして笑うのに見慣れていたので、こちら迄つられて顔が赤くなってしまった。
私は何とか気まずい雰囲気を変えようと話題を探していると、先に一葉くんが切り出してくれた。
「黒い靄に取り込まれるほど、悲しい事があったの?」
その言葉を聞いて、私は靄に取り込まれる前の事を思い出した。
弦太くんは生きているが、まだ動けないでいること。
その彼が、何故か満月さんの婚約者になったこと。
満月さんの父親に会ったこと。
お守りだったネックレスを取られてしまったこと。
その直後に黒い靄に飲まれたこと……。
思い返せば、悲しい事だらけだ。
何から話せば良いのかわからない。
私はギュッと口を噤んた。
「……無理はしないで。 眠れないかもしれないけど、今はしっかり休みなよ」
私の顔を見て何かを察したのか、そう言って一葉くんは、私の頭を撫でた。
すると、その拍子に心が少し解れたのか、口にしなくない、でも一番聞いて欲しかった言葉が零れ出た。
「……弦太くんが…………」
「弦太がどうしたの?」
「弦太くんが、満月さんの『婚約者』になったって…………」
「え……?!」
やっと吐き出せた言葉に吊られて、目から涙も溢れてきた。
堰を切ったように泣きじゃくる私を、一葉くんは隣りで頭を寄せて宥めてくれた。
「今は泣いていいからね。 落ち着いたら、また話聞かせて?」
そう言って、しゃくり上げる私の頬を撫でて、涙を拭ってくれた。
「でもお母さんが心配するから、程々にね」
少し困った顔で笑う一葉くんを見て、申し訳なくなって唇をギュッと噛んだ。
それでも涙は止まらない。
止め方も、わからない。
思い出がバラバラの欠片になって、心に深く突き刺さる。
雨が止まない。
すっかり心が冷えて、私は動けなくなってしまった。




