力の代償
ああ
苔の生えた古い遺跡の中を進んでいく。
遺跡の中は薄暗く、綺麗で神聖な雰囲気をしている。
だが、その先に待っているのは人々を恐怖のどん底に叩きこんだ魔王だ。
黒い鎧に槍を携えた魔王は、ただならぬ気迫を醸し出していた。
「よく来たな勇者よ?!」
目が合うと同時に問答無用で斬りかかる。
「死ね!」
「ちょっ!まて!話をしてる最中だろ!!」
こちらの剣を魔王は槍で受け止めた。
「うるせぇ!早く死ね!!」
魔王の腹を蹴り上げ、怯んだ瞬間、首を掴んで地面に叩きつける。
「貴様!!人の話は最後まで聞けと義務教育で習わなかったのか!!」
「テメェは人じゃねぇよ。糞が。」
剣を投げ捨てて馬乗りになり、ナイフを振り上げる。
馬乗りの体制では、剣よりナイフの方が殺しやすい。
「勇者ぁああああ!!」
ナイフを連続で振り下ろしまくる。
ナイフを魔王に突き刺すたびに、当然だが血しぶきがあがる。
「勇者!!お前臭いぞ!さては風呂に入ってないな!」
「誰のせいだと思ってんだクソが!。いいから早く死ね。頼むから死ね。金払うから死ね。」
ナイフが魔王の喉に突き刺さった。
魔王は悶え苦しみながら絶命する。
死んだのを確認してから立ち上がり、剣を拾い上げて遺跡を出た。
拠点にしている村の村長から貰った地図を開いて、地図の現在地に当たる場所に☓印をつけた。
☓印は、地図を埋め尽くすように大量につけられており、今ので大体、百五番目だ。
☓印は現時点で殺してきた魔王やら、ドラゴンやらの生息地を意味している。
地図を開いたままメモ帳を取り出して開くと、そこにはページぎっしりの依頼が書かれていた。
「あークソ。まだこんなにあるのかクソが。」
ここまで俺は、たった一人で、数ヶ月間、その辺の見たことない草を食いながら、ろくにシャワーも浴びず、不眠不休で、魔王やドラゴンを片っ端から殺しまくってきた。
疲労は当然限界に近く、今すぐにでも帰って寝たい。
だが、そんな事をしたら魔王や魔物よって拠点にしている村は燃やされてしまうので休めない。
ため息をついて、再び走り出す。
こうなったのを説明すると数ヶ月前に遡ることになる。
「えーと…」
「…」
「とりあえずすまん。」
「…」
薬中が運転する車にひかれて死んだ。
体中の骨を螺旋状になり、頭からは脳味噌が飛び出して、腹からはぐちゃぐちゃに混ざった内蔵が出ていたという。
苦しむ暇もなく死ねたのは幸いだった。
そして気がつくと真っ白な世界に俺はいた。
目の前には神を名乗る変人が居るが、状況的にこの白髪のおっさんが神だと信じざるおえない。
「いやーごめんなぁ。ノリでお主の運命を狂わせちまって!」
「あー要するに酒飲んだ勢いで殺っちまったと?」
「そーだよ!理解が早くて助かる!」
「あんたを殺してやろうか?」
言葉では、反省している様だが、目が笑っている。
こっちは人生を終わらせられたと言うのにふざけた野郎だ。
怒りがこみ上げてくる。
「そうかっかするでないわ!最近の若者はあれじゃろ?異世界とか好きなんじゃろ?」
「あ?何言ってんだジジイ。あんまふざけてっとその白髪抜いて食わせるぞ。」
何が異世界だ。バカバカしい。
そんな中二病全開で、便所に流した糞ほどどうでもいい物でごまかせると思ってんのか?
「借りにもわしは神じゃよ!そんな言い方していいのか?」
「少なくとも酒の勢いで人一人ぶっ殺したやつを俺は崇めたくねぇよ。クソが!テメェは神なんだろ?だったら俺を生き返えさせろよ。」
「それは掟に背くからだめじゃ。」
「分かった。じゃああんたを殺して掟をぶっ壊す。」
神はため息をついて面倒くさそうに言った。
「分かった分かった。チート能力も付けてやるからさっさと行け。」
「あ?まだ話はおわt」
それから気づけばそこはなろう系作品で義務教育を終えた神もどきが作ったであろう異世界で、俺はチート能力を持っていた。
ああ