6月25日 聖淮戦7
昨日の疑問だった部室の落書きを、野球部みんながいる前で聞いたが、誰も首を縦にふる者はいなかった。なんとも不気味だが、どこかで俺たちを勇気づける言葉でもあった。
ー6月19日ー
試合は、7回裏へと入っていく。淮南高校は、7回表に待望の先制点をあげ、盛り上がっていた。マウンドには、この回も湯浅が上がった。180cm近くから投げるストレートは、とても威力があった。この回は、7番の安田から始まる。湯浅は、左足を大きくあげ、グローブから腕をふりあげる。その腕から放たれた直球は、とても速かった。
安田は、全てストレートで三球三振。ここまで、湯浅に対して全て三振に終わっていた。特に、佐伯、安田は全くタイミングがあっておらず、打てそうにもなかった。聖徳高校のベンチも沈みかけていた。
聖徳高校の攻撃は、"8番セカンド定本くん"。打席には、今日二塁打1本の健太郎が入った。さらに、ネクストバッターサークルには、田中が出てきた。
ドンドン、パ。ドンドン、パ。ドンドン、パ。健太郎の打席の曲が流れる。ベンチからも、仲のいい橋本、永谷が声を出す。
健太郎は、いつものようにバットを高くあげる。俺は、自分のバットを持ちながら健太郎を見つめていた。淮南高校の湯浅は、三振をとった勢いそのままに、健太郎にもストレートを投げこむ。健太郎もバットを出すが、ボールには当たらない。簡単にツーストライクと追いこまれた。迎えた第3球目。湯浅は、初めて変化球を投げた様だった。
ストレートより遅いスピード。ボールは、少しずつ落ちてくる。そして、健太郎のバットの下を通っていった。「走れ!!」。ベンチにいた川中が大きな声を出した。バットの空を切ったボールは、キャッチャーのグローブにあたり横に弾いた。ボールは、一塁側ベンチの方に転がっていく。キャッチャーは、必死に取りに行くも、健太郎の足が速かった。
「よっしゃー!!」。健太郎のガッツポーズにベンチは、盛り上がっていた。「続けよー」。橘は、前のめりになりながら、声を出す。監督は、どのタイミングで交代を考えているのだろうか。ブルペンでは、葛西と竹田が投げ続けている。
"聖徳高校、選手の交代をお知らせします。9番、小川くんに変わりまして、田中くん"。1死1塁で、田中がアナウンスされた。1点をとられているだけに、手堅く送りバントをするのかと思っていたら、監督のサインは"打て"。この作戦が吉と出るか凶と出るだろうか。俺は、ベンチ横で素振りを始めた。あと一人塁にでれば、俺に回ってくる。
湯浅は、初球からストレートを投げこんだ。1年生の田中は、そのストレートをキレイにレフトへ流し打ちをした。ボールは、レフトの前に落ち、チャンスを広げるかたちになった。1死1.2塁で1番の侑大に打席が回ってきた。