6月22日 聖淮戦4
俺は、朝から、橘が投げたボールを打っていた。朝練なので、他の部活も練習していない。そのため、思いっきりバットを振り、外野にボールを飛ばすことができた。外野からは、橋本や山田が叫んでいた。
ー6月19日ー
5回裏、聖徳高校の攻撃は、"8番定本くん"。ベンチは、多いにお盛り上がる。健太郎は、決して野球が上手いわけではないが、努力でレギュラーを掴み取った。決して、派手さはないが、地道に素振りを続けている姿勢を見ていた。特に、肩は、エースの橘を越える最速135kmを投げるまで成長した。3年生の野球部員は、不器用だが愚直で真面目な健太郎が大好きだった。
そんな、健太郎が打席に入った。ドンドン、パ。ドンドン、パ。ドンドン、パ。足音ともに声援が高まる。スタンドでは、1.2年生が健太郎のテーマソングを歌いながら、見守っていた。健太郎とは、1年生の頃からずっと二遊間を組んでいた。それだけに、この"聖淮戦"で一緒に出場できることは嬉しかった。俺は、バットを取り出し、座りながら、試合を見つめていた。
セカンドには、同じ3年の飯田、2年の長井、1年の田中と4人でレギュラーの座を争うかたちとなっていた。昨年の夏までは、健太郎がレギュラーとして出ていたが、春からは、飯田、長井がスタメンで出場する機会が増えていた。
淮南高校の佐藤は、初球ストレートを投げこんだ。健太郎は、そのストレートを見事に右中間に運んだ。打球は、ライトとセンターの間を抜けていく。健太郎は、一生懸命走る。ボールに追いつた頃には、セカンドベース付近にいる。3塁コーチ飯田は、必死に手を回す。手を回していることに気づいた健太郎は、セカンドベースを踏んで、3塁へ向かう。
淮南高校は、ボールを捕ったライトの南から、セカンドの堀へとボールが渡る。セカンドの堀は、サードベースに向かって鋭いボールを投げた。健太郎は、ベースに向かって、ヘッドスライディングをした。サードのタッチとほぼ同時だっただろうか。ベンチ全員が三塁塁審に目を向けた。
「アウト!!」。スタンドにいた観客は、声援から一気にため息へと変わってしまった。健太郎は、悔しそうにベンチに戻ってきた。俺は、無死2塁だったら、どうなっていたのだろうかと少し考えてしまっていた。そんな俺とは、対象的にキャプテンの川中や橋本は、ベンチから大きな声援を送っていた。しかし、9番小川は、ライトフライ。1番侑大は、ショートゴロでチェンジとなった。
五回が終了し、グラウンドには、聖徳高校と淮南高校の1年生がグラウンド整備をし始めた。チャンスを作ることはできなかったが、グラウンド整備でしきなおしになる。俺は、サードの佐伯とキャッチボールをしながら、グラウンド整備の状況を見守っていた。