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真生が首を横に振るのを確認したテネスは言葉を続けた。
「魂の休息、それは〝無くなったものを補う為の術〟です」
「無くなったもの・・・?」
「先程我が君は〝記憶〟と仰いました。恐らく無くしたものは〝我が君、魔王様の記憶〟でしょう」
テネスの言葉にその場の空気が震えた。
記憶、それを補うために新たな記憶を作ったというのか。
「我が君程の御方でしたら、例え身体と魂が離れていようとも自然と身体は魂を求め、魂は身体を求め次第に一つとなるのです。しかし、魂は異界の狭間に囚われたまま100年も過ぎてしまった。そして何故異界の狭間に魂が囚われそのままだったのか。それはとある人物の所為だよね、エルガ―君」
話を振られたエルガ―はこくりと頷いた。
テネスの話をそのまま引き継ぎ言葉を紡いだ。
「全ては聖女によるものです」
「聖女・・・って」
「聖女は神力を使い、生まれたばかりの魔王様の魂と身体を引き離しました。聖なる力により、魔王様の魂は一部浄化され力が弱まってしまった為に・・・異界の狭間に囚われたままとなってしまいました」
聖女により身体と魂を引き離され、その際に魂は一部浄化されてしまった。
その浄化されたものが〝魔王の記憶〟
それを補う為に〝魂の休息〟で新たな記憶を作った。
そして最悪な事に浄化された為力が弱まり魂は異界の狭間に100年囚われたままとなった。
確かにそれであれば説明が付く。
作られた記憶なら違和感あるのも当然の事。
〝足りない〟と思っていたあの感覚は身体と魂が離れていたから。
帰ってきたと思ったのは当然だろう。ここが本来の場所なのだから。
「魔王の記憶って例えばどんなことですか?」
そう言えばと、軽い気持ちでテネスに問う。
何せ魔王の記憶なのだ。どんな内容なのか気になるだろう。
「本来ですと破壊衝動から始まるでしょう。この世界を混沌に堕とし、」
「あ、やっぱ大丈夫です。有難う御座います」
記憶無くて良かったなと思う真生であった。
例えその破壊衝動云々が〝正常〟なのだとしても、自身が過ごした・・・作られた記憶だとしていても平和で穏やかな日常を知っている分、余り関わりたくない過激なものだ。
聞かなかったことにしよう。と直ぐさま記憶の彼方へと飛ばした。
「魔王様、近い将来聖女の名のもとに勇者を率いて魔王様が目覚めぬ内にと討伐を企て、全てを蹂躙し他種族をも人間の支配下にする大規模な殺戮が始まります・・・正義を免罪符にして」